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願った場所へ4
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さて、文字通り着の身着のまま来てしまったから、特に何か用意があるわけじゃない。……と言っても、浄化係として森へ入る時だって、特別な用意なんてしてなかったんだけどね。しいて言うなら、魔石を入れる袋ぐらいで。
アストはいつも身に着けている剣の柄へ手を置いて、ベルトの具合を確かめるように少し触っていた。それから、顔を上げてわたしを見る。
「来る気か?」
「当然!」
だってうちの森だし……!
「止めはしないが、人に見つからない方がいい。一応、捜索の届も出ているしな」
あ、そうだった。わたし、父から探されているのか……
今は留守だって言う話だけど、直接話をするにしても何にしても……うーん。塔を使って暗示をかけられていたこともあって、気が進まないなんてものじゃない。
とりあえず今は、森の様子を見ることと。あと、子爵の勘を信じるなら、塔にはリリアが居る……みたいだから。彼女に会いに行くこと。それを目標にした。
アストは子爵にも向き直る。
「剣技の経験は?」
「嗜み程度だ。実践はほぼない」
え。
「……あなたも来るの?」
「ぐ……」
わたしの言葉は別に、なんか。来なくていいよっていう感じではなくて。あっけに取られながら言ってしまったようなものだったんだけど。子爵はそれをどうとったのか、一度息を詰まらせたようだった。でも、息をついてわたしのほうを見る。
「塔に弾かれたと、アルが言っていた。おそらく別の結界が張り直されたんだろう。今は君が入れるかも怪しいが……僕なら、それが出来るはずだ」
「うん、それならお願い」
わたしが頷くと、それはそれで子爵は少し驚いたようだった。そして、ちょっと迷ってから……
「言い出せる義理ではないと知っているが、頼みがある。……この能力を。……他言無用にしてほしい」
そう言って彼は、腕に止まっている小鳥を前に差し出した。今はまるっきりふつうの小鳥で、くりっとした目で首を傾げている。確かに、魔力じゃない力を使って小鳥と通信が出来るなんて、聞いたことない。
「分かったわ」
「今のところ、他言する理由がない。あっちにいる叔父も同様のはずだ」
「……ありがとう」
能力がある、と知られることも危険につながるのね。だって、家族でさえそれを利用しようとするんだもの。
森の状況を話すにあたって、他に浄化係がいないかもしれない、ということも簡単に話した。今までガリガリだったのは塔のせいで、そこを出たから少し魔力が暴走気味だということも。
子爵は話に驚き、自身の魔石に関する疎さをわたしに謝罪してから、ぽつりとつぶやく。
「……しかし。まさか、この地の魔石を、君がひとりで浄化しているとは思わなかった」
「……うん」
わたしの家は、両親は……わたしたちにも感情があって、自分たちのしたいことがあって、考えてるって言うことを知らない。分かっているのに、ないことにしているんだ。
そのことをリリアが知らないとしたら。その害がもし、彼女にも及ぶなら?
……話をしよう。それが正しいことかは分からない。彼女のところに何もないなら、そのままでもいいのかもしれない。でも……
伝えて、話をして、それで。……リリアに、彼女自身にどうするのか選んでもらおう。
わたしが自分の意志で教会に行くことが出来たように。
アストはいつも身に着けている剣の柄へ手を置いて、ベルトの具合を確かめるように少し触っていた。それから、顔を上げてわたしを見る。
「来る気か?」
「当然!」
だってうちの森だし……!
「止めはしないが、人に見つからない方がいい。一応、捜索の届も出ているしな」
あ、そうだった。わたし、父から探されているのか……
今は留守だって言う話だけど、直接話をするにしても何にしても……うーん。塔を使って暗示をかけられていたこともあって、気が進まないなんてものじゃない。
とりあえず今は、森の様子を見ることと。あと、子爵の勘を信じるなら、塔にはリリアが居る……みたいだから。彼女に会いに行くこと。それを目標にした。
アストは子爵にも向き直る。
「剣技の経験は?」
「嗜み程度だ。実践はほぼない」
え。
「……あなたも来るの?」
「ぐ……」
わたしの言葉は別に、なんか。来なくていいよっていう感じではなくて。あっけに取られながら言ってしまったようなものだったんだけど。子爵はそれをどうとったのか、一度息を詰まらせたようだった。でも、息をついてわたしのほうを見る。
「塔に弾かれたと、アルが言っていた。おそらく別の結界が張り直されたんだろう。今は君が入れるかも怪しいが……僕なら、それが出来るはずだ」
「うん、それならお願い」
わたしが頷くと、それはそれで子爵は少し驚いたようだった。そして、ちょっと迷ってから……
「言い出せる義理ではないと知っているが、頼みがある。……この能力を。……他言無用にしてほしい」
そう言って彼は、腕に止まっている小鳥を前に差し出した。今はまるっきりふつうの小鳥で、くりっとした目で首を傾げている。確かに、魔力じゃない力を使って小鳥と通信が出来るなんて、聞いたことない。
「分かったわ」
「今のところ、他言する理由がない。あっちにいる叔父も同様のはずだ」
「……ありがとう」
能力がある、と知られることも危険につながるのね。だって、家族でさえそれを利用しようとするんだもの。
森の状況を話すにあたって、他に浄化係がいないかもしれない、ということも簡単に話した。今までガリガリだったのは塔のせいで、そこを出たから少し魔力が暴走気味だということも。
子爵は話に驚き、自身の魔石に関する疎さをわたしに謝罪してから、ぽつりとつぶやく。
「……しかし。まさか、この地の魔石を、君がひとりで浄化しているとは思わなかった」
「……うん」
わたしの家は、両親は……わたしたちにも感情があって、自分たちのしたいことがあって、考えてるって言うことを知らない。分かっているのに、ないことにしているんだ。
そのことをリリアが知らないとしたら。その害がもし、彼女にも及ぶなら?
……話をしよう。それが正しいことかは分からない。彼女のところに何もないなら、そのままでもいいのかもしれない。でも……
伝えて、話をして、それで。……リリアに、彼女自身にどうするのか選んでもらおう。
わたしが自分の意志で教会に行くことが出来たように。
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