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森へ6
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「……お父様?」
魔獣の見せた幻影でも見ているのだろうか。そんな気持ちでつい口をついて出る。
お父様は、手にした魔石を検分するように角度を変えながら、見下ろしている。……ああ、お父様からは捜索届が出されているんだった。出掛けていると聞いていたけど、この人もまだ領地にいたんだ……
「……離れたほうがいい」
ふ、とアストが隣に立っていて、前を向いたまま囁く。
「え……?」
近寄る気もなかったけど、この忠告みたいな声は、それとはまた別のような……
「呑まれてる」
砂で噴煙のように視界が悪くなっているところへ、子爵が駆け寄ってきた。結界を張り直してくれたんだ。
「ローズ、これは……っ、……領主……!」
その声に応えてか、お父様はゆっくりと顔を上げた。目を細くして、わたしたちを順々に見渡す。
「ローズ……ダールク子爵、……それは?……まあ、何者でも構わん」
父は笑った、ように見えた。そして、手にした魔石を、口元へ……
「あ……!?」
ぞろりと、長く出した舌の上に禍々しく輝く石を乗せて、飲み込んでしまった。
コーティングも浄化もしていない魔石を体内へ……!?
「ぐっ……ゴブっ……は、ハハハ……!」
お父様は背をくの字に追って前のめりになった。口を抑えた指の合間から、赤とも黒ともつかない血液がぽたぽたと流れた。尖った石の先端が喉を内側から掻き
「……!」
轟音。今まで居た所に、大岩でもぶつかったような歪な穴が開いた。砂塵が舞う。
急に引かれる形になった子爵は襟を首に引っ掛けたのか咳き込んでいたが、視線はやっぱり、父の方をまっすぐ見ていた。父はだらん、と上半身を横に倒す。首から、肩、腕、輪郭がぼこりと大きく膨らんでる。木のうろのように目を黒々とさせて、みちみち、と肉と筋の伸びる音がした。ぎゅる、と父の体が元に戻る。けれど目は赤く濁り、色を黒く変えた皮膚を張り付けていて、まるで魚のうろこのようにきらきらと反射して鈍く光っている。あれは、魔石?
「……あれは何だ!」
「し、知らない……」
子爵の焦った声が聞こえるけど、わたしも知らない、あんな父は知らない!……お父様のこと、何も知らないのは確かだけど、それでも、こんな……人の道を外れるような姿……!
アストはわたしの手を解いて立ち上がった。彼は剣を構えながら、姿勢を低くとった。
「……領地の魔石がどこかに消えている、という話だったな。こいつに聞けば、行く先が分かりそうだ」
魔獣の見せた幻影でも見ているのだろうか。そんな気持ちでつい口をついて出る。
お父様は、手にした魔石を検分するように角度を変えながら、見下ろしている。……ああ、お父様からは捜索届が出されているんだった。出掛けていると聞いていたけど、この人もまだ領地にいたんだ……
「……離れたほうがいい」
ふ、とアストが隣に立っていて、前を向いたまま囁く。
「え……?」
近寄る気もなかったけど、この忠告みたいな声は、それとはまた別のような……
「呑まれてる」
砂で噴煙のように視界が悪くなっているところへ、子爵が駆け寄ってきた。結界を張り直してくれたんだ。
「ローズ、これは……っ、……領主……!」
その声に応えてか、お父様はゆっくりと顔を上げた。目を細くして、わたしたちを順々に見渡す。
「ローズ……ダールク子爵、……それは?……まあ、何者でも構わん」
父は笑った、ように見えた。そして、手にした魔石を、口元へ……
「あ……!?」
ぞろりと、長く出した舌の上に禍々しく輝く石を乗せて、飲み込んでしまった。
コーティングも浄化もしていない魔石を体内へ……!?
「ぐっ……ゴブっ……は、ハハハ……!」
お父様は背をくの字に追って前のめりになった。口を抑えた指の合間から、赤とも黒ともつかない血液がぽたぽたと流れた。尖った石の先端が喉を内側から掻き
「……!」
轟音。今まで居た所に、大岩でもぶつかったような歪な穴が開いた。砂塵が舞う。
急に引かれる形になった子爵は襟を首に引っ掛けたのか咳き込んでいたが、視線はやっぱり、父の方をまっすぐ見ていた。父はだらん、と上半身を横に倒す。首から、肩、腕、輪郭がぼこりと大きく膨らんでる。木のうろのように目を黒々とさせて、みちみち、と肉と筋の伸びる音がした。ぎゅる、と父の体が元に戻る。けれど目は赤く濁り、色を黒く変えた皮膚を張り付けていて、まるで魚のうろこのようにきらきらと反射して鈍く光っている。あれは、魔石?
「……あれは何だ!」
「し、知らない……」
子爵の焦った声が聞こえるけど、わたしも知らない、あんな父は知らない!……お父様のこと、何も知らないのは確かだけど、それでも、こんな……人の道を外れるような姿……!
アストはわたしの手を解いて立ち上がった。彼は剣を構えながら、姿勢を低くとった。
「……領地の魔石がどこかに消えている、という話だったな。こいつに聞けば、行く先が分かりそうだ」
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