稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

文字の大きさ
27 / 77
稼業が嫌で逃げたらそこは異世界だった

27.先に行きたいなら俺を倒せと言う老ゴブリン

しおりを挟む
「ぶち、殺すぅぅぅぅぅうぅ」

 もうひとの言葉すら忘れてしまった老ゴブリンのじいやの筋肉が膨張して、服が破けた。俺に向ける圧がすごく、少し狼狽えてしまう。
 か弱い老人……なんて言葉が馬鹿らしく思えてくるほどの存在感。こいつ、やばい……。

 にしても、一体どうしてこんなことになってしまったのか。
 俺は飛鳥が向かった先に魔王軍幹部なるものがいるから、急いで飛鳥のもとに向かいたいというのに。ゴブリン帝国を進めば、距離をかなり短縮して飛鳥のもとに向かうことが出来るということだったのでゴブリン帝国に立ち寄っただけなのに。
 ここで強敵が現れる……。

「まって、じいや、話を聞いて」

「大丈夫ですぞ姫様。このじいやが、命を賭してお助けしますぞっ」

「お願い、話聞いて! 本当に、お願い! お願いだから!」

 イリーナもこのような状況になるなんて全く予想もしてなかったようだ。不安そうにしながらチラチラとこっちを見てくる。まるでいつ怒鳴られるんだろうと怯えている子供のようだ。
 リセもイリーナの様子がおかしいのに気が付いたらしく、イリーナのそばに寄る。

「諸刃を奪おうとして罰が当たったんだわ、ざまぁ!」

「くうぅぅぅぅぅ、リセに言われるなんて、悔しい……。でもやらかしたのは本当で……あああああ、私はいったいどうすれば」

 突然、リセがイリーナを馬鹿にし始める。あのバカはいったい何を考えているのだろうか。
 というか、イリーナのテンパり具合が半端なかった。先は急ぎたいが、この状況はイリーナのせいではない。
 さっきいみたいにバカ騒ぎしてわざと遅れているのではなく、イリーナにとっても不測の事態ということなのだろう。だったら俺はそこについて怒るつもりはない。どちらかと言えば、無駄にイリーナを虐めるリセに拳骨を食らわせてやりたい。
 けど、状況的にもそれは難しかった。

 このじじい、隙が無い。
 俺がちょっとでも気を抜けば、その間に襲い掛かってやろうと虎視眈々と隙を狙っている。

 もしかしたら、俺が倒したゴブリンエンペラーよりも強いかもしれない。

「このじいめが姫様の為にたたあーーーーーーーーーーーー」

 妙に痛々しい音が鳴ると同時に、じじいが腰に手を当てながらその場に蹲る。
 ぷるぷると震えながらも、俺に向ける殺気は相変わらずやばい。そのイリーナの為に命かけます的な姿勢は認めるが、あんまり無理するなよと思ってしまった。

「じじい、俺の勝ちだ。さっさと転移できる場所を教えろ」

「くうぅぅぅ、年には……勝てませぬぅ、ぬおおおおおおぉぉぉぉ、腰がーー」

 本当に腰をやったらしく、痛すぎてか、涙まで流していた。
 痛みと俺への怒りで表情がおかしいことになっている。

『諸刃、見るのじゃこの表情、チョー面白いのじゃ!』

「のじゃロリ、お前、後で覚えてろよ。リセ、こっちこい、このじじいを直してやってくれ」

『のじゃ! 理不尽なのじゃ!』

 慌てふためくのじゃロリを無視する。近くによって来たリセは、じじいの腰の痛みに悶える様子を見て、「っぷ」と噴き出して指差して笑っていた。
 こいつものじゃロリと同類だった。

「手助けはいらぬ。絶対に教えぬぞ! 姫様を悲しませるお前を、儂はしぇったいにゆるしませぬぞおおおおおおおおおおお」

 腰を痛めてもなおイリーナの為に戦おうとする姿はかっこいいと思うけど、もうやめてほしい。
 イリーナの方が困惑しているというか、もうすでにおろおろして涙目になっている。
 それに俺も先を急ぎたい。こんなところで時間を食っている場合じゃない。

「はぁ、しょうがないわね。えい……ほら治った!」

「あたたたた…………痛みが、ない!」

 じじいはガバッと起き上がって、リセの顔を見る。ちょっとだけ感動している様子が伺える。

「お主は、女神様か?」

「そうよ、私はリセ。女神よ!」

「自称女神だけどな」

「うるさいよ諸刃! でも諸刃は私を構ってくれるからゆるしてあげる!」

 自称女神に許してもらっても困る。俺は何もしていないからな。
 でもじじいが思ったことは違うようだ。まるで俺が悪魔か何かにでも見えているのだろうか。顔色がだんだん悪くなっているような気がした。
 泣きそうになっていたイリーナも、なんだか顔を青ざめる。

「女神様にすらこの仕打ち、このじいが全ての元凶であるこの悪魔を滅ぼしてやりますぞっ!」

「やっぱりそういう勘違いすると思ったぁぁぁぁぁ」

 イリーナは顔を手で隠してその場で蹲った。この時のイリーナの姿には、姫の威厳とか、そういうのが全くなかった。

「じいの馬鹿……お願いだから素直に教えてよ……」

 もうキャラ崩壊していると言ってもいいぐらい、イリーナは落ち込んでいた。
 俺は蹲るイリーナの肩をそっと叩く。顔を上げたイリーナが俺の顔を見て、硬直した。
 これは、怒られる前の子供のようだ。だけど安心してほしい、俺はイリーナを起こるつもりはない。だからにこりと笑顔を浮かべた訳だが、なぜだかイリーナの顔が青くなる。
 若干体が震えているようだ。なぜに。

『諸刃よ、笑っていない目で笑顔を浮かべられても怖いだけなのじゃ。馬鹿なのじゃ、ばーかばーか』

「お前、後で覚えておけよ。お酢につけてやる」

『のじゃああああああ、酸っぱいのは嫌なのじゃああああああ』

 金物はお酢などで洗うと綺麗になるって聞いたことがある。噂で聞いたぐらいで本当にそうなのかは知らないけど、この際だから試してみよう。酸っぱい系は嫌がるからな。

「安心しろイリーナ。俺はお前を怒るつもりはない。さっさとあのじじいをどうにかして、飛鳥のもとに行くぞ」

「う、うん」

 イリーナは立ち上がり、涙を拭う。そしてじじいをキッと睨みつけた。
 そしてーー

「いい加減にしてよ、このわからずや!」

 見事な右ストレートが爺のあごにヒットする。脳を揺さぶられたじじいは白目を向いてその場に倒れた。

「っておい、ちょっと待て、お前気絶させてどうすんだよ」

「っは! ついやってしまいました、ごめんなさい主殿」

 ちょっとすっきりとした表情を浮かべるイリーナ。じじいの行動にそれほど心を痛めていたのだろう。気持ち的にはあれか、良い大人になった後で、自分の黒歴史を親から思い出話のように話されるときみたいな? そんな感じでもしたのだろうか。
 俺はリセに言ってじじいを直してもらう。
 じじいはすぐに目を覚ますと、俺に襲い掛かってきた。
 その横からイリーナが割り込んで、胸倉掴んでじじいを睨む。

「ねえ、いい加減に、して?」

 怖いよ! 特にその眼力。まるで清純だった生徒がいきなり不良落ちしたみたいだよ。
 じじいはイリーナの迫力に負け、肩を落とす。
 小さく「申し訳ありません」と言って、転移できる場所を案内してくれることになった。
 最初からこうなっていれば特に困ることもなかったんだけど……。
 イリーナを可愛がっていただろうじじいには申し訳ないことをしたかもしれない。
 俺が反省することじゃないけどな。

 それより今は飛鳥を助けることが大事だ。
 あいつ、馬鹿な事するんじゃないぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...