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第368話
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冒険者ギルドの受付で、アンジュがレティオールとシャルルのことで話をしていた。
「届け出はありませんが、銀翼所属ですか?」
手元の書類を見ながら話す受付嬢は困惑していた。
「違うわ。でも、客人として迎えているので、なにかあれば連絡は銀翼まで頼めるかしら」
「はい、承知しました」
凛として振る舞うアンジュの姿に、とても同世代とは思えなかった。
リゼの時もそうだったが、自分への劣等感に苛まれる。
「大変申し上げにくいのですが、クエスト受注していませんので、報酬などはありません」
「それは大丈夫です。そういうつもりで行動したわけではないので」
「そうですか……安心しました」
受付嬢は表情に出さないが、問題事に発展しないことで済んだと分かり、安心していた。
報酬が減らずに仕事が楽になるのであれば、クエスト受注した冒険者たちからも文句は出ない。
ただ、有償無償に関わらず、救助してくれた冒険者のことは覚えている。
過去に助けられたことのある者は、憧れの冒険者として脳裏に焼き付いている。
レティオールとシャルルも、その冒険者の一人になっていた。
「これで完了しました」
書類など全てに目を通し、終了した受付嬢が言葉とともに一礼して、感謝の気持ちを表した。
帰ろうとすると、何人かの冒険者がレティオールとシャルルに声をかけていた。
その表情からも、目の前にいる二人の人柄がよく分かる。
人付き合いが得意でないリゼと、二人の出会いについては詳しく聞いていない。
バビロニアで出会ってから行動を共にしていると。
この二人がいたから、リゼも少し変わったのかもしれないと思いながら、話が終わるまでアンジュは静かに待っていた。
「すみません」
先ほど応対していた受付嬢とは別の受付嬢が、走り寄ってきた。
視線の先は、アンジュや他の冒険者でなく、レティオールとシャルルだった。
「こちら、救助された人たちから渡すようにと」
小さな木箱に花が入っていた。
レティオールとシャルルの横で、話しかけてきた冒険者たちが、気付かないように笑っている。
どうやら、二人にこれを渡すために、冒険者ギルド会館に足止めをしていたようだ。
もしかしたら、彼らが救助された人たちから二人に渡してもらうようにと、直接花をもらったのだろうか。
それが彼らに託されたのだとしたら、それは無償のクエストと同じだ。
冒険者であれば、クエストは達成するものだが、それとは別の心情だろう。
帰り道、シャルルは嬉しかったのか終始笑顔だった。
レティオールも内心は嬉しいのだろう。
時折、枯れそうになっている花を見て笑っていることを、アンジュは見逃さなかった。
本当に性格の良い冒険者だと思いながらも複雑な心境だった。
……優しすぎるということは、欠点にもなるからだ。
そう、仲間を人質に取られた場合、正常な判断が出来るか……それは自分にも出来ると断言できない。
だが、クランのリーダーとなった自分は非情な判断をする時が来る。
それが出来るのだろうか……と、常日頃から悩んでいたが、弱い自分をジェイドやリゼに見せるわけにはいかない。
そう……この首飾りに誓って。
アンジュは首飾りを握りしめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都の一室でエミリネットとユーリが真剣な顔で酒を吞んでいた。
「ユーリだったら、どう?」
「正直言えば……嫌ね」
エミリネットが答えると、二人は同時に酒を一口飲む。
「……私も同じよ。スキルの種類は詳しくないけど、あのスキルは――」
「スキルは神からの贈り物と聞いて育ったから、与えられたスキルが自分を窮地に陥れるなんてね」
「たしかに、そうね」
話題はリゼのスキルについてだった。
「ユーリも王都第一学習院出身だったわよね?」
「えぇ、リアムとは同級生だったわよ。エミリネットは先輩だったわよね?」
「ユーリたちの二つ上よ。私の言おうとすることは分かる?」
「もちろんよ。ナルセーユ先生ね」
「そう、スキル研究の第一人者。今は投獄されている犯罪者だけどね」
「……表向きわね」
「スキルの調査はアルカントラ法国のみ許される行為で、統計だけを許されていたわけだから、それ以上のことはアルカントラ法国への反逆罪だと思われても仕方がないわね」
スキルは神の贈り物。
統計を取ることは問題ないが、スキルの研究などはアルカントラ法国では禁忌とされている。
神への冒涜だと考えられているからだ。
「スキルの研究は、各国が極秘に進めているのは間違いないしね。エルガレム王国としても、研究を止めるわけにいかない事情もあるから仕方がないわ」
「えぇ、スキルの進化や、ユニークスキルなどの条件が解明できれば、大発見だし、その情報を独占すれば、得られる利益は膨大なものになるしね」
二人はアルカントラ法国への不信感を確認するように話し続けた。
「話を戻すけど、リゼは国王様からの褒美も全て拒否していたし、彼女らしいといえば、彼女らしかったわね」
エミリネットは酒を流し込む。
「謁見の間を去る際の顔は見た?」
「見ていないけど、なにかあった?」
「青ざめていたわ」
「それは緊張が解けたからとか?」
「そんな感じじゃなかったわ。もしかしたら、スキルに関係していたのかもしれないわね。その後も、平静を装っていたみたいだけど、なんか雰囲気が違っていたわ」
「よく見ていたわね」
「人間観察は、私の職業でも大事なことだから癖みたいなものよ」
ユーリも話し過ぎたのか、酒で喉を潤す。
「アルカントラ法国との関係もあるから、獄中となっているけど、研究場所を地下に移して、他事をせずに研究に没頭しているので、ナルセーユ先生にとっては、よい環境になっただけよね」
「そうそう。でも、犯罪者という汚名は残っちゃってるけど……まぁ、今回のことで、それもどうなるか」
エミリネットのいう「今回のこと」とは四葉の騎士による襲撃のことだ。
アルカントラ法国との関係が変われば、秘密裏に継続していた件も公に……つまり、ナルセーユの罪をなかったことに出来る。
「ナルセーユ先生に、リゼを会わせることが出来れば……」
ユーリはリゼが可哀そうだと思っていた。
それは自分の勝手な思いだとも分かっている。
「……そうね」
エミリネットは残っていた酒を一気に飲み干す。
ユーリと同じように、リゼを不憫に思っていた。
「まぁ、リアムに言えば可能だけど、リゼの気持ちを無視はできないわ」
「そうだけど、リアムに話をしてみるだけだったら問題ないんじゃない?」
「そうね」
女性二人が呑み交わす酒は、夜遅くまで続いた――。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:四十八』
『運:六十一』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
■罰則
・闇属性魔法”ドレイン”の消去
・身体的成長速度停止。期限:一生涯
・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
「届け出はありませんが、銀翼所属ですか?」
手元の書類を見ながら話す受付嬢は困惑していた。
「違うわ。でも、客人として迎えているので、なにかあれば連絡は銀翼まで頼めるかしら」
「はい、承知しました」
凛として振る舞うアンジュの姿に、とても同世代とは思えなかった。
リゼの時もそうだったが、自分への劣等感に苛まれる。
「大変申し上げにくいのですが、クエスト受注していませんので、報酬などはありません」
「それは大丈夫です。そういうつもりで行動したわけではないので」
「そうですか……安心しました」
受付嬢は表情に出さないが、問題事に発展しないことで済んだと分かり、安心していた。
報酬が減らずに仕事が楽になるのであれば、クエスト受注した冒険者たちからも文句は出ない。
ただ、有償無償に関わらず、救助してくれた冒険者のことは覚えている。
過去に助けられたことのある者は、憧れの冒険者として脳裏に焼き付いている。
レティオールとシャルルも、その冒険者の一人になっていた。
「これで完了しました」
書類など全てに目を通し、終了した受付嬢が言葉とともに一礼して、感謝の気持ちを表した。
帰ろうとすると、何人かの冒険者がレティオールとシャルルに声をかけていた。
その表情からも、目の前にいる二人の人柄がよく分かる。
人付き合いが得意でないリゼと、二人の出会いについては詳しく聞いていない。
バビロニアで出会ってから行動を共にしていると。
この二人がいたから、リゼも少し変わったのかもしれないと思いながら、話が終わるまでアンジュは静かに待っていた。
「すみません」
先ほど応対していた受付嬢とは別の受付嬢が、走り寄ってきた。
視線の先は、アンジュや他の冒険者でなく、レティオールとシャルルだった。
「こちら、救助された人たちから渡すようにと」
小さな木箱に花が入っていた。
レティオールとシャルルの横で、話しかけてきた冒険者たちが、気付かないように笑っている。
どうやら、二人にこれを渡すために、冒険者ギルド会館に足止めをしていたようだ。
もしかしたら、彼らが救助された人たちから二人に渡してもらうようにと、直接花をもらったのだろうか。
それが彼らに託されたのだとしたら、それは無償のクエストと同じだ。
冒険者であれば、クエストは達成するものだが、それとは別の心情だろう。
帰り道、シャルルは嬉しかったのか終始笑顔だった。
レティオールも内心は嬉しいのだろう。
時折、枯れそうになっている花を見て笑っていることを、アンジュは見逃さなかった。
本当に性格の良い冒険者だと思いながらも複雑な心境だった。
……優しすぎるということは、欠点にもなるからだ。
そう、仲間を人質に取られた場合、正常な判断が出来るか……それは自分にも出来ると断言できない。
だが、クランのリーダーとなった自分は非情な判断をする時が来る。
それが出来るのだろうか……と、常日頃から悩んでいたが、弱い自分をジェイドやリゼに見せるわけにはいかない。
そう……この首飾りに誓って。
アンジュは首飾りを握りしめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
王都の一室でエミリネットとユーリが真剣な顔で酒を吞んでいた。
「ユーリだったら、どう?」
「正直言えば……嫌ね」
エミリネットが答えると、二人は同時に酒を一口飲む。
「……私も同じよ。スキルの種類は詳しくないけど、あのスキルは――」
「スキルは神からの贈り物と聞いて育ったから、与えられたスキルが自分を窮地に陥れるなんてね」
「たしかに、そうね」
話題はリゼのスキルについてだった。
「ユーリも王都第一学習院出身だったわよね?」
「えぇ、リアムとは同級生だったわよ。エミリネットは先輩だったわよね?」
「ユーリたちの二つ上よ。私の言おうとすることは分かる?」
「もちろんよ。ナルセーユ先生ね」
「そう、スキル研究の第一人者。今は投獄されている犯罪者だけどね」
「……表向きわね」
「スキルの調査はアルカントラ法国のみ許される行為で、統計だけを許されていたわけだから、それ以上のことはアルカントラ法国への反逆罪だと思われても仕方がないわね」
スキルは神の贈り物。
統計を取ることは問題ないが、スキルの研究などはアルカントラ法国では禁忌とされている。
神への冒涜だと考えられているからだ。
「スキルの研究は、各国が極秘に進めているのは間違いないしね。エルガレム王国としても、研究を止めるわけにいかない事情もあるから仕方がないわ」
「えぇ、スキルの進化や、ユニークスキルなどの条件が解明できれば、大発見だし、その情報を独占すれば、得られる利益は膨大なものになるしね」
二人はアルカントラ法国への不信感を確認するように話し続けた。
「話を戻すけど、リゼは国王様からの褒美も全て拒否していたし、彼女らしいといえば、彼女らしかったわね」
エミリネットは酒を流し込む。
「謁見の間を去る際の顔は見た?」
「見ていないけど、なにかあった?」
「青ざめていたわ」
「それは緊張が解けたからとか?」
「そんな感じじゃなかったわ。もしかしたら、スキルに関係していたのかもしれないわね。その後も、平静を装っていたみたいだけど、なんか雰囲気が違っていたわ」
「よく見ていたわね」
「人間観察は、私の職業でも大事なことだから癖みたいなものよ」
ユーリも話し過ぎたのか、酒で喉を潤す。
「アルカントラ法国との関係もあるから、獄中となっているけど、研究場所を地下に移して、他事をせずに研究に没頭しているので、ナルセーユ先生にとっては、よい環境になっただけよね」
「そうそう。でも、犯罪者という汚名は残っちゃってるけど……まぁ、今回のことで、それもどうなるか」
エミリネットのいう「今回のこと」とは四葉の騎士による襲撃のことだ。
アルカントラ法国との関係が変われば、秘密裏に継続していた件も公に……つまり、ナルセーユの罪をなかったことに出来る。
「ナルセーユ先生に、リゼを会わせることが出来れば……」
ユーリはリゼが可哀そうだと思っていた。
それは自分の勝手な思いだとも分かっている。
「……そうね」
エミリネットは残っていた酒を一気に飲み干す。
ユーリと同じように、リゼを不憫に思っていた。
「まぁ、リアムに言えば可能だけど、リゼの気持ちを無視はできないわ」
「そうだけど、リアムに話をしてみるだけだったら問題ないんじゃない?」
「そうね」
女性二人が呑み交わす酒は、夜遅くまで続いた――。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:四十八』
『運:六十一』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
■罰則
・闇属性魔法”ドレイン”の消去
・身体的成長速度停止。期限:一生涯
・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
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