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第372話
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オルビスの低く張りのある声が闘技場に響いた。
「――はじめ!」
最初に動いたのはフィーネだった。
迷いのない一直線の突進。
床を蹴り、重心を前に預ける武闘家らしい初動だ。
狙いはアンジュで、厄介な魔法攻撃をさせないためだ。
三人で事前に決めた、唯一にして最善の勝ち筋。
「えっ!」
目の前にいるリゼが視界から消えた。
障害物にあるリゼを、どうやってかわそうかと考え、不安があった。
(どこに……もしかして!)
すでにレティオールの方へ向かっているかと、視線をレティオールとシャルルの方に向けるが、そこにもリゼの姿はない! と思った次の瞬間、フィーネの側面に影が差す。
真正面からの戦いでなく、自分の特性を生かしたリゼの攻撃にフィーネの反応が遅れる。
「っ――!」
かろうじて反応するが、拳の軌道が僅かに逸れた。
反動を利用して後退する。
再度、周囲を見渡してリゼの姿を探す。
「フィーネ、右!」
レティオールの声が飛ぶ。
二人の間に入り込むと同時に盾を前に出し、リゼの追撃を遮る。
「ありがとう」
「礼はいいよ。それよりも戦いに集中しよう」
「えぇ」
しばし傍観していたアンジュだったが、レティオールの判断を待っていたかのように“サンダーボール”を放つ。
――バチリ、と空気が裂ける音が響く。
サンダーボールが直撃すると、レティオールは表情を少しだけ歪めるだけだった。
その様子にアンジュが眉をひそめる。
偶然にも、地面と接触していたレティオールの盾がアースの役割をして、サンダーボールの電撃を地面に流した……が、ノーダメージではない。
視覚と聴覚の正常な働きを奪っていた。
「大丈夫!」
動きが止まり焦点が合っていない目で、地面を見続けるレティオールの異変に気付き、心配するフィーネ。
だが、返事をしないレティオール。
心配するシャルルが駆け寄ると、体を揺さぶる。
「あぁ、ゴメン。もう、大丈夫」
奪われていた視覚と聴覚が、正常な働きを取り戻そうとしていた。
光を取り戻した目は、攻撃をしたアンジュを捉える。
「予定通り……とは、いかないわね。これは、どうかしら」
アンジュがつぶやくと、続けて風が渦を巻く。
風属性魔法の“ストーム”だ。
この場所で使える魔法には制限がある。
中規模魔法と大規模魔法は使用禁止。
ただし、規模調整した中規模魔法であれば使用可能。
アンジュが使ったストームは中規模魔法だった。
調整を間違えて地下訓練場を破壊すれば、その修繕費用は使用したクランに請求される。
それを知っているから、アンジュも魔法放出の調整に神経を使っていた。
円形に広がる突風が三人を闘技場中心から外周へと押しやっていく。
レティオールは歯を食いしばり、盾を地面に叩きつける。
フィーネも必死で踏ん張っている。
「シャルル、捕まって」
「う、うん」
レティオールに掴まりながら「何もできない」と、仲間二人を見る。
だが、風の流れにレティオールとフィーネの意識を割いたその一瞬、リゼは風の勢いも借り、レティオールの死角へと潜り込んでいた。
意図せぬ場所から現れたリゼに驚く。
リゼは冷静に状況を把握して、レティオールに足払いをする。
重心をズラして、場外まで飛んでもらうつもりだった。
リゼはレティオールを見ずに、そのままフィーネの方へ向かう。
ギリギリで踏ん張ったが、レティオールの意識は下半身に向けられていた。
一方で、一連の動きに反応できなかったシャルルが、掴んでいた手を放す。
絶望のシャルル。
この模擬戦で、なにもしないまま場外に飛ばされて失格になる……仕方がないと、すべてを諦める。
「シャルル!」
体勢を崩しながらも、レティオールは飛ばされるシャルルの腕を強引に掴む。
風が収まらないなか、アンジュが追撃の魔法”ファイアニードル”を放つと、レティオールの体を貫く。
「ぐっ!」
奇しくもファイアニードルがレティオールの体を固定している。
しかし、貫かれた場所からの出血は止まらない。
傷口は火傷も負っている。
それでもレティオールはシャルルの腕を握ったまま、決して離そうとしない。
「思ったよりも根性あるな」
「仲間を守るのが“タンク”の役目よ。それ以前の問題よ」
「たしかにな」
オルビスとナナオが、レティオールの様子を見て会話を始めた。
二人ともタイプは違うが、タンクという役割を担う冒険者だ。
仲間を守るために、仲間から気を逸らすための犠牲、それこそがタンク。
だからこそ、目の前で仲間の手を離さないレティオールの行動に共感していた。
だが、それはタンクだからでなく、仲間を助けるのは冒険者として当たり前の行動だと、ナナオが補足した。
「経験不足は否めないわね」
「今から積めばいいだけのことだ」
「そうね。でも、そう思っていると、取り返しのつかないことだって……」
「それも……経験だ」
「優しいんだか、厳しいんだか」
視線を合わせることなく会話する二人。
戦況が変わる瞬間を見逃さないためだった。
ファイアニードルで身動きが取れない状況が終われば、傷ついた体でストームに耐えるしかない。
最後まで、その掴んだ手を離さないでいられるか……試されているレティオール。
そして、自身を犠牲してでも仲間を助ける覚悟があるのか……シャルルの判断にも興味を示す。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:四十八』
『運:六十一』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
■罰則
・闇属性魔法”ドレイン”の消去
・身体的成長速度停止。期限:一生涯
・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
「――はじめ!」
最初に動いたのはフィーネだった。
迷いのない一直線の突進。
床を蹴り、重心を前に預ける武闘家らしい初動だ。
狙いはアンジュで、厄介な魔法攻撃をさせないためだ。
三人で事前に決めた、唯一にして最善の勝ち筋。
「えっ!」
目の前にいるリゼが視界から消えた。
障害物にあるリゼを、どうやってかわそうかと考え、不安があった。
(どこに……もしかして!)
すでにレティオールの方へ向かっているかと、視線をレティオールとシャルルの方に向けるが、そこにもリゼの姿はない! と思った次の瞬間、フィーネの側面に影が差す。
真正面からの戦いでなく、自分の特性を生かしたリゼの攻撃にフィーネの反応が遅れる。
「っ――!」
かろうじて反応するが、拳の軌道が僅かに逸れた。
反動を利用して後退する。
再度、周囲を見渡してリゼの姿を探す。
「フィーネ、右!」
レティオールの声が飛ぶ。
二人の間に入り込むと同時に盾を前に出し、リゼの追撃を遮る。
「ありがとう」
「礼はいいよ。それよりも戦いに集中しよう」
「えぇ」
しばし傍観していたアンジュだったが、レティオールの判断を待っていたかのように“サンダーボール”を放つ。
――バチリ、と空気が裂ける音が響く。
サンダーボールが直撃すると、レティオールは表情を少しだけ歪めるだけだった。
その様子にアンジュが眉をひそめる。
偶然にも、地面と接触していたレティオールの盾がアースの役割をして、サンダーボールの電撃を地面に流した……が、ノーダメージではない。
視覚と聴覚の正常な働きを奪っていた。
「大丈夫!」
動きが止まり焦点が合っていない目で、地面を見続けるレティオールの異変に気付き、心配するフィーネ。
だが、返事をしないレティオール。
心配するシャルルが駆け寄ると、体を揺さぶる。
「あぁ、ゴメン。もう、大丈夫」
奪われていた視覚と聴覚が、正常な働きを取り戻そうとしていた。
光を取り戻した目は、攻撃をしたアンジュを捉える。
「予定通り……とは、いかないわね。これは、どうかしら」
アンジュがつぶやくと、続けて風が渦を巻く。
風属性魔法の“ストーム”だ。
この場所で使える魔法には制限がある。
中規模魔法と大規模魔法は使用禁止。
ただし、規模調整した中規模魔法であれば使用可能。
アンジュが使ったストームは中規模魔法だった。
調整を間違えて地下訓練場を破壊すれば、その修繕費用は使用したクランに請求される。
それを知っているから、アンジュも魔法放出の調整に神経を使っていた。
円形に広がる突風が三人を闘技場中心から外周へと押しやっていく。
レティオールは歯を食いしばり、盾を地面に叩きつける。
フィーネも必死で踏ん張っている。
「シャルル、捕まって」
「う、うん」
レティオールに掴まりながら「何もできない」と、仲間二人を見る。
だが、風の流れにレティオールとフィーネの意識を割いたその一瞬、リゼは風の勢いも借り、レティオールの死角へと潜り込んでいた。
意図せぬ場所から現れたリゼに驚く。
リゼは冷静に状況を把握して、レティオールに足払いをする。
重心をズラして、場外まで飛んでもらうつもりだった。
リゼはレティオールを見ずに、そのままフィーネの方へ向かう。
ギリギリで踏ん張ったが、レティオールの意識は下半身に向けられていた。
一方で、一連の動きに反応できなかったシャルルが、掴んでいた手を放す。
絶望のシャルル。
この模擬戦で、なにもしないまま場外に飛ばされて失格になる……仕方がないと、すべてを諦める。
「シャルル!」
体勢を崩しながらも、レティオールは飛ばされるシャルルの腕を強引に掴む。
風が収まらないなか、アンジュが追撃の魔法”ファイアニードル”を放つと、レティオールの体を貫く。
「ぐっ!」
奇しくもファイアニードルがレティオールの体を固定している。
しかし、貫かれた場所からの出血は止まらない。
傷口は火傷も負っている。
それでもレティオールはシャルルの腕を握ったまま、決して離そうとしない。
「思ったよりも根性あるな」
「仲間を守るのが“タンク”の役目よ。それ以前の問題よ」
「たしかにな」
オルビスとナナオが、レティオールの様子を見て会話を始めた。
二人ともタイプは違うが、タンクという役割を担う冒険者だ。
仲間を守るために、仲間から気を逸らすための犠牲、それこそがタンク。
だからこそ、目の前で仲間の手を離さないレティオールの行動に共感していた。
だが、それはタンクだからでなく、仲間を助けるのは冒険者として当たり前の行動だと、ナナオが補足した。
「経験不足は否めないわね」
「今から積めばいいだけのことだ」
「そうね。でも、そう思っていると、取り返しのつかないことだって……」
「それも……経験だ」
「優しいんだか、厳しいんだか」
視線を合わせることなく会話する二人。
戦況が変わる瞬間を見逃さないためだった。
ファイアニードルで身動きが取れない状況が終われば、傷ついた体でストームに耐えるしかない。
最後まで、その掴んだ手を離さないでいられるか……試されているレティオール。
そして、自身を犠牲してでも仲間を助ける覚悟があるのか……シャルルの判断にも興味を示す。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:四十八』
『運:六十一』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
■罰則
・闇属性魔法”ドレイン”の消去
・身体的成長速度停止。期限:一生涯
・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
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