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かぐや
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むかーし、むかし、月の都にかぐや姫という、たいそう美しい姫が暮らしておりました。
かぐや姫は天人(てんにん)です。天人は働く必要がありません。欲しいものは望めば手に入りました。美味しい料理、綺麗な服、金銀財宝、そして不老不死までも望むままです。ただ一つを除いて、、、それは生涯を共にする伴侶。それだけは自分で見つけてくるより、どうしようもありませんでした。けれど、かぐや姫は男嫌い。部屋に閉じこもって外に出ようとはしません。かぐや姫の姉妹達は部屋に引きこもる姫に呆れていました。
コン、コン、コン
「かぐや、入るわよ」
かぐやの姉が部屋に入ろうとしましたが、鍵がかけられて入れません。しょうがなく扉の前で話します。
「亀姫姉さまが、結婚するんですって。これから姉妹達で顔合わせするから、、、」
ドタドタと中で物音がします。と、思えば、、、
ゴン!
勢いよく開いた扉に、呼びに来た姉は頭をぶつけてしまいました。
「ほ、本当ですか⁉」
扉をぶつけてしまった事などお構いなく、かぐや姫は聞きました。
姉はおでこをさすりながら答えました。
「本当です、もう!アナタも早く準備なさい。竜宮城に行きますよ」
かぐや姫はその場でへたり込んでしまいました。
(あの、亀姫姉さまが、、、)
姉妹達はみな仲が良く、かぐや姫は特に亀姫の事がお気に入りでした。誰が一番とか優劣をつけるのは失礼にあたるので隠していますが、1,2を争うほどには親しみを感じておりました。
優しい亀姫の顔が思い出されます。
部屋に引きこもっているこんなかぐや姫にも、亀姫は小言を言うことなく接してくれました。
『かぐやは、恥ずかしがり屋さんなのよね。』
優しく頭を撫でてくれました。
『無理に相手を見つける必要なんて無いわ』
そう言ってお菓子をくれたこともありました。
『私達姉妹がいるんですもの』
いつまでもそうなのだと信じていました。しかし今、大好きな亀姫がなんだか遠くへ行ってしまう気がしてなりません。
(どんな男だろう)
かぐや姫はふつふつと怒りが湧いてきました。
(私が愛する姉さまと結婚するなんて!)
普段、部屋からほとんど出る事のないかぐや姫ですが、親愛する姉がどこの誰とも分からない相手と結婚するとなれば話は別です。すぐに準備をし、竜宮城へと赴きました。
「わたくしの姉妹たちですわ」
亀姫はくだんの人物へ嬉しそうにかぐや姫達を紹介しました。そにいたのは、、、男?の様な女性でした。
少し、ほっとしたような気分です。男になんか奪われるくらいなら女性と結婚してもらった方がマシな気がしました。それに亀姫は亀の化身。一緒にお風呂に入った時には立派な亀の頭を見せてもらった事もあるのです。相手が女性であろうと構わないと亀姫は笑っていました。ですが、結婚は結婚。やはり、かぐや姫の心中は複雑です。
食事会の途中で亀姫が話しかけてきました。
「かぐや、お願いがるのだけれど、乙姫を呼んできてもらえないかしら?」
乙姫は亀姫の双子の妹です。かぐや姫にとっては亀姫と並ぶほど親しみを持っていました。あんな事になるまでは、、、
「あなた、乙姫と仲がいいでしょ?」
「私が、、、行くのですか?」
「おねがい。わたくしが呼びに行っても部屋から出てきてくれないの。今日は大切な日よ。なんとか乙姫にもわたくしの相手を紹介しておきたいの」
親愛なる亀姫からこう言われては呼びに行くほかありません。竜宮城にある乙姫の部屋へと向かいました。
コン、コン、コン
扉をノックしても返事はありません。いつも自分が他の姉妹達にやっている事ですが、迷惑をかけていたのだなと、かぐや姫は反省しました。
「乙姫姉さま、かぐやです。開けてもらえませんか?」
返事はやっぱりありません。
乙姫がこうなってしまったのは、かぐや姫のせいでした。乙姫が昔、連れて来た浦島太郎。彼は乙姫と添い遂げるはずでした。ある時、浦島が地上に帰りたいと言い出したので乙姫は玉手箱をお土産に渡し、送り出しました。
かぐや姫は大切な乙姫を奪った浦島が許せなかったのです。その玉手箱の中身を蓬莱山(ほうらいさん)に伝わる霊薬と入れ替えてしまいました。その薬は開けると煙となって吹き出し、その煙を浴びた者は見る見るうちに歳をとってしまうというものでした。かぐや姫は浦島を年寄りにすることで、竜宮城に戻ってこれなくしたのです。いつまで経っても帰ってこない浦島を想うあまり、乙姫はふさぎ込んでしまいました。
(この事は絶対に隠し通さなくてはいけない)
そう思い、かぐや姫もまた部屋に閉じこもるようになってしまったのです。
ドタドタドタ!
中で物音がすると思ったら、扉が急に開きました。
顔を出した乙姫は以前の美しさは失われ、やつれていました。頬はコケ、髪はボサボサ、肌の色は浅黒く、そして、、、その瞳は真っ赤になって怒りを宿していました。まるで鬼の様です。
「かぐや、それは本当なの、、、」
(しまった!)
かぐや姫は久しぶりに外へ出たので、読心を防ぐ術をかけ忘れていたのです。
すぐ床に手をつき謝りました。
「ごめんなさい!お姉さま!私はっ!とんでもないことを!」
「、、、ゆるさない」
静かに重い、怨念のこもった声でした。あの優しい声の乙姫とは思えません。一緒に歌ってくれたこともありました。まるで小鳥がさえずるように美しい声は彼女の自慢でした。今はその面影もありません。
「ゆるさないっ!ゆるさないっ!ゆるさないっ!」
今度は激しく荒々しく、怒りを吐き出しました。かぐや姫は頭を床に付け、ただただ耐えるしかありませんでした。
のちに、かぐや姫は罰を受けることになりました。
住まいである月の都からの追放。罪が許されるまで天人達の住まう天界から人間界へと下ろされる事となったのです。
「おや、これは、、、」
黄金に輝く竹を見つけるのは、また別のお話。
かぐや姫は天人(てんにん)です。天人は働く必要がありません。欲しいものは望めば手に入りました。美味しい料理、綺麗な服、金銀財宝、そして不老不死までも望むままです。ただ一つを除いて、、、それは生涯を共にする伴侶。それだけは自分で見つけてくるより、どうしようもありませんでした。けれど、かぐや姫は男嫌い。部屋に閉じこもって外に出ようとはしません。かぐや姫の姉妹達は部屋に引きこもる姫に呆れていました。
コン、コン、コン
「かぐや、入るわよ」
かぐやの姉が部屋に入ろうとしましたが、鍵がかけられて入れません。しょうがなく扉の前で話します。
「亀姫姉さまが、結婚するんですって。これから姉妹達で顔合わせするから、、、」
ドタドタと中で物音がします。と、思えば、、、
ゴン!
勢いよく開いた扉に、呼びに来た姉は頭をぶつけてしまいました。
「ほ、本当ですか⁉」
扉をぶつけてしまった事などお構いなく、かぐや姫は聞きました。
姉はおでこをさすりながら答えました。
「本当です、もう!アナタも早く準備なさい。竜宮城に行きますよ」
かぐや姫はその場でへたり込んでしまいました。
(あの、亀姫姉さまが、、、)
姉妹達はみな仲が良く、かぐや姫は特に亀姫の事がお気に入りでした。誰が一番とか優劣をつけるのは失礼にあたるので隠していますが、1,2を争うほどには親しみを感じておりました。
優しい亀姫の顔が思い出されます。
部屋に引きこもっているこんなかぐや姫にも、亀姫は小言を言うことなく接してくれました。
『かぐやは、恥ずかしがり屋さんなのよね。』
優しく頭を撫でてくれました。
『無理に相手を見つける必要なんて無いわ』
そう言ってお菓子をくれたこともありました。
『私達姉妹がいるんですもの』
いつまでもそうなのだと信じていました。しかし今、大好きな亀姫がなんだか遠くへ行ってしまう気がしてなりません。
(どんな男だろう)
かぐや姫はふつふつと怒りが湧いてきました。
(私が愛する姉さまと結婚するなんて!)
普段、部屋からほとんど出る事のないかぐや姫ですが、親愛する姉がどこの誰とも分からない相手と結婚するとなれば話は別です。すぐに準備をし、竜宮城へと赴きました。
「わたくしの姉妹たちですわ」
亀姫はくだんの人物へ嬉しそうにかぐや姫達を紹介しました。そにいたのは、、、男?の様な女性でした。
少し、ほっとしたような気分です。男になんか奪われるくらいなら女性と結婚してもらった方がマシな気がしました。それに亀姫は亀の化身。一緒にお風呂に入った時には立派な亀の頭を見せてもらった事もあるのです。相手が女性であろうと構わないと亀姫は笑っていました。ですが、結婚は結婚。やはり、かぐや姫の心中は複雑です。
食事会の途中で亀姫が話しかけてきました。
「かぐや、お願いがるのだけれど、乙姫を呼んできてもらえないかしら?」
乙姫は亀姫の双子の妹です。かぐや姫にとっては亀姫と並ぶほど親しみを持っていました。あんな事になるまでは、、、
「あなた、乙姫と仲がいいでしょ?」
「私が、、、行くのですか?」
「おねがい。わたくしが呼びに行っても部屋から出てきてくれないの。今日は大切な日よ。なんとか乙姫にもわたくしの相手を紹介しておきたいの」
親愛なる亀姫からこう言われては呼びに行くほかありません。竜宮城にある乙姫の部屋へと向かいました。
コン、コン、コン
扉をノックしても返事はありません。いつも自分が他の姉妹達にやっている事ですが、迷惑をかけていたのだなと、かぐや姫は反省しました。
「乙姫姉さま、かぐやです。開けてもらえませんか?」
返事はやっぱりありません。
乙姫がこうなってしまったのは、かぐや姫のせいでした。乙姫が昔、連れて来た浦島太郎。彼は乙姫と添い遂げるはずでした。ある時、浦島が地上に帰りたいと言い出したので乙姫は玉手箱をお土産に渡し、送り出しました。
かぐや姫は大切な乙姫を奪った浦島が許せなかったのです。その玉手箱の中身を蓬莱山(ほうらいさん)に伝わる霊薬と入れ替えてしまいました。その薬は開けると煙となって吹き出し、その煙を浴びた者は見る見るうちに歳をとってしまうというものでした。かぐや姫は浦島を年寄りにすることで、竜宮城に戻ってこれなくしたのです。いつまで経っても帰ってこない浦島を想うあまり、乙姫はふさぎ込んでしまいました。
(この事は絶対に隠し通さなくてはいけない)
そう思い、かぐや姫もまた部屋に閉じこもるようになってしまったのです。
ドタドタドタ!
中で物音がすると思ったら、扉が急に開きました。
顔を出した乙姫は以前の美しさは失われ、やつれていました。頬はコケ、髪はボサボサ、肌の色は浅黒く、そして、、、その瞳は真っ赤になって怒りを宿していました。まるで鬼の様です。
「かぐや、それは本当なの、、、」
(しまった!)
かぐや姫は久しぶりに外へ出たので、読心を防ぐ術をかけ忘れていたのです。
すぐ床に手をつき謝りました。
「ごめんなさい!お姉さま!私はっ!とんでもないことを!」
「、、、ゆるさない」
静かに重い、怨念のこもった声でした。あの優しい声の乙姫とは思えません。一緒に歌ってくれたこともありました。まるで小鳥がさえずるように美しい声は彼女の自慢でした。今はその面影もありません。
「ゆるさないっ!ゆるさないっ!ゆるさないっ!」
今度は激しく荒々しく、怒りを吐き出しました。かぐや姫は頭を床に付け、ただただ耐えるしかありませんでした。
のちに、かぐや姫は罰を受けることになりました。
住まいである月の都からの追放。罪が許されるまで天人達の住まう天界から人間界へと下ろされる事となったのです。
「おや、これは、、、」
黄金に輝く竹を見つけるのは、また別のお話。
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