ぱられるの部屋

黒はんぺん

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ジェリーフィッシュ・ガール(JFG-1)

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 かすかな音。
 耳に圧迫感。
 頭皮を虫がはい回る、むずがゆさを感じる。
 髪が静電気をおびたような。ユウキは髪に手をやり、初めて風に気がついた。吹きくだる風。あぁ?   下向きの風だって!?

 ユウキは見上げた。
 うわっ。エアモ。
 エアモが浮いている。上空どころか頭上のすぐそこ。手を伸ばしたら……さすがに届かないか。黒々としたお腹をユウキに見せている。
 エアモはそのへんのクルマとは違うから、タイヤやシャフトなんかはつるんとしたシャシーに隠されている。もっと降りてきたらユウキの顔がそこに映るかも。口開けて見上げるアホ面のあたし。
 いや待て、ほんとに降りてくるわよ、風も強くなる。こんなでかいものに気がつかないとは、 ここまで近よられるとは。ぼんやりにもほどがある、あたしって。うわぁ、あたし、つぶされる!

 エアモはついと横にそれて、降りてくる。さすがにつぶすつもりはないのね。あはは。
 ここは防波堤の上の道。ぐるり浮氷市を取り囲んでいる、海を望める道だ。逆を見れば浮氷市の市街が見える。通常は車の通行が禁止されているが、それなりの道幅はある。ホバリングしてから向きを半転して(素速くタイヤを出す)着陸。

 ユウキは避難する必要はなかった。もちろん着陸するエアモにつぶされる事故なんて聞いたことがないけどさ。仮にドライバーがうっかりでも搭載されたAIが地上の歩行者を見落とすわけがない。エアモのドアがはね上がり、ドライバーがひょいと顔を出す。

「こんにちは。ひさしぶりのよい天気。いい気持ちね」
 ショートカットの黒髪。満面の笑み。親しげなビームをまっすぐこちらに放射してくる。
 ユウキは返事をしなかった。いい気持ちなのでしょうね、あなたは。ひさしぶりにいい天気になったのはたしかだけど、応えを合わせる必要はないもんね。
 空から突然やってきていきなりの挨拶。驚くわよ。誰なの。何者なの。
 それにくわえていたはずのタバコが消えている。どこいった。エアモの噴射で飛ばされたのか、それとも自分で吹いちゃったか。思わず胸もとに手をあてる。火のついたままエリのなかに落ちたらヤバいだろ。
 大丈夫ね。
 大丈夫……ほんとにもう。 
「わたしは生活安全局のオオシロです。よろしく」エアモを降りるや、ユウキのすぐそばに迫ってくる。小さなカードを持っている。「オオシロ・スズナ。スズナって呼んでもいいわよ」にこっ。生活安全局ってなんだ、ポリスかこいつ。
 カードにはその名前が印刷されている。なんだこれ。

「うう……」
 ユウキは低くうなった。スズナだと?  初対面ですよね、 なぜ呼ばにゃならんの。あたしのご機嫌ただいま45゜だぞ。でも……。

 びっくりするほど愛らしい顔だちではある。年上のくせに。そして愛らしい微笑みとくる。わかっていてもスズナちゃんって甘えそうになる。
 人工的につくられた笑顔なのだろう。人間の意識下に働きかけて抵抗できなくするんだろ。用心、用心。素直にカード受け取っちゃった時点で負け、なのかもしれないけど、負けるなあたし。負けるなユウキちゃん。
 ……ふう。

「いい景色ね。防波堤は好き?」
 防波堤……大好き。いつもここにきて海を眺めているよ、なんて答えると思っているのか。ホントはすぐにも背を向けて立ち去りたいところなのに、それができない。お姐さん、かわいい。スマイルをずっと見ていたい。……畜生め。

 近ごろでは意識下拘束により凶悪犯でも暴れず逮捕されてしまうらしいから、小娘のユウキ、抵抗できるわけがない。仕方なく新しいタバコを出してくわえる。ライターをポケットに探しはじめると……スズナはタバコをつまんで取り上げてしまう。
「身体に良くないよ。やめようね」
 にっこり。
 なにしやがる、このクソ……お姐さんかわいい。……畜生め。
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