婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

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ブランの思惑2

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その日ブランが初めて出会ったセスティア家の長女……ローズは、まるで骸骨のような出で立ちをしていた。

婚約を結ぶにあたって連れてこられた施設の一室……
そこへ、両親に連れられて領主令嬢はやってきた。
ゆったりとふくらんだドレスで体の線を隠してはいるが、身長に対して明らかに肩が細すぎる。
頬はこけ、肌や髪はパサパサとして水気はなく、足取りもどこかおぼつかない。

領主たちが軽い挨拶を交わしてテーブルを囲んだ椅子へと座る。
形式上、ブランの対面へローズが座ることになったが……
ブランが何より恐ろしく感じたのが、その目だった。

光のない、どこか暗い闇をいつまでも眺めているような……
覗き込めば、自らもその闇に囚われてしまいそうな、うつろな目だった。

互いの親である領主たちは、上辺だけの会話と笑顔を交わしている。
ローズはその間、一言もしゃべらなかった。
ブランは……目を奪われてはならないと思いながらも、視線を外せないでいる。
背中へ冷たい汗が伝った。

(あれは、この世のものじゃない場所を見ている……!)

「ブラン」

「………は、い」

父から声がかかった。
婚約の証文にサインをしろと、そう言っている。

(この女と一生、僕は……)

穴が開くほどに証文を眺め、震える手でペンを取り……
示された場所へと名前を記した。
悪寒が止まらなかった。

ペンを置く。証文が、目の前の……生きる屍のような女の前に渡る。
しかし、令嬢は動かない。

「ローズ。お前の名を記すんだ」

「……さっさとなさい。あちらの方々を待たすんじゃないわ」

小声だが、令嬢を叱責する声が聞こえた。
そして、ペンを取るために、令嬢が動いた。
ブランは、口から悲鳴の出る思いをする。

(っ……ひ……)

袖から覗いた手首が異様に細い。
カリ……カリ……と、ペンが、証文を引っ掻く音だけが響く。
ゆっくり、ゆっくりと令嬢の名が、そこへ記されていった。

(僕は今、本当は……)


書き終えた端から、令嬢の父が証文を取り上げる。
ブランと令嬢、二人の名が記されている証文を眺め……

「よし……この瞬間から、二人を婚約者と認めることになりますな」

「良い縁が結べた事を有り難く思おう」

それぞれの父が、満足そうに頷いた。
そして、事が終われば用はないとばかりに……ブランと令嬢は、部屋の外へと出される。

使用人に連れられ、帰路への馬車に乗り込み……一人になったブランは、止まらない悪寒に顔を青くした。


考えが甘かった。
自分が駒であることは承知していたが……これは。
これはまるで生贄じゃないか?
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