婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

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不穏

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わたしは、うろたえてローブを握りしめる。
じっとりと掌が湿っていくのに、喉が渇いていくような感覚があった。

「わ、わたしが儀式係を始める前は、領地の、魔力のある方々が同じように儀式係をしていて……
わたしを追放したからには、誰かまた雇い入れる気なのでしょう。
その方たちに、両親が同じようにしたら……!」

勢い込んで訴えているわたしに、神官様は一呼吸おいて、まずは落ち着くようにと言う。

「その術が、他の領民の方にも掛けられはしないか……ということですね?
……可能性は、限りなく低いと思います」

「限りなく……ですか……」

神官様は真剣な顔をしながら、そう請け負ってくれた。

「……分かりやすく、損得の話になってしまうのですが……
術士に、それだけのことをして得られる、リターンがないのです」

「リターン……」

「ローズ様お一人を拘束して得られた魔石の量は、領地の方を一人同じような状況に置いたとしても、比べるべくもないでしょう。あなたの魔力は、それほどに多いのです」

「え……と……確かに、わたしが儀式係をする前は、何人もの方が交代して作業を行っているようでした……」

「そうすると、扉を開閉する頻度が格段に上がりますね。
この術は複数人に掛けるには不向きですし、もし複数人向けの術に覚えがあるとしても、それはやはり費用コストもリスクも高いものです」

頷くわたしへ、神官様が説明を重ねる。

「領地の方々が儀式係をされていたとき、寝泊まりはどうされていましたか?」

「えっと……それも、交代制でした。みんな、家があるので……そちらに帰っていました」

「通いだったのですね。すると、通いの途中に通行人、家族と住んでおられる方には家族などと、人と会う可能性が高まります。
術の残滓というのは、分かる人には分かるものですし……心を操る術ですから、人柄も変わりやすくなるでしょう。
他者と会うという事は、それだけ露見する確率が上がります」

そこまで聞くと、神官様の言葉が何となく頭に入ってきた。
本当にこれは、掛ける術に対して見合うだけの成果が得られないのだ……普通の人に掛ける分には。
いろんな意味で、力が抜ける。

「バレるリスクに加えて、得られるものは少ない。
それに、一人に向けてだとしても、この術をかけるとなるとそれだけ膨大な魔力量が必要だったことでしょう」

そう言うと、神官様は……わたしを安心させるためにと、それから……僅かな悲しみを持って、伝えてくれた。

「……やはり、この術は……あなただけの為のものだった、ということです」

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