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魔王さま降臨編
魔王さまと、先生と……?
しおりを挟むルーキフェルとグザファン先生は、私の両親のことについて聞き知っていたらしい。
聞いた相手というのがお母さんや宮森さん本人であることにはビックリしたけど。
無理矢理聞き出したんじゃなくて、ルーキフェルの「存在を受け入れさせる力」によるもので、ルーキフェルが私と同じクラスに在籍していると知ったからか、自分から話始めたらしい。
本当はあまり知られたくないことだった。だけど、私が一人でいる理由を――私の魂が孤独を選んでしまう理由を、彼らは知りたいと……知らなければならないと思ってくれた結果だった。
「もっと我儘を言ってくれて良かったんだ」
そう宮森さんは言っていたらしい。
「僕の娘になって欲しかった。僕は家族というものと縁遠かったから、結菜ちゃんが望んでくれるなら、血の繋がりなんて関係なく、親として見守り続けていたかった」
そんな、夢みたいに優しい言葉を貰える立場だろうか。だって私は、宮森さんを裏切った人の娘なのに。
「結菜が恐れている以上に、父と母は結菜との別れを恐れている。高校を卒業するまでという期限で二人の子であろうとしているのは、その後でどちらかを選ぶ為ではなく、どちらをも選ばぬつもりなのではないかと」
「!」
「今はそのようなつもりではないのやもしれん。だが、結菜の魂は結果的に人を拒む方へ物事を進めてしまう。繋がりを求めながら、今、こうして一人で生きていく演習をしているのがその証拠だ」
「……」
「自覚はないのでしょうが、実際一人で暮らしている訳ですから、ある程度のことは身についているでしょう。あなたの母親がなけなしの貯金を崩しながら、あなたに毎月の生活費を工面しているのは、何故だと思います?」
「――」
「アルバイトをさせないように、ですよ。あなたが働くようになったら、自分はもう必要なくなってしまうと考えたのでしょうね」
「……っ……!」
グラリと視界が揺れた。
一気に込み上げた涙で滲むそこに、ルーキフェルの顔が迫る。
「結菜」
名を呼ぶ声の優しさに、胸が震えた。
私は、何をしてきたのだろう。何を考え、なんて酷いことをしてしまったのだろう。
家族という繋がりを壊してしまったのは、私だった。それなのに、二人の気持ちをちゃんと考えもしないで、勝手に決めつけていたなんて。
「我は結菜を離さぬ。孤独の闇に落ちようとする貴様を、我が引き上げてやるのだ。我が名の元に結菜に光をもたらさん」
額に温もりを感じた。
涙をそっと拭われると、間近にルーキフェルの美しい顔がある。
「……で、も……魔界のことは、どうするの……?」
伸ばした手がルーキフェルの腕に触れ、縋るように掴みながら尋ねる。
「急くこともあるまい。確かに危急のことかもしれんが、我は有能な者を控えさせておるからの」
ニヤリと笑うルーキフェル越しに、グザファン先生の溜め息が聞こえた。
「そうですね。結局わたしが動くことになるのですよね。大事なお二方の為に働くのはやぶさかではありませんが」
失礼、と続いた声と共に、先生が私の背後に回ったかと思うと。
「ん……っ……?」
「あっ、貴様!」
首筋を軽く咬まれた。
多分。咬まれたんだと思う。
曖昧なのは、一瞬のことだったからで、触れてみても痕のようなものは分からない。
ルーキフェルがグザファン先生を追いやって、私を抱き締め、ごしごしと手の甲で首筋を擦ってくる。
「全く、油断ならぬな」
「わたしも結菜さんと繋がっておりますから、少しばかり回復させていただいても構わないのではないですかねえ」
「今することではなかっただろう」
「ルーキフェルこそ、わたしがいると承知で色々されていたではありませんか。あのように見せつけられては、こちらとしましても何もせずにはいられませんでしたので」
「我と競うつもりではあるまいな?」
「さて、どうでしょう?」
ルーキフェルとグザファン先生が、まるで私を取り合っているかのような言い合いを聞きながら、私はお母さんたちに謝らなければならないと考えていた。
それから、二人に。
「有難う」
急に言ったから、二人にはキョトンとされてしまったけれど、すぐに察してくれて笑顔になる。
「当然のことだ」
「あまり一人で考え過ぎるものではありませんよ。あなたの頭の中身が残念だからではなく、考えるだけで答えが出る問題ではないのですから」
得意気な表情になるルーキフェルはともかく、グザファン先生はちょっと酷かったけど、それでもやっぱり、二人の気持ちがとても嬉しかった。
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