婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

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背後からの声

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門番の人と話してたら、急に後ろから口を塞がれて名前を呼ばれた。

誰、その名前を知っているのは……!
わたしはもう、追放されてしまったから、セスティアの姓を名乗れない。
今はただのローズなのに。

びっくりして体を固めるわたしに、背後からの声は尚も続く。

「喋らない方がいい。あんたの目的はわかってる」

ぞんざいな口調とは別に、声に敵意は感じられない。
口を塞がれてはいるけど手荒な様子ではなくて、ただ掌を当てられているだけというか……

だとしても!
そんな状況は初めてだし、なんか耳がくすぐったい!
ていうか何でわたしの目的を!?

口元にあてられた手首を掴んで赤い顔をし、うーうー唸る。
腕は全然、ちっとも、ぴくりとも動かない。
た、助けて……

「アスト様!お戻りですか」

「ん、特別問題はないようだ。もし、今日の件で馬車が何か訪ねて来たら俺を呼んでくれ」

門番の人もピシッと姿勢を正して後ろの人と話している。
あれ、この声……は……

「承知しました!
あの、ところで、その方は……」

「叔父貴に話があるみたいだから連れていく。ちょっと、声に問題があるらしい……俺の、これと一緒だ」

わたしを挟んで話が進んでいるようだ。
叔父貴って神官様?これって何?
わたしには意味不明なその言い分も、門番の人にはわかったらしくて「ああ……」と相槌を打っている。

何もかもが分からないけど、たった一つ分かることと言えば。

「んんーーーー」

……息!息が出来ない!

「あっ、悪い」

真っ赤な顔で唸ってるわたしに、後ろの人はやっと気付いたみたいで、口元部分を抑えていた手を放す。

はあああ。

「悪いな、ここで発動されたら困るんだ」

口元の布と一緒に抑え込まれたから全然呼吸できなかった……
ちょっと背中を丸くして、胸を抑えてぜーぜー言いながら後ろを振り返る。
その拍子に、わたしの被っていたフードがぱさっと頭の後ろへと落ちた。
何故か隣で、門番の人が息を飲む音が聞こえる。
息を切らせながらわたしは尋ねた。

「あなた、どうして、それを……」

……あ、この人……

そこには、目元だけをシンプルな黒い仮面で覆った騎士がいた。
同い年ぐらいかなと思ってたけど、こうして近くで会ってみると身長が高い。
それに、さっき馬車で会った時とは口調……というか声の感じが違っていて分からなかったわ。
御者の人やおばあさんと話していた時は丁寧だけど、今はもう少し、気安い感じだ。

「さっき、馬車のところで……」

でも、そこまで言ったところで、何やら難しい顔をしたその騎士に腕を取られてしまう。その人はフードを掴むようにして、わたしの頭へぽすっと被せた。

「とりあえず、中へ行こう」

そう言って、教会の中へ連れていかれてしまった。

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