ぱられるの部屋

黒はんぺん

文字の大きさ
7 / 12

りょう⑦

しおりを挟む
「さてパス子。あきらめて全てを話しなさい」
 ここは自分が仕切るべきと思い直したのだろう、銀ちゃんはお尻の下に声をかける。具体的にパス子が何をしたいのか、何を企んでいるのかわかってはいないのだ。船に乗り込む全員の生命にかかわりなく破壊すると宣言した。ただ、それだけなのだ。
 そのメッセージは誰の耳にも明瞭だった。パス子の声は大きいのか。どうも違うようだ、パス子の声は耳で聞いているんじゃない。テレパシーなんだ。
 あまりにも自然に胸の底にとどくものだから、音声は聞いてないことにすぐには気づかないのである。
 パス子は破壊工作をして、船から逃げ出そうとしたのか?  爆弾をしかけたのならどこに、そして爆発はいつ?
「それは……最初から話すと長い長い話になる。長い長い夢のようなお話だ……」
 どんな話をするつもりだ。甲板の人々は固唾を飲んでパス子に注目する。つい先ほどまで狂気のように殴りつけていたひとたちが静まり返っている。
  パキケトゥスまでもがおとなしく腰を落として小首をかしげているのだ。
 銀ちゃんもパキケと同じ表情をしてるな。
「我々も深い感情を抱くことはあるが、人間と違い涙をながすことはできない。それはたとえば……ほらあそこ、水平線にかかる積乱雲。少しはずれたところに、一群れの小さな雲がある」
 パス子の一本の腕が空を指した。まるで指揮者のよう、みんな空を見る。どの雲なの?  銀ちゃんもパス子の指す雲を探して……。
 強靭なバネのように、パス子は跳ねる。小石みたいに弾かれる銀ちゃん。パス子は居並ぶ人々のはるか頭上を越える。固まる人々とパキケトゥスのいないところにパス子は着地。音もなく。
 銀ちゃんは旋回してすぐに戻ってくる。「きっさま~!」許さん!
 ところが痛めつけられたのが嘘みたいに走り、跳ぶパス子。なんてタフネス。
 晴天の霹靂ってこのことかな、飛び跳ねるパス子に電撃の乱打。嵐を呼ぶ少女だぜ!
 なかなかヒットしない。エネルギーを浪費させられているんだ!  一瞬にして人々はカオスになる。
 オレは?
 オレとねーちゃんは。
 大混乱のなか、逃げ回ることもできず立ってるだけ。ホントの頓馬とんま。頓馬シスターズの前にパス子が。
「学習しないやつら」
 とパス子はいった。
 あざけるよりは、苦笑するような調子だったから、
「そ~ね~」ことばを返すねーちゃん。
「我々は、だが似たり寄ったり……なんだろう」
 えっ、えっ。我々って誰のことだ。
「ともあれ、船全体を破壊する必要はないのだ。ゲートを破壊するだけだ。ふたりには、教える」
「あらま」
「誰も殺さないんだな」これは確かめなきゃ。
「その必要はない」
 オレたちはなぜのんびり会話してるのだ?  オレは不審に思って、見回して。アシュラの顔した銀ちゃんは、すぐそばまで迫っていて、空中で静止していた。
「時間を止めているだけだ。私の仕事は終わったから、もう船を降りる。ふたりにだけは挨拶をしたかった」
 そしてオレとねーちゃんの頭の上に触手を乗せて(おい、これが挨拶か)ロケットのように飛び上がった。海へ落ちていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...