幸運は意想外にハマる

夢線香

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アフェクト・グリーンヒル

22. 伴侶なので

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 父上と一緒に夕食を取る為に、カロイス殿には身形を整えて貰うことにした。

 メイド二人に連れて行かれるカロイス殿が不安そうに私を見ていたのが、なんだか微笑ましい。

 カロイス殿には、私の部屋の隣に彼の部屋を用意してある。今日からずっと隣に彼がいるのかと思うと嬉しくて心が浮ついてしまう。

 カロイス殿が身支度をしている間に父上が王宮から戻って来た。出迎えた私に父上は渋面で告げる。

「もう知っていると思うが、またカロイス君が襲われた」

「はい、聞き及んでおります」

 私も硬い顔になって頷く。

「今回もオーセシオン殿下の手引だと分かった。どうやらイーモンド・モーブフィールド侯爵子息も一緒になって、カロイス君と一緒にいたオリバー・マルーン男爵子息を狙ったみたいだな」

「マルーン男爵子息……確か、辺境伯令嬢を助けたカロイス殿の御友人ですよね」

「オーセシオン殿下は、お前をまだ諦めていないようだな。今回は結構な手練を送って来たみたいだが、カロイス君達が腕の立つ者達で良かったよ。明日、全てに決着を付ける。アフェクトも王宮に行く準備をしておきなさい」

「はい、分かりました」

 父上に肩を軽く叩かれて頷いた。

 明日で全てに決着が付く。

 オーセシオン殿下の私に対する執着を薄気味悪く思ってしまう。カロイス殿を亡き者にしてまで私を手に入れようとするなんて……

 そこまで執着されるほどの事をした覚えなどないし、トルコード王太子殿下にお会いしに出向いた王宮の帰りに絡まれるだけの接触しかない。一体私の何にそれほどまでに執着しているのか、皆目見当が付かない。

 金銭的な面で王家がだいぶ渋っているのだと父上に聞かされていた。

 トルコード王太子殿下は、私の次の婚約者をオーセシオン殿下にすることで違約金や慰謝料を相殺しようと目論んでいたようだけど、私がカロイス殿と伴侶になってしまったから当てが外れてしまい、慌てているのだと父上に教えられる。

 あんな風に婚約破棄などしなければ、支払う金銭はもう少し少なく済んだかも知れないのに、何故、トルコード王太子殿下はあのような行動に出たのか理解出来ない。

 もっと早くに、婚約を解消して下されば良かったのに。

 でもそれだと、私はカロイス殿とは伴侶になることが出来なかったから、なんとも微妙なところだけど……


 父上と別れて部屋に戻ると見違えるようなカロイス殿がいた。

 私が選んだダークブラウンの上下に、ベージュのシャツと同色のクラバットがカロイス殿の落ち着いた雰囲気に、とても良く似合っていた。

 髪もいつもと違って丁寧に撫で付けられていて、私よりもずっと大人の男性に見える。

 私が褒めると照れくさそうに笑う彼に、ドキドキしてしまう。


 父上と母上に挨拶するカロイス殿は人当たりも良く、父上も母上も彼が気に入ったみたいでほっとする。

 食事中は、マナーが心許ないカロイス殿が私に何度も救難信号を発するように視線を向けて来て、彼に分かりやすいように使うナイフやフォークを握って見せる。

 そんな私達を父上と母上が微笑ましそうに見ていた。

 食事が終わると父上がカロイス殿をシガールームに誘った。

 カロイス殿は頷きながらも、捨てられた子犬のような目で私を見ながら父上の後に付いて行く。

 思わず駆け寄って撫で回したい衝動に駆られながらも、二人を見送って自室へと戻る。

 父上がどんな話をカロイス殿にするのか気になったけれど、ロヤルに促されてお風呂に入る。

 侍医には、子が安定期に入るまでは閨事をしてはいけないと言われている。具体的には、カロイス殿を胎内に迎え入れてはいけないと言われた。

 安定期に入れば、激しくしなければしてもいいらしいけど……カロイス殿は、それで満足出来るのだろうかと心配になる。

 そもそも、激しくしないとはどういうものなのか今一つ分からない。ゆっくりすればいいってこと?

 だけど、あの夜……カロイス殿はゆっくりもしてくれていたけど、私は波のように押し寄せて来る身体の芯から震え上がるような切なさに、どうしようもなく悶え喘いだ。

 湧き上がるように次々と突き抜けていく絶頂に、理由もわからず翻弄される。


 あれは、ゆっくりのうちなんだろうか……


 そんなこと、恥ずかしくて聞けなかった。

 ロヤルに髪を乾かして貰いながら閨の事ばかり考えている自分が恥ずかしくなる。気を逸らすためにロヤルに話し掛けた。

「父上は、カロイス殿に何を話すのでしょう」

「さあ、どのような話をなさるのか私には見当も付きませんが……カロイス殿はグリーンヒル公爵家に入る訳ですから、今後の事や心構えとかでしょうか」

 私の髪を丁寧に拭きながらロヤルが答えてくれる。

「そう、ですよね……」

「カロイス殿が部屋に戻られたら、お尋ねになればよろしいんじゃないですか?」

 ロヤルの提案に頷いた。

 夜着に着替えてガウンを羽織り、本を読みながらカロイス殿が部屋に戻るのを待った。


 夜もだいぶ深まってから、カロイス殿が部屋に戻ったことをメイドが知らせてくれる。それを受けて彼の部屋へと向かった。

 ベッドの端に腰掛けて、ぐったりと横たわるカロイス殿にそっと話し掛ける。

「――カロイス殿。父との話は如何でした?」

「……義父上ちちうえとの話……」

 ベッドサイドのランプが灯す、オレンジ色の灯りだけが暗い部屋をほのかに照らすなか、カロイス殿がぼんやりと私を見上げて呟く。

 父上のことをもう義父上と呼んでくれているカロイス殿に、ほんわりと嬉しくなる。

 カロイス殿は、瞼をゆっくりと瞬かせて考え込んでいた。そして――

「アフェクト様は、俺の妻ですか……?」

 私が質問した事とは違う質問が返ってくる。


 妻……


 男の私に妻と云う言葉が当てはまるのかは別として、伴侶なのだし彼の子も身に宿しているのだから妻で間違いはないのだろう。

 でも……改めて言われるとなんだか気恥ずかしい。

「っ……はい……貴方の妻です」

 はっきりと口にするのは、とても恥ずかしかった。

「妻なら……一緒に寝ましょう」

 一人で照れているとそんなことを言われる。

 無防備な顔で、微笑みながら私に手を伸ばすカロイス殿。咄嗟に彼の手を握ってしまった。

 やけに熱く感じる彼の手を握りながら逡巡する。

 確かに、伴侶なら一緒に寝るのは普通のことだ。何もおかしくはない。閨事ではなく、ただ一緒に寝るだけならなんの問題もない。

 それに、私自身が彼の傍に居たかった。

 意を決して、ベッドの中に入る。

 カロイス殿は布団を持ち上げて迎え入れてくれる。私の身体を抱き締めてきた彼の身体はとても熱くて、だけど温かくて心地良い。

「アフェクト様が俺の妻だなんて……すごく……嬉しいです」

 私を抱き締め、頭に頬擦りしてくるカロイス殿。

「カ、カロイス殿……」

 彼の懐かしく感じる身体の感触や体温に、胸がせわしなくトクトクと早鐘を打つ。

「こんな美しい人が俺の妻だなんて信じられない……好きです、アフェクト様……好き……」

「あ……」

 カロイス殿は擦り寄るように私の耳に熱い唇を擦り寄せて、酒気混じりの熱い吐息と一緒に私に好意を伝えてくる。


 初夜の時に何度も何度も囁かれた言葉……


 あの日以来、私の頭の中で繰り返し鳴り響いては、あの夜の官能を呼び起こし身体を熱くさせた彼の囁きが、再び現実のものになって私の耳に熱く甘く吹き込まれる。

 身体も心も熱くなって悶えながら、目の前にある確かな彼の温もりに顔を押し付けて縋り付く。

 彼の熱い大きな掌に私の背中を撫でられて、身体が微かに震えた。

「本当に――――可愛いお人だ……」

「もう……言わないで」

 これ以上、甘い言葉を耳の中に吹き込まないで欲しい……


 彼の熱い吐息に身体が震えているのか、甘い言葉に身悶えてしまうのか、分からなくなる。

 きっと、どちらも私を悶えさせている。

 恥ずかしさと嬉しさと愛おしさで顔どころか足の爪先から頭の天辺まで、湯気が出てしまいそうなほど熱くなる。

 もう言わないでと言っているのにやめてくれない彼を恨めしく思いながらも、心と身体は悶えてのた打ち回って、どうしていいかわからない。

 本心から言っていると伝わるほどに、好き好き、好き好きと甘く熱く囁き続けられて……私は身の置きどころがないほどに身悶えて、彼の胸に必死に顔を押し付けた。

 漸く彼の好き好き攻撃が終わった頃には、身も心も火照った私を放置してカロイス殿は一人穏やかな寝息を立てて眠っていた。


 ……酷い……


 縋り付いた薄情者を心の中でなじりながら、なかなか落ち着いてくれない心身を必死に宥めながら目を閉じた。
 


 真夜中。縛り付けられているような、狭い箱に押し込められているような身動きが取れない窮屈さを感じて目を覚ます。

 消し忘れたランプの、ほのかなオレンジ色の灯りに目を細める。

 いつの間にか、カロイス殿に背を向けて横になっていた。彼が隙間なくぴったりと私の背中に身体を着け、私の胸に腕を交差させてしっかりと抱き締められている。

 枕で首が痛まないように高さを調整されていて、首筋にカロイス殿の顔が埋められていた。

 私を絶対に離さないぞと言わんばかりに抱き込まれていて、嬉しいような困ったような、なんとも言えない気分を味わう。

 彼の静かな呼吸が耳元で聞こえる。

 背中の大きな温もりが安心出来て心地良いのだけれど、身動きの取れないこの体勢は窮屈に感じられて身動みじろいだ。

 だけど、胸に回された私よりも太い腕が緩まない。その腕を外そうと藻掻いていると、夜着の上から丁度胸の頂きがある場所に来ていた彼の指先がそこを擽るように動き出した。

「っ……!?」

 突然、不意打ちのように甘い僅かな刺激がヒクリと身体を震わせ息を呑む。

 カロイス殿の太く硬い指先が私の両方の胸の頂きをノロノロと撫で回す。サワサワとした小さな刺激に胸の頂きが勃ち上がったのを感じた。

 その小さな尖りをカロイス殿の指先が的確に指先で撫で擦ってくるから、そこに意識が集中してしまって胸の先端が益々硬くなる。

「ぁっ……」

 慌ててカロイス殿の腕を外そうと彼の腕に手を掛けるけど、力が抜けるような刺激を与えられて外せない。その間も、クリクリと指先で転がされて下腹が疼くような刺激に脚を擦り合わせた。

 緩慢な動きで弄ばれて、焦れったい刺激に身悶える。

「カ、カロイスどのっ……ぁ……お、おきてっ……」

 漏れ出そうな甘い声を押し殺そうとして、彼を呼び起こす声まで囁くように小さくなってしまう。

 夜着の上から人差し指と中指の間に小さな尖りを挟まれて、スリスリと擦られ意図せず高い声が私の口から零れた。

「アッ……!……ゃ…っ…めっ……!」

 胸の刺激が下腹を疼かせて、私のモノが勃ち上がろうとしている。

 カロイス殿の腕を掴んでいた手の指先に力が籠もり、引き離そうとしても私の中にある甘い欲望が躊躇して引き剥がせない。それに、彼の腕に巻かれた包帯が目に留まり、力を入れることが出来なくなる。


 う、そ……私は、やめて欲しくないの……?


 ヒクヒクと神経が跳ねるような刺激に晒されながら、自分で自分が分からなくなる……

 はだけたガウンの下、夜着と一緒に彼の長くて私よりも太い指の間に挟まれ、小さく擦り合わされているだけなのに……

 オーセシオン殿下に無理やり触られた時と全然違う。あの時は鳥肌が立つような嫌悪感しかなかったのに、どうしてこんなにも違うんだろう。

 下半身の疼きに脚を何度も擦り合わせて身悶える。

 抵抗出来るはずなのに、抵抗出来ない自分に困惑する。


 ど……どうしよう……


 カロイス殿の腕を掴んだまま甘い疼きに晒されつつも、何も出来ずに身悶えるしかなかった……












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