名字大戦争

世界観の紹介とか

「知っての通り、この世界は『藤原一族』に支配されているわ」
ここはとある高校の地学室。
校舎の端で使用する機会も殆どないこの古びれた教室で、朱槻(すずき)と呼ばれる少女は5人に向けて語りかけた。
「私達の祖父母世代、それまで空想上の存在だと思われていた『魔力』が実際に使用可能なエネルギーだと判明したことでこの世界はとても便利なものになった…そこまではいいわ」
魔力の実用化によるエネルギー革命…通称マナ革命以降、人々の生活は大きく変わった。
家庭用電力程度であれば個人の魔力で賄うことができ、消費した魔力も一定時間経てば回復する。
魔力は自然に集まってくるが、貯めておける量には限りがあるため、使いきれなかった分は企業等に買い取ってもらうことでちょっとした金銭を得る。
企業はその集めた魔力を使って工場等を稼働し…といった具合に今や全人類が天候に左右されないソーラーパネルを持っているような状態で、化石燃料の出番は殆どなくなった。
「だけどそのエネルギーの源が各々の名前…正確に言えば名字ね。そこに宿る先祖代々の思いとか、知名度の高さからくる世間の認識とか…ともかくそういった人々の思いが『魔力』として名前に蓄積されることを知った連中は、あろうことかその恩恵を自分達だけが受けられるように、他の有力な名前を排斥した！」
ダン！と再び机を叩くその力は先程よりも大きく、明らかに怒りの色がこもっている。
それは周囲の人間にも伝染し、自然と拳が握られる。
「だけど私達のご先祖様は屈しなかった。読みはそのままに漢字を変えて、なんとか追跡の目を逃れ、それまでの歴史を絶やさず、未来へと思いを繋いだ！」
少女は目を瞑り天を仰ぐ。
その先祖の行動に畏敬の念を示すように。
「もちろん形だけとは言え名前を変えてしまった私達に当時のような、私達の名前が持つ本来の力はない…だけど！」
少女は周囲を見渡す。
これこそがここに人を集めた目的であると言わんばかりに。
「私達には仲間がいるわ！同じように数十年前、藤原一族の迫害に遭いながらもその支配に立ち向かって見せた同志が！当時は私達のご先祖様はバラバラだったために各個撃破されてしまった…でも今は違う！」
少女の目は輝いている。
ここにいるメンバーなら、必ず目的を達成できると確信しているかのように。
「私達6人で必ずあの藤原一族…その頂点であり、私達の一族を滅ぼした張本人、憎き佐藤を打ち倒すのよ！！」
少女の熱弁により一層の盛り上がりを見せる教室。
しかるにその一方で。
「こいつら、正気かよ…」
棚架(たなか)と呼ばれた男が1人、その喧騒から離れた場所にいた。