晴れのち智くん

ももゆき

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「はぁ…。」
青木智は溜息をつきながら、トボトボと学校へ続く道を歩いていた。

昨日は突然、多田にホモかと聞かれた。
赤面のせいで勘違いされることは今までにも何度かあったが、あんなにストレートに聞かれたのは初めてであった。
その上、去り際に多田はニヤついた嫌な顔をしていた。
グループに戻った後の談笑も、恐らく智の事を話していたに違いない。わざと気づかせるような視線をひしひしと感じた。

しかし、その事よりも智の心を曇らせる事があった。
本田だ。
いつもはおちゃらけたような明るいヤツなのに、多田が来てからの本田は顔を真っ青にして、智に何をしたんだと詰め寄ったうえに、取り繕った明るさで、暗に距離を取ろうと言われたのだ。
実際、昨日はあれから帰り間際に「じゃまた明日な」と挨拶しただけで、いつもなら休み時間の度に席に来る本田が全く話しかけに来なかった。

(本田、ソーシャルディス保とうとか言ってたけど、しばらく俺と話さないつもりなのかな…俺と話してたら自分も目つけられるかもって思ってたりして)

智には、本田の他に特に親しい友人はいなかった。
本田が休んだ時には、一緒に昼食を取ろうと誘ってくれるクラスメイトはいるが普段は殆ど話さないので、本田と話せないのが不安だった。

「………」
悶々と考えながらちんたら歩いていたが、とうとう教室の前まで来てしまった。
考えても仕方ない。と教室に足を踏み入れると、何故か智の席の前に本田が立っている。
「本田?おはよー」と声をかけると、本田はビクリと肩を揺らし智を振り返った。

「っ……智、これ…」
本田は昨日みたいに青い顔をして智の席を指さした。

『ホモ』
智の席にはそう彫られていた。

(?!!)
智の心臓が早鐘をついた。
「なっ、な、なに?なにこれ…誰が」
頭に血が上って呂律もまわらずフラつく智を本田が支え、席につかせながら「分からない」と答えた。

「俺が来た時にはもうあった…自分の席行く時に、これが目に入って…俺の机と交換しようと思ってたら、もうお前来ちゃって、ごめん」
「っ、本田…」

本田は智を傷つけない為に自分の席と替えようとしていたのに、自分は本田が目をつけられるのを恐れて距離を取ろうとしてるんじゃないかと邪推してしまった事を恥じた。

本田にありがとうと伝えようと顔を上げる。

「ホモ君おっはよ~!」
「っ…!」

多田だった。
昨日のようにニヤニヤしながら智達の傍に歩いてくる。
智は身体が硬直するのを感じた。本田も顔が青くなっている。

「い、今、ホモって、言ったの…?」
智は何とか震える口を開き尋ねた。

「言ったけどぉ?だってホモじゃん。」
多田は悪びれる様子なく笑顔で言い放った。

智が何か言い返そうとモゴモゴしていると、「こいつ、ホモじゃねーよ…」と、さっきまで青い顔をしていた本田が割って入った。
本田はオドオドと声音も震わせながらだが、多田を必死に睨みながら続けた。
「智は、顔が赤くなりやすいだけで、ほ、ホモじゃねーよっ。こんな事…机に彫るなんて…」

「は?何机って。」

「…え」

瞬時に笑顔が消え真顔になった多田に恐怖を感じ、本田も智も何も言えなくなってしまった。
多田は智の机をチラと見やると理解したようにハッと笑った。

「え?なに?俺がやったって言ってんの?証拠でもあんのかァ?」
顔は笑ってるのに声に怒気を孕んでいる。
本田はすっかり小さくなり「あ、いや…」と言い淀んだ。
智は、もういいよ。と本田の袖を引っ張った。
その様子を見て、多田はまたいつも通りのニヤケ顔になる。

「あ~あ、傷つくわァ。ま、大事なおホモ達だもんな!慌てて勘違いしちゃったのかな?許してあげるね~」

多田がそう言い終わるか否か、
「え~~~!本田君と青木っておホモ達なのぉー?!」と、多田の後ろから一軍グループのまなみが顔を出した。

「違っ」
本田が否定しようとするのもさえぎり、 まなみは続ける。
「本田君のこと、ちょっといいなぁ♡とか思ってたのに、ホモなんだぁ…きもぉい」

「ち、違う!ホモ達じゃねぇって!!」
本田が大声で否定する。

まなみは本田の大声に目を丸くしたかと思うと、すぐに不敵に笑みを智に向けた。
「ありゃりゃぁ~。本田が青木とはお友達じゃないって~。青木どんまいっ♡」

いつの間にか、友達じゃないと言ったことにされて、本田はすぐ「いや、友達…」と言おうとしたが、周りの試すような視線に気づき言葉が詰まる。
本田が数秒言い淀んでいると、
「あれ?やっぱり本田じゃなくてホモ田なの?」と多田やまなみが煽ってくる。


「本田…」
智は本田の名前を呼んだ。

本田は小さく肩を揺らすと、逡巡した後「ごめん。」とだけ言い、袖を掴んでいた智の手を払い歩き出した。

「え…ほ、本田…」
智の呼ぶ声も無視し本田は自分の席へ去っていった。

「あらら~捨てられちゃったね」
「どんまいホモくん!」
まなみと多田も笑いながら席へ戻っていく。



(え?え?え?え?え?え?え?え?)


智は、本田や多田達に何か言うことも、席から立つことも出来ずに、ただただ呆然と机を眺めることしか出来なかった。



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