私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵

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第376話

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 武闘家なのに、回復魔法を使える。
 ……その事実が、フィーネに衝撃を与えていた。
 目の前で直前まで戦っていたマリックの姿が、頭から離れなかった。
 闘技場の床に残る無数の足跡と、まだ完全には冷えきらない空気。

 ――どうしてだろう。

 拳と拳がぶつかり合うあの距離で……一歩でも判断を誤れば、意識を刈り取られるあの速度の中で……どうして、“治す”という余裕を持てるのか。
 フィーネは、少し離れた場所に立つマリックの背中を見つめていた。
 彼は試合を終えたばかりだというのに、肩で息をすることもなく、コウガやナナオと談笑している。
 会話の最中に、マリックの指先に、かすかな光が宿った。

 ――回復魔法。

 先ほどまで、あれほど激しく殴り合っていたはずの拳。
 その赤みと腫れが、光に触れるたびに、まるで時間を巻き戻すように消えていく。
 フィーネは、自分の拳を見下ろした。
 同じ武闘家。
 同じように、前に出て、殴り合うことを選ぶ立場。

 (なのに――どうして)

 殴られれば痛みに歯を食いしばり、
 動けなくなる前に勝負を決めるしかない。
 回復は後ろの回復魔術師や治癒師に任せるもの。
 それが、当たり前だと思っていた。
 でも、今、目の前で見た光は違った。

「……」

 気付けば、フィーネは歩き出していた。
 距離が縮まるにつれて、マリックの存在感がはっきりしてくる。
 強者特有の、張りつめた空気ではない。
 戦いを終えた者だけが持つ、余裕を持った落ち着き。

「マリックさん」

 呼びかけると彼は振り返り、短く視線を向けた。

「なにか?」

 フィーネは一瞬、言葉に詰まった。
 何を聞きたいのかは分かっている。
 でも、それをどう口にすればいいのかが分からない。

「……さっきの試合」

 ようやく、それだけを絞り出す。

「殴られて、踏み込んで、それでも……治してましたよね」
「していたな」

 遠回しな問いに対して、あまりに当然のような返答に、フィーネは息を呑む。

「どうして……そんなことが出来るんですか?」

 その問いは、技術を聞くものじゃなかった。
 理屈でもない。
 癒闘家ゆとうかという職業を知らないフィーネにとっては、武闘家としての在り方を問う言葉だった。
 マリックは少しだけ考え、それから答えた。

「出来るから、やっているだけだよ」
「……出来る、からですか」
「だが理由があるとすれば――」

 マリックは自分の胸に、拳を軽く当てた。

「倒れたくないからだ」

 短い言葉。
 けれど、重かった。

「殴られても立っていられるかどうか。それが、次の一撃を出せるかを決める」

 フィーネは、喉が鳴るのを感じた。

「回復魔法は……逃げるためのものじゃない」

 マリックは、はっきりと言った。

「踏み込むために使う」

 その瞬間、フィーネの中で何かがつながった――だから、強い。
 ただ、拳が速いからじゃない。
 ただ、体が頑丈だからでもない。
 “倒れないための選択”を、戦いの中でしている。

「……私」

 気づけば、自然と口が動いていた。

「私、光属性なんです」

 回復魔法は、光属性なのは常識だ……であれば、導き出されることは一つ。
 それが自分に有利になる可能性も――。
 マリックの視線が、初めてわずかに鋭くなる。

「ほう」

 武闘家としての道を進むなら、あまり必要ではないと思っていた。
 でも今は違う。

「私も……」

 拳を握りしめる。

「耐えられる武闘家に、なりたいです」

 マリックは、しばらくフィーネを見つめていた。
 やがて、ゆっくりとうなずく。

「いい目標だ」
「……本当ですか」
「ああ」

 マリックは背を向け、歩き出しながら言った。

「だが忘れるな。回復は万能じゃない」

 一歩、また一歩。

「使いどころを誤れば、隙になる」

 その背中を、フィーネはまっすぐに見つめる。

「それでも……やってみたいです」
「なら、努力することだな」

 振り返らずに、マリックは言った。

「武闘家として、上位職”癒闘家ゆとうか”を目指すがいい」
癒闘家ゆとうか……ですか?」
「それが俺の職業だ」

 その言葉が、胸に深く落ちた。
 ――武闘家なのに、回復魔法を使える。
 違う……武闘家だからこそ、使う。
 その瞬間、フィーネの中に、はっきりとした目標が生まれていた。
 倒れないための拳。
 前に出続けるため、立ち続けるために――。

「どうしたら、癒闘家ゆとうかになれますか?」
「……人を思いやる心を忘れなければ、なれるよ」

 漠然とした助言だった。

「無理になるんじゃなくて、武闘家として、きちんと向き合うことが絶対だと、俺は思っている」

 言葉の裏には「無理に上級職を目指すのではない」ということが隠されていた。
 それにフィーネが気付くかは、フィーネ自身の問題だ。
 教える気がないと捉えられても仕方がない言葉だった。

「ありがとうございます」

 背伸びしても意味がないと、マリックの言葉をフィーネは解釈していた。
 そして、いずれは癒闘家ゆとうかになると心に誓う。

「ん……んん」

 気を失っていたジェイドが目を覚ます。
 すぐに状況把握する――自分が負けたことを。
 ローガンや、ジョエリオとは違う戦い方……違う! 二人も同じように戦っていたが自分が気付かなかっただけだ。
 静と動の違いはあるにせよ、自分の距離を把握して的確に攻撃と防御をしていた。
 ローガンとジョエリオから教わったのは、基礎中の基礎だけ。
 それに浮かれていた自分を悔やむ。
 基礎からの応用。
 ローガンやジョエリオ、マリックや他の誰とも違う、自分だけの戦い方……それを自分で見つけるしかない。
 負けてもジェイドの瞳から光が消えることはなかった――。 


――――――――――――――――――――


■リゼの能力値
 『体力:四十八』 
 『魔力:三十三』
 『力:三十三』 
 『防御:二十一』
 『魔法力:二十六』
 『魔力耐性:十三』
 『敏捷:百四十三』
 『回避:五十六』
 『魅力:四十八』
 『運:六十一』
 『万能能力値:零』
 
■メインクエスト


■サブクエスト
 ・ミコトの捜索。期限:一年
 ・報酬:慧眼けいがんの強化

■シークレットクエスト


■罰則
 ・闇属性魔法”ドレイン”の消去
 ・身体的成長速度停止。期限:一生涯
 ・恋愛感情の欠落。期限:一生涯
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みんなの感想(13件)

八神 風
2024.09.22 八神 風

263話

冒険鞘(ぼうけんさや?)

冒険者(ぼうけんしゃ?)

解除
八神 風
2024.09.15 八神 風

、交代でしていた。リゼの見張りは終わり、

区切るなら

、交代でしていたリゼの見張りは終わり。

解除
八神 風
2024.08.28 八神 風

235話自体が既に投稿済みの話であった!

235話は削除やな

解除

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