『痛快!祓い屋稼業つかまつり』-ズレ社会痛快一刀両断-

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第2話『セールス地獄』

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昼下がりの南団地は、今日もズレていた。
青空の下、錆びた給水塔とガラガラの公園。遊ぶ子供も、散歩の老人もいない。
代わりに目立つのは開運壺、水晶玉、派手な布がベランダに揺れる異様な光景だった。

鷹津は公園脇でスマホを弄りながら鼻を鳴らす。


「ズレ指数、爆上がりやん」


団地の住民が昨日から次々と開運グッズを買い漁っているという話が、地元の商店街で囁かれている。
それも一日で十数世帯、まるで憑かれたように同じ業者から壺やら水晶やらを購入しているらしい。
商店街の八百屋のおばちゃんが「あんたら、目がおかしいで」と心配していたという話も聞いた。


「見えますね!あなたの運気の流れが……落ちてます!」


団地の奥からスピーカーが絶好調で響いてくる。
金運アップだの龍神水だのと、相変わらず胡散臭い文句が並んでいた。
鷹津は遠目に営業車を観察しながら、違和感を覚える。
住民たちの動きが妙にぎこちないのだ。まるで操り人形のように、同じタイミングで同じ方向を向いている。

これは単なる悪徳商法じゃない。明らかにズレが絡んでいる案件だった。


「しゃーない、暴力担当でも叩き起こすか」

---

桝川食堂のカウンターで冷やしうどんをかきこみながら、モモカは露骨に不機嫌そうな声を漏らす。


「は? なんでアタシが? どうせ雑用回しやろ」


鷹津の説明を聞きながら、モモカは箸を動かし続けた。
南団地がズレている、住民の目がトロンとしている、
地元で変な噂が立っているという話だった。


「今なら幸運ブレス二本セットで、成仏札一枚サービス!」


スピーカー営業の声が電話越しにも聞こえてくる。
モモカがうどんを啜り終える頃には、額に青筋が浮いていた。


「今行くわ。待っとけ、ど阿呆営業共」


電話を切ると、モモカは懐から小さな呪符を取り出してヒラヒラと振った。
符に淡い光が宿り、空中で一瞬輝いてから消える。これは簡易的な霊感探知術。
光の色と強さで、現場のズレ具合が分かるのだ。


「うわ、かなり濃いな。こりゃガチのズレ現場確定やわ」


冷やしうどんの丼をカウンターに置き、モモカはジャージの袖をまくった。
助手席のカラクサがニヤリと牙を覗かせる。


「成仏担当、出動や」


たかしが焼き台から振り返る。


「壺より鰻売ってこいやー!」


「会計な。ズレ祓い手当、しっかり請求しとくで」


軽トラックのエンジンが、団地への道を唸り上げた。

---

南団地の公園前に白いワンボックスが停まっている。
車体には龍神水のロゴと派手な装飾が施され、スピーカーから開運ソングが垂れ流されていた。
そこへズズイと軽トラが滑り込む。


「おっそいんじゃ、モモカ!」


鷹津のツッコミを無視し、モモカは符札棍棒を肩に担いでズレ営業車へ歩み寄る。
助手席のカラクサが窓から顔を出し、鋭い目つきで周囲を睨んだ。


「匂うな、黒煙と呪符のクセぇ気配」


営業夫婦がギョッとして後ずさるが、モモカは懐から白札を数枚抜き取った。
中年の夫婦は典型的な悪徳商法の売り手といった風体で、女の方は水晶を首から下げ、男の方は怪しげな数珠を腕に巻いている。
だが、よく見ると二人の瞳孔が異様に開いていて、まばたきの回数も少ない。
操っている側も操られているのかもしれない。


「免許証は預かったるわ、逃げんなよ」


パチン。


指鳴らし一閃、白い光が地面を這い、営業車と周囲一帯を封縛結界札が雷の鎖のように締め上げた。
タイヤがズシンと沈み込み、夫婦は足首まで結界に絡め取られる。


「な、なんの真似ですか!営業妨害です!」


「妄想の自由やけどな、これは違法営業ちゃう、ズレ営業や」


モモカは歩きながら札を切る。周囲に浮かぶ住民たちは口元を引き攣らせ、硬直したまま動かない。
壺を抱えた老人、水晶玉を握りしめた主婦、幸運ブレスレットを腕にはめた中年男性。
みな一様に虚ろな表情を浮かべている。スピーカーの音が途切れ、場が静寂に包まれた。


「じゃあ成仏ターイム」


今度は五枚の青い祓符が宙に舞い上がる。
モモカの指先で弾かれ、散弾のように団地の住民一人一人へ撃ち込まれる。
光弾が弾けた瞬間、虚ろだった瞳が次々と蘇り、住民たちが我に返った。


「……何これ……何で壺持って……金が……!」


「ついでに住民サービスしといたるわ、感謝せぇよ」


営業夫婦が最後の悪あがきを見せる。男が車内から黒い札を鷹津に向けて投げつけた。


「この呪符でお前らも終わりだ!」


「終わるのはお前らやっちゅうねん」


モモカが地面に棍棒を突き刺し、額に血管が浮く。符札棍棒の先端が青白く光り始めた。


「まるっと成仏、まとめて地獄行き!」


空気が震え、符札棍棒から青白い炎が噴き上がる。
営業車のボンネットが歪み、燃え盛る炎がズレ札と開運グッズを呑み込むように旋回した。
同時に、黒い煙が一瞬だけ蛇のように捻れた竜の形を作り、車体の上空で赤い目がギラリと光る。


「黒龍やな」


カラクサが低く唸り、モモカも険しい目で見上げた。


「ズレだけじゃねぇ。こいつ、神霊絡んでるわ」


炎が静まり、焼け落ちたワンボックスカーの残骸が煙を上げる。
営業夫婦は正気に戻り、呆然と座り込んでいた。
モモカはゆっくりと近づき、焦げ残った札を拾い上げる。
指先に残るざらついた手触り、そして焦げ跡の奥に微かに残る紋様。


「見覚えあるな、この呪符の型」


カラクサが小さく唸った。


「この黒煙、ズレだけやない。禁忌術の匂いや」


鷹津が横から覗き込む。焦げた札の紋様は確かに見慣れない形をしていた。
普通のズレ札なら、もっと単純な構造をしているはずだ。


「何か怪しいな。嫌な空気する」


モモカのこめかみにピクリと静かな緊張が走った。


事後処理は後回しにして、二人と一匹は現場を後にすることにした。
営業夫婦は正気に戻ったものの、まだ混乱している様子だった。
住民たちも徐々に我に返り、手に持った開運グッズを不思議そうに見つめている。


「とりあえず成仏完了、と」


鷹津はスマホで最後の一枚を撮った。


「桝川戻って、壺じゃなく鰻食うべ。付き合えや、モモカ」


「しゃーないな。飯ぐらい奢れや、こっち命張っとんねん」


カラクサがフシュッと鼻を鳴らしながら、先に軽トラへ戻る。


「壺も営業も、まとめて地獄落ち。次のズレも速攻潰したるわ」

---

夕暮れの桝川食堂。
香ばしいタレの匂いが漂う店内で、たかしが焼き台の前で腕を振るっていた。


「壺より鰻、やっぱこれやろ。祓い明けはコレ一択や!」


モモカがカウンター席でぐったり寄りかかる。


「ズレ営業片付けた後に壺の話すんなし……マジで吐くわ」


「じゃあズレ壺定食とかどうや?」


たかしがニヤリと笑う。


「死んでもいらん!」


鷹津が爆笑しながらテーブルに座った。
隣の静流は相変わらずノートPCを片手にタイピングしている。


「開運グッズ、非科学的……洗脳効果の観察データあり……」


「黙って食え静流。飯は信じるもんや」


ツバサが店の奥から顔を出す。


「お疲れさん。今日の件、もう地元で噂になってるで。南団地の開運騒ぎ、一日で収まったって」


「まあ、住民も目ぇ覚めたやろうしな」


モモカは焼き立ての鰻丼を掻き込み、ふうっと一息つく。
カラクサも床に転がった鰻の切れ端を器用に舌で舐めている。


「それにしても、あの札の紋様は気になるな」


鷹津が鰻茶漬けを流し込みながら呟く。


「門徒の残党がまだウロウロしてるってことかいな」


「さあな。でも用心するに越したことはないわ」


モモカが箸を置いて伸びをする。


「もうズレ営業も祓い屋もええわ……」


「は? もう次現場やで。働け祓い屋、ズレと闘う義務があるやろ?」


カラクサが床下で尻尾をバシンと打ち鳴らし、モモカの足元でゴロリと寝返りを打った。


「まるっと成仏完了、次のターゲットも成仏させたるわ」


たかしが最後に決めた。


「ズレも商売も、タレで流しとけ!」


店内に笑いが弾けた。
次のズレの気配を感じながらも、今夜は久しぶりにゆっくりと鰻と酒を味わえそうだった。
夜風が店の暖簾を揺らし、カラクサの寝息だけが静かに響いていた。
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