婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド

文字の大きさ
63 / 96

検証へ

しおりを挟む
「えっ……それって……」

わたしの驚きの声に、神官様は資料へと向けていた顔を上げる。

「……やはり、奇妙ですね……」

収支報告と数が合わない…………作っていた数よりもあえて少なく報告していた、ということになる。
当然だけど、それは……それも、してはいけないことだ。
それって、わたしも犯罪の片棒……っていうか、メインで担がされていたことに……?

「……いたっ」

無意識にまたローブを握りしめると、手のひらにチクッと刺さる感触に気付く。
ポケットに手を入れて取り出すと、未だ浄化前の魔石が掌の上にあった。
そういえばこれ、入れたままだった……

「……それは」

神官様が眼鏡を持ち上げるように尋ねたので、わたしは立ち上がって彼へとそれを手渡した。
モンスターを倒して核となる原石を加工した、浄化前の魔石。
ものによって大きさは違うけど……これは、コインより少し大きいくらいのサイズ。
深い黒で、光に透かしてよく見ると、向こう側まで透き通るようになっている。

「これが、セスティア家管轄の領地から納めている魔石です。
まだ浄化前ですが……」

闇の力が漏れないように魔力でコーティングをしてあるけど、それがどれぐらいのものか、神官様には分かるんだと思う。
摘み上げた魔石を顔の前で眺めながら、神官様が呟いた。

「見事な加工だ。ですが、これだけでは正直なところ……ありふれているもののようにも見えます。
セスティア家の提出する魔石は、何よりも質が素晴らしいと噂になるほどでしたが……」

「多分、それは……わたしが浄化すると、力が何倍にも加わると、以前言われたことがあります」

「なるほど……」

以前に浄化係をしていた……宿泊どころの店主さんなんかが、驚くように褒めてくれたことを思い出す。
もし、その浄化した魔石の質が教会への……引いては国へ納める報告と関わってるんだったら。
きっと、実物として見せてしまった方が早いはず。

「あの……一晩待っていただければ、浄化できると思います!」

そう思って伝えてみたんだけど……
アストが、机の方まで来て神官様の手元を覗く。
それから、わたしの方を見ると、事もなげに呟いた。

「……そのままでもいけるんじゃないか?」

「そのまま?」

「一晩……夜を待たずとも、今のこの段階で浄化出来るんじゃないか」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

処理中です...