可愛すぎます、魔王さま!

織月せつな

文字の大きさ
23 / 25
魔王さま降臨編

オマケの魔王さま!

しおりを挟む
 あの日、ルーキフェルと出会わなかったら。そうしたら私はどうなっていただろう。もしもの私は、今この時、幸せだと感じられる日に感謝出来ているだろうか。

「あの……先生」
「ここは学校ではないのですから、その呼び方はやめていただけませんか?」
「じゃあ、グザファン、さん」
「――ルーキフェルは呼び捨てにされるのに、何故わたしにはそのような他人行儀な呼び方をなさるのです?」
「うう。えと、年上だからです」
「それを仰有るのであれば、ルーキフェルもあなたが幾度も生まれ変わる前から生きておりますが」
「! ……実はおじいちゃ――すみませんっ」

 堕天使でも「おじいちゃん」と呼ばれることに抵抗があるらしい。ガシリと頭を掴まれて、慌てて謝る。
 実のところ、おじいちゃんどころではないのだけれど、今の見た目が麗し過ぎるから、例えば数百歳ですとか言われても冗談にしか思えない。
 魔界からの再臨早々、グザファン先生は何故か一匹の犬を連れて来ていた。
 なんかもう、スゴく大きい子だ。ハスキー犬を更に一回り大きくさせた感じの見た目だけど、その背中に黒い翼がちょこんと生えている。
 うん。オモチャみたいにちょこんと。
 そしてその大きい子が、現在絶賛夏バテ中で魔力回復が追い付かないルーキフェルを襲撃中だったりする。

「やめろ、やめるのだ、暑苦しい!」
「わふっ、わふっ」
「ぎゃああ、顔を舐めるな! 舐め……っ……ぐぅっ……!」

 カッと見開いた目を、多分グザファン先生に向けたようだったから、助けを求めたのだろう。けれど、大きい子の力に押し負けて頭をゴチンとして倒れたかと思うと、そのまま動かなくなってしまった。

「ルーキフェルっ!?」

 さすがに眺めている訳にもいかなくなって駆け寄ろうとすると、大きい子がグルルッと唸り声を上げてきた。
 ひぃっ、と小さく悲鳴を上げて立ち止まる私。

「そこまでにして差し上げて下さい、アガリアレプト。あなたの敬愛される主が虫の息になるのを望んでいるのですか?」
「わふっ?」

 グザファン先生も私と同じ気持ちだったのだろう。そう言ってアガリアレプトなるその子を手で払う仕草をする。

「ぎゃんっ?」

 大きい子は先生から視線を逸らすように、自分の足元を見下ろし、その大きな体で小さなぷにっ子ルーキフェルを下敷きにしていることに気付き、絶命するような悲痛な声を発して飛び退いた。

 ……アガリアレプト? なんだろう。聞き覚えがあるような……ないような。

「おや、結菜さん。あなたの石ころばかり詰めたような頭でも、多少の記憶力はあるようですね」
「石ころなんて詰まってません」
「比喩ですよ? 本当に詰まっていたら、残念ながらお亡くなりになってますよ、あなた」
「うう。いじめっ子め」

 声に出していたのか、私が大きい子の名前に覚えがあることをいじられ、うっかり忘れそうになったルーキフェルをそっと抱き上げる。

「ルーキフェル」

 どの辺りをぶつけたのだろうかと、怖くて頭に触れないようにしながら膝の上に座らせる。ちょっと翼が邪魔くらいにしか思わなかったけど、その翼の所為かルーキフェルの背中は汗でびっしょりだった。

「ルーキフェル。そのまま目を開けないつもりでいらっしゃるなら、あなたのことはアガリアレプトにお任せして、結菜さんと出掛けることに致しますが、宜しいですね?」
たわけ。宜しい訳がなかろう」

 先生の言葉に見事に反応したということは、心配しなくても全然平気だったのかな。
 あと、目を開けてくれたルーキフェルに舌打ちするのはやめて下さい、先生。

「全く……我をほふるつもりか? アガリアレプト。魔導書の一件を揉み消すつもりではあるまいな?」
「くぅん……」
「ふん。我に会えたのが嬉しいだのと世辞を言っても聞かぬぞ」
「きゅぅん、きゅぅん」

 ……どうしよう。小さい子が大きい犬を相手に偉そうにしている様子に、何故か萌えます。

「あ、そっか。グリムワール」
「グリモワールですよ」
「っ、ですね!」

 沙藤檸檬さんが持っていた魔導書の件で、魔界に帰るとか帰らないとか言ってた時に、アガリアレプトという名が出ていたことを思い出した。
 言い間違えただけなので、指で頬にバツ印を書かないで欲しかった。

「事後承諾で大変申し訳ありませんが、こうして彼がついて来てしまいましたので、わたし共々魔力供給の方などでお世話になります。いえ、わたしに関してはあなたのお世話をさせていただくこともあるかと思いますが、あまり気になさらなくて結構ですよ」
「えっ? 犬、ですよね?」

 後半部分は聞かなかったことにして、お許しを貰ったのか、冷房が直にあたるところに移動した、ルーキフェルの枕になっているアガリアレプトを見る。

「そうですねえ。魔界では一応人の姿をしておりましたが、それでも時折あのような姿に変わってしまうので、今は言い繕うのも無駄な程に犬ですね」
「ペット用品、買いに行かないと何もないです」
「荷物係ならば、お任せ下さい」

 ペット扱いした私に何か一言あるかと思ったけれど、先生は何故かご機嫌で私の肩を抱く。

「! 我も、我も行くぞっ」

 ガバリと起き上がるルーキフェルだったけど、窓の外の眩しさ――本日の気温は38度――に、げんなりした表情になった。

「わふっ」

 アガリアレプトが外に行きたそうにルーキフェルの服を咥えて引っ張る。

「暑いのは苦手でしたか? 熱砂地獄もいとわなかったあなたでしたのに、陽光の強さには敵わぬなど。これも神が下した罰ですか」
「ルーキフェル、冷凍庫にアイスあるから、それ食べて待っててね。アガリアレプト……さん? も、食べられるなら食べていいけど、全部は駄目だよ。お腹壊しちゃうからね」

 言い置いて、お財布を掴み、帽子と日傘を手に外へ出る。

「ううっ、暑い……」
「あなたも神の罰でも?」
「違います」
「仕方ありませんね」
「!」

 言うと、グザファン先生の手が私の手を握る。
 すると、さっきまでの暑さが消えて、快適なくらい心地よくなった。

「術が解けますから、手を離さないで下さいね」
「えっ?」

 このまま外を歩くの?
 恥ずかしくなって、もう暑くないのに顔が真っ赤になる私を、先生がクスクス笑う。
 アガリアレプトのこともあるけれど、この先、私が思っていた何倍も大変なことになるような、そんな予感がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...