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魔王さま降臨編
魔王さまの、本音? ②
しおりを挟む「かといって、魔界へお連れする訳にもいきませんし……アガリアレプトを召喚しますか?」
「来ぬだろう」
「あなたからのお召しであれば、奈落の底に在っても飛んで参りましょう」
「だが、アレは貴様とは別の意味で煩いからのぅ」
ルーキフェルがコアラのように私の腕に抱きつきながらぼやく。頭に乗っかられていた時のように重さを感じないのは、彼がまだ浮いているからだろう。
魔界に連れていかれてしまうのは困るから、その案はそのまま流して貰うとして。どうして二人は私の傍にいてくれようとするのだろう。
「……楔、の所為?」
「うん?」
「ルーキフェルや先生が、私を一人にしないって言ってくれた理由」
魔導書の一件などで問題を抱えてしまったことで、今後のことを話している二人が考え込むのを邪魔してしまうことを承知で、それでも訊かずにはいられなかった。
ルーキフェルはあどけない表情で私を見上げ、先生は目を眇めて私を見下ろす。
「――こんなところで立ち話するより、先ずは座らせて貰っても宜しいですか? 腰を落ち着けて話しましょう」
「あ、はい。すみません、どうぞこっちです」
言われてから、それもそうだとリビングのソファをすすめる。
ルーキフェルが先生にぷにっ子にならないと入ったら駄目だとか言うけれど、鼻で笑って知らんぷりだ。
何か言いたげに私を見つめていたルーキフェルは(多分、私が先生に強要しないのを怒っているか、素直に従ってしまっている自分を悔しく思っているのだろう)、すぐに少年の姿に変わってしまう。
せめてルーキフェルだけでもぷにっ子でいてくれてると、精神的に楽だったのだけど、何も言えない。
取敢えず、来客を座らせたら飲み物だけでも用意しなければならないという暗黙のルールにより、先生にはアイスコーヒーを、ルーキフェルには今回はアイスココアを提供する。
「ところでルーキフェル。結菜さんの頭を利口にする方法はありませんか?」
「何だ、それは」
アイスコーヒーと一緒に出した角砂糖とミルクには手を出さず、一口分喉を潤してからの、先生の開口一番が酷かった。
先生が使わなかった角砂糖を、アイスココアに投入しようとするルーキフェルの手を止めて取上げ、テーブルの隅に置き直す。
「ふむ。確かに、このように我に意地悪を働く結菜は、利口とは言えぬな」
「意地悪じゃないよ。先生のはコーヒー。ルーキフェルのはココア。甘いのだから砂糖入れなくて大丈夫なの」
「ならば貴様のと交換だ」
「えー」
ミステリーとかじゃないんだから、毒を混入させられることを警戒してるみたいな真似しても意味ないのに。だいたい、本当にミステリーだったら、交換して毒入り引いちゃうパターンだよ?
グザファン先生も呆れてるに違いない。そう思いながらチラリと見ると、何だか苦々しいような表情だった。美しいと敬愛して止まない姿で、子供っぽいことをされたのが気に入らないのだろう。
「ルーキフェル。結菜さんは、控え目に言ってあまり賢くない頭の所為で、わたしたちの善意を『楔の所為』などと言ったのですよ? まさか、堕天使に善意など持ち合わせている筈もないと言いたい訳ではないと思いますが、どちらにせよ踏み躙られているのですよ、あなたの想いまでも」
「そうなのか?」
「っ」
ルーキフェルが身を乗り出して私に顔を近付ける。
至近距離で真顔で見つめられたら、頭の中が真っ白になってしまう。
「そ、そういうことじゃなくて」
目を逸らすとその方向に顔を寄せられ、顔を背けると顎を掴んで戻される。
「結菜」
「はいっ?」
「貴様はもう少し、自分の欲求に従え」
「……?」
「自分の価値を知り、求めるより先に諦めることを止めるのだ」
えーっと? どうしよう。何でそんなこと言われるのか、分からないよ。
「自分の価値を理解出来ぬならば、我の言葉の全てを信じ、疑念を捨て去れ」
「……」
「あなたは何も考えず、否定せず、拒まず。馬鹿みたいにルーキフェルの言葉を鵜呑みにしていればいいのですよ」
先生、それはやっぱり酷いです。
「我は人を試し、騙すこともある。だが、貴様への想いに偽りはない」
「――!」
「初めは貴様に対し、哀れみがあった。人が最も抱かねばならない感情の欠乏。普通に、ただ生きているだけならば足りていないことに気付かぬだろう。飢えていることにすら気付かず、自分から手放そうとする。だがそれでも、自身が瀕死に喘いでいる中で、他者の無事を祈るように、貴様は我に注ぎ続けてくれていた。そんな結菜を、我は愛しいと想う」
…………。
「我の言葉は、届いておるか? 聞き流すことなく、その魂に刻み込まれなければ、ただの戯言になってしまう」
ルーキフェルが床に膝をついた。
私の手を取り、甲に唇を――。
「結菜?」
「……」
呼ばれてハッとなった時、ルーキフェルが私を心配そうに見下ろしていた。
さっきは私が見下ろす形になっていた筈。
ということは、さっきのは夢? 何処からが夢? 何て恥ずかしい夢みてたの、私っ。
「夢ではありませんよ」
「へっ?」
グザファン先生の言葉に、心の中を読まれたのかとドキリとする。
「夢を見ていたような顔をしていましたからね。確かにあなたにとっては夢のような話でしょうが、真面目に告白していたルーキフェルに対して失礼ですよ」
「え、えと……?」
怒ったような困ったような、そんな口調で先生に言われ、もう一度ルーキフェルを見上げる。
「これから慣れていけばよい。貴様が注いでくれた分以上の愛情を、我が注ぎ続けてやろう。欠乏などはさせぬ。寧ろ、溺れさせてしまうくらいが丁度良いのだろうな」
先生もいるのに、臆面もなくそう言うルーキフェルに、私はただただ混乱して、真っ赤になっているだろう顔を両手で隠すことしか出来なかった。
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