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屋敷にて2

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全く、本当にひどい目にあった。
私室に戻って鏡を見ると、柔らかいストレートの髪もバラ色の頬も土を被ってどろどろだ。

「んもーーー耐えられませんわ!!」

さっそく魔石を使うことにするリリア。

質のよい魔石は出力を抑えればある程度繰り返し使うことが出来るが、リリアはそれを良しとしなかった。
そんなけちけちしたことはしたくない。何せ、自分は領主の娘だという自負がある。

(いくら使ったっていくらでもあるんですもの!)

リリアはすぐに、魔石の魔力を全開まで使った。
しゅるるるるる……

最大出力を出した為、すぐに魔石は光の輝きを失い、そしてさら……と砂になって散っていく。
その砂も床へと積もるのではなく、空気と同化するように消えていった。

そして、美しく光り輝くような容姿を取り戻して満足した。

(さて、次はドレスを……っと)

また同じように魔石を使いきる。二つ目の魔石も、さらさらと崩れて消えた。

「ふう……」

リリアはなるべく魔力を使わない。

魔石を発動するにしても、魔力を補助にして使えば魔石の力は何倍にも膨れ上がるため、やはり一度で使い切ることにはならない。
補助に使わないまでも、出力を抑えれば、効き目は小さくなってもずっと長持ちする。

しかし、それは節約とでもいうような考え方だった。

(やぁよ、そんな惨めな使い方するなんて)

父も母も、こと魔石の使用量に関してだけはちょっとだけリリアに厳しくなる。
しかし、泣いて可愛くねだってしまえばそんなこと関係ない、とリリアは思った。


(だって、わたしの魔力がもったいないでしょ?)

自身の魔力は特別なものである。さっきは咄嗟のことで、魔石も持って行かなかったから、仕方なく使ってあげたけれど。
あんな疲れることは魔石にすべて任せればいいんだ。
ちやほやとされ続けてきたリリアは、いつのころからかそう思っていた。


儀式一つとっても。
リリアは特別だから、そんなことはしなくていいと、ずっと言われてきた。
かわいくて、天使の生まれ変わりのようで、大変なことそんなものはあの姉にやらせればいいとずっとずっと甘く甘く諭されて生きてきた。

リリアは、姉のローズとはほとんど交流したことがない。
小さい頃から姉は自分の部屋に閉じこもり、少し成長した後は塔に籠って儀式ばかりをしていた。
先程姿を正面から見たが、それも凄く久しぶりのことだった。

(確かわたしより2歳上だけだったはずなのに、あんな……やつれたひどい姿になっちゃって。お姉さまみたいな見た目になるなんて絶対にいやよ!)

「ふぅ……やっと全部きれいになったわ!」

大きな鏡の前でくるくると回って、後ろ姿も確認する。
頭の先から足の先まで、きれいに元通りになるのに部屋にあった魔石をすべて使い切ってしまった。

(子爵様の分は、お父様とお母様の部屋から貰っていきましょ、っと)

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