婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

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泊まるお部屋

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食事を終えたあと、部屋に案内してもらった。お店の二階が宿泊所になってるみたいだ。
階段を上りながら、おかみさんが話しかけてくれる。

「うちは魔石みたいなのはおいてなくてねぇ。お客さん、生活魔法は得意な方かい?」

「ぇっと……」

得意どころか、たぶん眠ってても出来ます……でもきっと、そんな事言ったら変に思われちゃうよね。
どう答えるべきか考えていると、あんまり上手じゃないって思われたのかな?
おかみさんが、ニッて笑って教えてくれた。

「この時間なら公衆浴場がまだ開いてるけど、どうする?体を拭くなら洗い桶にお湯を張ってくるよ」

「あ……えぇと、じゃあ、洗い桶だけ……」

「桶だけ?」

「はい、お湯は自分で出せると思うので……」

「そーかい?桶なら部屋に置いてあるから自由に使っとくれ。排水は隅の方にパイプがあるからそこに頼むね。手ぬぐいは使う?」

ハッ、そうだ。そういうのも無い!
ていうかわたし、何にもない!

「ぉ願いします…………」

「??ん、じゃあ後で持ってくから」

がっくり肩を落としてしまったわたしをハテナマークをつけて見ながら、おかみさんは部屋の扉を開けた。

「ちょっと古くて狭いけど、ゆっくりしてってよ」

わぁ……!

案内してもらった部屋は、確かに年季が入った造りだった。窓が一つ。簡単なベッドと机、木桶がある他は、目立ったものも置いてない。
でも隅まで清潔にしてあって、人の手が入ってるっていう温もりを感じる。

わたしが泊まるお部屋だ……!

「ありがとうございます……!」

急にパァッと笑顔になったわたしをおかみさんが笑って見てる。

「なんか分かんないけど元気になったね?よかったよかった。じゃ、後でまた来るよ」

おかみさんはそういって、下へ降りて行った。




「ふぅ……」

一人になって、ぽす、とその場に座り込む。汚れた服でベッドに座るのは抵抗があったからね。

「先にこっちだけ洗っちゃおう……」

しゅるるるる……っ

全身と服に清潔魔法をかけた。汚れを無くしてきれいにする、生活魔法の一つだ。
きらきらした光の粒が、体や服の周りをくるくると回っては消えていく。

これで汚れはなくなったけど、体を拭くの気持ち良さそうだから桶は借りることにしようっと。
公衆浴場っていうのもちょっと行ってみたかったけど、さすがにバレちゃうといけないし、それに……
この体を晒すのはちょっと抵抗あるもんなぁ。

長い間ちゃんと食べてなかったせいで、骨と皮みたいになってる腕をもう片手でさする。

「はー……」

床板に座ったまま、ベッドのところに背中でもたれかかる。

旅人なんて言ったけど、今更ながらにわたし、何も持ってないなぁ……
荷物も持ってない旅人なんて変に思われないかな……
でも、おかみさんは優しいし。ご飯はおいしいし。部屋も居心地がいい。

魔石の浄化儀式をしてる時は何年もしっかり食べてなかったけど、今日はとってもおいしいご飯を食べることができた。
部屋も掃除が行き届いてて気持ちがいい。



ガヤガヤ……

一階の、お店の方から人の気配がする。スープでお腹もあったかくて、魔法でとりあえず清潔にもなったし……

明日……何か、買えばいいかぁ……
あ、でも……お金……

うと……

魔石…………じょうか……しなく……ちゃ………

うとうと……

「すー……すぅ……」

…………窓から入ってくるやさしい風に吹かれて、わたしはそのまま眠ってしまった。

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