あほんだら

月夜の晩に

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崩れるとき

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翌日。僕はそういえばと思って、以前昌也にもらったネックレスを出してきて久しぶりにつけてみた。

今はホントに1番の恋人なんだから良いよね?って。

「おお~っ寧々、まだ持ってたんだそれ?いやあ、嬉しいなあ」

昌也にそう抱きしめられて嬉しい気持ちだった。

これでやっと本当の恋人同士になれる、そう信じていた。




だけど僕にとって理想の日々は長く続かなかった。




まず、昌也の金遣いが荒くなり始めたのだ!

「ねえ、お金また使ったの!?」
「また借りりゃ良いじゃん、どうせ減らねえし」
「何言ってんの!?」

最初こそ取り立てに怯えていた昌也だったけれど、じきに感覚が麻痺してきてしまったのだ。

返せど返せど全然借金が減らないことに苛立ちを超えたとも言う。


「俺、シケた生活やっぱ無理なんだよね」

そのセリフを聞いて唖然とした僕。

元がお坊ちゃんの昌也には生活レベルを下げるなんて土台無理な話だったのだ。おまけに元がちゃらんぽらん。

『子供できた』と嘘つかれて結婚寸前まで行った元彼女に買ってあげてたマンションだの車だのの残支払いも重なる。


結局、闇金からの借用書は2枚になった。トータルでの借金額は……聞かないで欲しい。


昌也にもらったネックレスが哀しく冬の風に揺れていた。







僕は耐えきれずに巽に連絡をした。

ふたり、ひと気のない寒い冬の公園のベンチに腰を下ろして話をした。

「ご指名ありがとうございま~す♡ってな。連絡くれて嬉しいよ、寧々。ありがとな」

巽はシャープな顔立ちを嬉しそうにさせている。

巽を振ったくせにまた頼って、でも巽からは『ありがとう』か……。返す言葉がなかった。

一通り現状の話をした。

「巽……どうしたら良いのかな……」

「ん~……闇金も無限に金貸してくれる訳じゃないからなあ。個人から回収出来る金額は流石に天井あるしな。

昌也、最悪まじで内臓を売られて海に沈められるぞ」

「!!えっ……!!!」

ヒッと青ざめた僕。すこし嘲笑うように巽は言った。

「ヤクザを舐めるなよ。舐めたら死ぬぜ。前も言わなかったか?」

……!

闇の世界に生きる巽のもう一つの顔が覗いている。背筋が震えた。

「まあ、しゃあないんじゃね。どうしようもなく金返せないヤツっているし」

「そんなあ……!!!」

「しかしだな。寧々。お前にだけは救いがある。なぜなら昌也の借金の連帯保証人にはなっていないからだ。

これならお前だけはいつでも逃げられる。

昌也は最悪放り出せ。

……って言っても出来ないんだろうがな……。

良いかとは言えだ。

『もし昌也がここまで落ちぶれたら別れる』っていう境界線だけは先に決めておけよ。

じゃないとズルズルのなあなあで、お前まで海の底だ。俺はそんなの絶対嫌だからな。

そうなるくらないなら俺がお前を攫うけど、寧々はそんなの嫌だろうからな……」

ふっと虚ろな瞳で前を見据えた巽だった。

「……ま、また連絡くれよな。寧々。
俺はいつでも飛んでくるぜ」

ちゅ、とこめかみにキスされた。

えっと狼狽える僕に巽は苦笑して言った。

「良いじゃん、相談料。迷惑料。
うそ、たまには巽くんにご褒美くれよ。……それじゃ」


そういって去っていくダークスーツの後ろ姿を見送った。





1人公園のベンチで考える。

境界線か……どこだろう?昌也を振るなんて僕からすると想像つかないんだけど、あるとすれば……。


『俺のために身体売ってきてよ』かな……。


いや以前に自分からヤクザに身売りしかけた僕だけど、あれはあまりに不安で自分の頭がバカになっていたのと、自分の意思でだったのがデカい。

結局巽が未遂にしてくれたし……。



……昌也から、昌也の口から『俺のために体売ってきてくれ』って頼まれたら僕は自分を保てる気がしない。

だって、知らない人に体を売るのがイヤで泣いていたのをかつて助けてくれたのは昌也で、その昌也に僕は恋してきたから。



ギュッとネックレスを握る。大丈夫だよね?昌也……。







だけど人生、人を信じたぶん裏切られる様に出来ているのだろうか。それとも僕が愛するに値しない人間なのだろうか。


昌也はそれからも転落し続けた。

ついに闇金からも借りれなくなり、膨大に膨らんだ借金、壊れた金銭感覚。それだけが残った。

働けど働けど、それは利子の支払いにだけ当てられ手元に残せるお金はほんの僅か。

ボロいアパートで極貧暮らし。それがもう我慢ならなかったのか、昌也と僕はよく喧嘩した。


どうでも良いことであれやこれやと。

「寧々!!」

こんな風に、昌也は苛立ちから僕によく怒鳴ったりするようになった。

僕は哀しくなった。

お金のなさ、余裕のなさがこんなに人を変えてしまうのかと。


だって、昌也は元はおおらかで穏やかな性格なんだ。こんな風に声を荒げたことって今までなかった。良い加減だけど、やさしかった昌也が。


変わってしまうんだ、こんな風に……。

そりゃ自業自得ではある。でも借金の怖さを僕は身を持って感じていた。





だけど湿っぽい雰囲気が嫌いな昌也の前で泣いちゃいけないと、僕は泣きたくなったらひとりでひと気のない公園に行った。

でもそんな時に限って巽がタイミング良く連絡しれくれるものだから、つい甘えてしまった。

巽はすぐ飛んできてくれた。

「寧々……俺は味方だぞ」

そういって優しく抱きしめてくれた。

こんなのズルいと自分でも分かっていた。でも辞められない。


最低だ、僕は。

どうしようもないあほんだら。それが僕……。






そんなある時。
またひとつ事件は起きた。

仕事が終わってアパートに帰ろうとした時、なんか若い女の子が昌也の部屋からぷんぷんしながら出てきたのだ。

「最低!」

とか言いながら……。


え、え、え、なに?悪い予感しかしない。


ドアを開けると、なんか寝乱れかけた寝具が目に飛び込んできた。気怠けに座る昌也の背中だけが見える。


「まっま、っ昌也……!どういうこと!?あ、あの人なに!?」

ゆっくり振り返る昌也。

「……俺が浮気性なの知ってるだろ?ダメなんだよ。辞められない。でも金のない俺に女の子はついてこない。

だからお店のオネーチャン呼んだんだけど、金ないって言ったら引っ叩かれちった」


ドクンと心臓がうねる。
なんだこれは悪夢か……?

お金だけじゃなく浮気問題までまた……!?


ストレスで極限状態なのかもしれない。それは分からないけれど。

昌也は虚ろな顔で言った。

「寧々。俺、どうしても金がなくて…… 。
協力してくんない?」

そういって渡してきた、風俗のピンク色のチラシ。








続く
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