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第374話
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「三人とも合格よ。それでいいわよね」
「いいっスよ。銀翼の正式メンバーっスね」
「うん」
満場一致だった。
金狼の三人は、最初から口を出すつもりはなかった。
あくまでコウガの嫌がらせに過ぎない。
クランのことはクランメンバーで決めればいい、という考えだ。
事前にアンジュとジェイドは、自分たちのように見習いから始めさせるか、を二人で相談していた。
見習いだった理由は、アルベルトたちと実力差があったからだと納得している。
だが、今の自分たちと加入する三人との差は、それほどあるのか……と。
戦いを見て、そこまで大きくないと感じ取った二人は、”見習い”という言葉を使わなかった。
逆を言えば、それだけ自分たちが強くなっていない。
喜びを体で表現するフィーネに、静かに拳を握るレティオール。
その一方で浮かない顔のシャルル。
今の試験で、なにも出来なかったという自覚があった。
――不甲斐ない。と自分を責めていた。
「大丈夫だよ」
シャルルの気持ちを察したリゼが声を掛ける。
「……でも」
納得できていないシャルル。
「シャルル。顔を上げなさい。戦闘だけが全てじゃないわよ。その前でも傷ついている私たちを自分から治療してくれたでしょ」
「そうっスよ」
「うん。シャルルも間違いなく合格だよ」
リゼたち三人の顔を見た後、ともに戦ったレティオールとフィーネを見る。
皆、笑顔だ。
「ありがとう……ございます」
涙を流すシャルル。
初めて自分自身を認めてもらえた! という感情があふれ出す。
聖女候補と言われながら、一瞬で態度を変えられた過去が蘇る。
だが、この目の前にいる人たちは違う。
そう、心が言っていた。
「では、誰から戦いますか?」
アンジュが金狼の三人に向かって尋ねた。
「おいおい。さすがに連戦疲れがあるだろう。少し休憩でもしていろ。その間……オルビス。俺の相手でもしてくれ」
「何を馬鹿なこと言っているの!」
オルビスに対戦を申し入れるコウガを制するナナオ。
「あぁ、いいぞ。若い奴らに負けていられないからな」
「ちょ、ちょっと」
オルビスが承諾すると、ナナオが動揺していた。
「冒険者ギルドの連中もいないようだし、別にいいだろう。あっ、内緒だからな」
些細なことだと言わんばかりに話すオルビスは立ち上がり、闘技場へと向かう。
気づくとコウガは既に闘技場に立っていた。
「S級冒険者様の胸を借りるつもりで戦わせてもらうわ」
「現王都最強冒険者のお手並み拝見だな」
「余裕をかましていられるのも、今だけだぞ。前王都最強冒険者オルビス」
言葉に対抗心が宿っている。
ナナオは諦めたようだが、マリックはため息をつく。
「コウガ、駄目だ。それは個人としてもクランとしても、看過できない。オルビスも立場を考えてくれ」
戦う気でいた二人だったが、マリックの言葉でやる気を削がれる。
「よく考えろ。それは、金狼のリーダーとして正しい判断か? どうしても、個人で戦いたいのであれば、ここでなく別の日、別の場所で戦ってくれ」
「ちっ!」
睨まれたコウガは舌打ちをする。
「オルビスもだ。コウガと戦えば、無傷ってわけにもいかないだろう。傷は塞がったとしても破れた服などを、ここから出た時に説明できるのか? 変な噂でも立とうものなら、その責任も全て取ってくれるのかい?」
「……悪い。お前の言うとおりだ」
うなだれるオルビス。
クランを解散して以来、本気で戦ったことがないので、力を持て余していることは分かっていた。
だが、その捌け口を金狼に向けられるのでは、たまったものではない。
総合的に考えて、マリックの判断は正しかった。
外の冒険者たちは、ここで起きていることを知らない。
金狼と銀翼が模擬戦をすることを……連名で使用許可を出しただけだ。
銀翼の新メンバーの入団試験と自分たちの訓練を合わせておこなったと、言い訳をしても通じる。
「しかし、連戦というのは確かです。少しだけ休憩しましょう。その後に、私とジェイドが戦うってことでいいですね」
問いかけでなく決定事項だった。
「オルビスも暇なら、冒険者の育成でもしていてください。ちょうどそこに、おあつらえ向きの若い冒険者がいるでしょう」
マリックの視線はレティオールを捉えていた。
「ユーリも、そちらの方に先輩として教えることがあるのでは?」
続けてユーリ、シャルルと視線を移す。
「別にいいわよ」
ユーリは承諾すると、座っているシャルルの方へと移動する。
「でも、その前に」
近くにいたリゼとアンジュに回復魔法を施すと、「短い間だけど、きちんと休むのよ」とだけ言い、シャルルの隣に座った。
アンジュとリゼは、ユーリの言葉に従い、次の戦いに向けて体を休める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
休憩の時間が終わる。
と言っても、その時間はオルビスとレティオール、ユーリとシャルルの特訓や講義の時間だった。
フィーネはジェイドと戦いについての意見を交わしていた。
アンジュもエミリネットと、魔法談議に花を咲かせる。
リゼはコウガとの戦いを頭のなかで想像していた。
二年前の戦いや、今の自分に出来ることなどを――。
しかし、いまだに表示されないメインクエストの恐怖は収まっていない。
戦いにおいては、邪魔な考えだと分かっていたが完全に払拭することはできない。
「リゼ!」
不意に名前を呼ばれた。
相手はエミリネットだった。
どうやら、アンジュとの魔法談義は終わったようだ。
この後の戦いもあるので、休ませるためにエミリネットが気を使ったのだろう。
「明日、少し時間をもらえないかしら?」
「明日ですか?」
「なにか予定でもあった?」
「いいえ、特になにもありません」
「そう。じゃあ、朝食を食べ終えたくらいに銀翼館に行くから、よろしくね」
「はい……もしかして、国王様に関係していますか?」
自分が無礼な振る舞いをしたという自覚があるからこそ、呼び出されたのではないかと怯えた。
「違うわよ。大丈夫だから、安心してちょうだい。ある場所に付き合ってもらうだけだから」
「そうですか」
なぜ、自分を誘ったのか? という疑問を感じながらも、それ以上のことを質問するつもりはなかった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:四十八』
『運:六十一』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
■罰則
・闇属性魔法”ドレイン”の消去
・身体的成長速度停止。期限:一生涯
・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
「いいっスよ。銀翼の正式メンバーっスね」
「うん」
満場一致だった。
金狼の三人は、最初から口を出すつもりはなかった。
あくまでコウガの嫌がらせに過ぎない。
クランのことはクランメンバーで決めればいい、という考えだ。
事前にアンジュとジェイドは、自分たちのように見習いから始めさせるか、を二人で相談していた。
見習いだった理由は、アルベルトたちと実力差があったからだと納得している。
だが、今の自分たちと加入する三人との差は、それほどあるのか……と。
戦いを見て、そこまで大きくないと感じ取った二人は、”見習い”という言葉を使わなかった。
逆を言えば、それだけ自分たちが強くなっていない。
喜びを体で表現するフィーネに、静かに拳を握るレティオール。
その一方で浮かない顔のシャルル。
今の試験で、なにも出来なかったという自覚があった。
――不甲斐ない。と自分を責めていた。
「大丈夫だよ」
シャルルの気持ちを察したリゼが声を掛ける。
「……でも」
納得できていないシャルル。
「シャルル。顔を上げなさい。戦闘だけが全てじゃないわよ。その前でも傷ついている私たちを自分から治療してくれたでしょ」
「そうっスよ」
「うん。シャルルも間違いなく合格だよ」
リゼたち三人の顔を見た後、ともに戦ったレティオールとフィーネを見る。
皆、笑顔だ。
「ありがとう……ございます」
涙を流すシャルル。
初めて自分自身を認めてもらえた! という感情があふれ出す。
聖女候補と言われながら、一瞬で態度を変えられた過去が蘇る。
だが、この目の前にいる人たちは違う。
そう、心が言っていた。
「では、誰から戦いますか?」
アンジュが金狼の三人に向かって尋ねた。
「おいおい。さすがに連戦疲れがあるだろう。少し休憩でもしていろ。その間……オルビス。俺の相手でもしてくれ」
「何を馬鹿なこと言っているの!」
オルビスに対戦を申し入れるコウガを制するナナオ。
「あぁ、いいぞ。若い奴らに負けていられないからな」
「ちょ、ちょっと」
オルビスが承諾すると、ナナオが動揺していた。
「冒険者ギルドの連中もいないようだし、別にいいだろう。あっ、内緒だからな」
些細なことだと言わんばかりに話すオルビスは立ち上がり、闘技場へと向かう。
気づくとコウガは既に闘技場に立っていた。
「S級冒険者様の胸を借りるつもりで戦わせてもらうわ」
「現王都最強冒険者のお手並み拝見だな」
「余裕をかましていられるのも、今だけだぞ。前王都最強冒険者オルビス」
言葉に対抗心が宿っている。
ナナオは諦めたようだが、マリックはため息をつく。
「コウガ、駄目だ。それは個人としてもクランとしても、看過できない。オルビスも立場を考えてくれ」
戦う気でいた二人だったが、マリックの言葉でやる気を削がれる。
「よく考えろ。それは、金狼のリーダーとして正しい判断か? どうしても、個人で戦いたいのであれば、ここでなく別の日、別の場所で戦ってくれ」
「ちっ!」
睨まれたコウガは舌打ちをする。
「オルビスもだ。コウガと戦えば、無傷ってわけにもいかないだろう。傷は塞がったとしても破れた服などを、ここから出た時に説明できるのか? 変な噂でも立とうものなら、その責任も全て取ってくれるのかい?」
「……悪い。お前の言うとおりだ」
うなだれるオルビス。
クランを解散して以来、本気で戦ったことがないので、力を持て余していることは分かっていた。
だが、その捌け口を金狼に向けられるのでは、たまったものではない。
総合的に考えて、マリックの判断は正しかった。
外の冒険者たちは、ここで起きていることを知らない。
金狼と銀翼が模擬戦をすることを……連名で使用許可を出しただけだ。
銀翼の新メンバーの入団試験と自分たちの訓練を合わせておこなったと、言い訳をしても通じる。
「しかし、連戦というのは確かです。少しだけ休憩しましょう。その後に、私とジェイドが戦うってことでいいですね」
問いかけでなく決定事項だった。
「オルビスも暇なら、冒険者の育成でもしていてください。ちょうどそこに、おあつらえ向きの若い冒険者がいるでしょう」
マリックの視線はレティオールを捉えていた。
「ユーリも、そちらの方に先輩として教えることがあるのでは?」
続けてユーリ、シャルルと視線を移す。
「別にいいわよ」
ユーリは承諾すると、座っているシャルルの方へと移動する。
「でも、その前に」
近くにいたリゼとアンジュに回復魔法を施すと、「短い間だけど、きちんと休むのよ」とだけ言い、シャルルの隣に座った。
アンジュとリゼは、ユーリの言葉に従い、次の戦いに向けて体を休める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
休憩の時間が終わる。
と言っても、その時間はオルビスとレティオール、ユーリとシャルルの特訓や講義の時間だった。
フィーネはジェイドと戦いについての意見を交わしていた。
アンジュもエミリネットと、魔法談議に花を咲かせる。
リゼはコウガとの戦いを頭のなかで想像していた。
二年前の戦いや、今の自分に出来ることなどを――。
しかし、いまだに表示されないメインクエストの恐怖は収まっていない。
戦いにおいては、邪魔な考えだと分かっていたが完全に払拭することはできない。
「リゼ!」
不意に名前を呼ばれた。
相手はエミリネットだった。
どうやら、アンジュとの魔法談義は終わったようだ。
この後の戦いもあるので、休ませるためにエミリネットが気を使ったのだろう。
「明日、少し時間をもらえないかしら?」
「明日ですか?」
「なにか予定でもあった?」
「いいえ、特になにもありません」
「そう。じゃあ、朝食を食べ終えたくらいに銀翼館に行くから、よろしくね」
「はい……もしかして、国王様に関係していますか?」
自分が無礼な振る舞いをしたという自覚があるからこそ、呼び出されたのではないかと怯えた。
「違うわよ。大丈夫だから、安心してちょうだい。ある場所に付き合ってもらうだけだから」
「そうですか」
なぜ、自分を誘ったのか? という疑問を感じながらも、それ以上のことを質問するつもりはなかった。
――――――――――――――――――――
■リゼの能力値
『体力:四十八』
『魔力:三十三』
『力:三十三』
『防御:二十一』
『魔法力:二十六』
『魔力耐性:十三』
『敏捷:百四十三』
『回避:五十六』
『魅力:四十八』
『運:六十一』
『万能能力値:零』
■メインクエスト
■サブクエスト
・ミコトの捜索。期限:一年
・報酬:慧眼の強化
■シークレットクエスト
■罰則
・闇属性魔法”ドレイン”の消去
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・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
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