ぱられるの部屋

黒はんぺん

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りょう④

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「待て、パス子!」
 叫んでパス子のあとを追ったのは真智だった。なぜかいつも殿しんがりの真智。最後に船内に入り、団子状態の廊下を進めずにいたんだろう。ドア・ハッチの一番そばにいたわけ。
 それに続く鈴木・佐藤・田中・大場。おじさんの3人。押し合いへし合い。馬鹿ぁ、落ち着け。ドアから外へ出るだけだ、難しくないだろ。ホントに男どもって……。
 彼らの頭上を銀ちゃんがすり抜けていく。「邪魔よ、あんたら」
 オレもこいつらなぎ倒して前に出たかったが……パス子みたいにさ。気ばかり焦る。火炎でも吐いて、こいつら焼き払いたくなったぞ。ぐあおぉ!
「君たち、落ち着け、落ち着きなさい」
 最年長のおじさん、指示してる。「まず深呼吸して……」
 ホントにもう。息止めて飛び出ろや。
 いいからそいつら蹴り出せ。
 タコに逃げられちまう。トコロテンみたいにするっといかないものかな。

 目も眩むほど明るい。空の下!
 熱気!  日差し!
 乗り込んでる全員が甲板にいるみたい。
 パキケトゥスも全部そろってるな。思えば必死の思いで甲板まで押し上げたよな。オレやあむるやずみちゃんってお姉さんとで。ずみちゃんパキケトゥスをかかえあげてたぞ、常人ではないな。
 人盛ひとざかりの上で銀ちゃんが周回している。あの下にパス子がいると見た。
 黒ぐろとしたパキケの密集。
 大人も中学生も入り乱れて。
「やめて、やめて」
 口々に叫ぶ人々。そのなかにねーちゃんの声がまじる。

 中心にパス子がいる。右に左に丸い頭が揺れていた。船の廊下ではみんなを翻弄したパス子は今や逆に取り囲まれている。取り押さえられている。
「やめてよぉ」
 ねーちゃん泣いている?  もともと泣き虫だが、様子がおかしい。何が起きているんだ。
 強引に近づけば、パス子の数ある手足(触手)はパキケたちに噛まれ右に左に引っ張られているのがわかった。甲板にはりつけにされてるんだ。
 さらにはパキケかき分け近づいた男たちにライフルや棒で殴りつけられているのだ。お祭りの太鼓にされてるの。
 皆殺し宣言したばかりだもの、怒りがパス子に向けられて当然。パキケだってアンモナイトと戦ったばかり、興奮しているのだろう。
 みんなに懲らしめられている。
 むしろ、これ、リンチだよね。

「ねーちゃん、ねーちゃん」
 オレも強引に割り込みながら、ねーちゃんに近づく。どうもねーちゃんだけはみんなと動きが同調してないんだよね。

 古いファミリービデオを見ても、お遊戯でもフォークダンスでも、ひとりズレてるねーちゃん。
 混みあったパス子のそばへ寄ろうとしている。危ないぞ。
 ひともパキケも殺気だってる。
「アル~ゴロウ~、離れて、もうやめるのよぉ」
 こんな中でパキケの見分けがつくのか?  ホントかよ。ねーちゃんはパス子に群がるパキケトゥスや人々を離そうとしているのだ。「もうやめてよお、殴らないで」
 なんでだ、逆じゃないのか。とうとうねーちゃんパス子に覆いかぶさる。馬鹿ぁ、殺されるぞ。
「もうやめろ、離れろ!」
 オレはパス子を追いつめてやろうと走っていたのに。「パス子を殺すな」

 結局オレやねーちゃんは盾になってパス子を守っていた?  もう一度いうぞ、逆だろ。

 パス子は甲板にぺちゃんこになって広がっていた。ぼろ雑巾みたいに。パキケの噛み跡も痛々しく、(やつらの歯は鋭いのだ)人間だったら血まみれになるところだが(あとで聞いたところ、人間とは血の色が違うんだって)目はしっかり見開いてこちらを見ている。
 ぺちゃんこのパス子の上にオレとねーちゃんはかぶさってるのだ。ふたりとも息絶え絶え。パス子はゆっくり脈動している。
 パキケかき分け押しのけ、お姉さんがやって来る。パキケトゥスかついで走り回っていたひとだよね。ずみちゃん。目が怒っている。
 今度はなんだ、オレは身構えた。
 お姉さんはねーちゃん起こして抱きしめた。
 頭をなぜなぜする。
「ムチャする娘だね、ホントに。命いくつあっても足んないよ」オレの方を見て「りょうちゃんも。すぐに火が付くガソリンみたいな姉妹だわ。顔真っ黒よ」
 あ、タコ墨だ。顔洗う暇なかったんだ。
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