稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

19.実地演習が始まります!

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 あれから3日がたった。
 どんよりとした曇り空、ジメジメとしてべたつくような空気、どんよりと気が落ち込む中、ぱらぱらと降っているようで降っていない雨。実に最悪な日だった。こういう日は室内で何とか済ませたいというのに、残念ながら今日は例の実地演習を行う日だ。

 演習の為に集まってきた生徒たちは、どんよりとして空気が重い。ちらちらと「晴れの日に延期すればいいのに」という呟きが聞こえた。その言葉に同意するように俺は頷く。

 なにもこんな微妙な環境でやらんでもいいのに。学園側は、演習だからって気を抜くなと言いたいのかもしれないけど、晴れている日と雨などで環境が悪い日の動きってだいぶ異なってくる。まずは通常の動きができるようにならないと、その応用的な動きをすることが難しい。要するに、まずは基礎をやらなきゃいけないってこと。なのにこの学園の人たちは、何もわかっていない。

 教育については基本外部の人間が行っている。なので、事務的なことしかやらない学園の人間にはこういった細かいところを理解していないのだろう。この学園のシステムは、いろいろと間違っている気がする。

 さて、リセとイリーナを置いて一番乗りしてしまったが、あいつらはまだ来ないのだろうか。シンシアの姿も見えない。女性は準備に時間がかかるというし、今日は微妙な天気だ。きっと手入れとかなんとかやっているのだろう。そのあたりは、残念メイドのゼイゴが張り切りそうだ。

「先生、お待たせしました!」

 後ろからシンシアの声が聞こえたので振り返る。視界に映る、シンシアと、後ろについてくるイリーナ、リセの姿を見て、俺は大きなため息をはいた。予想外だった。そしてこいつらに任せたのが間違えだったのではと、強い後悔すら感じた。

「お前ら、その服装はなんだよ………………」

「私がデザインしておりますのでご安心ください。全力を尽くしました!」

 誰にもバレないように鼻血を出すという器用なことをやりながら、ゼイゴはガッツポーズを決めた。デザインしたって、やり過ぎだろうと思う。
 フリルが少し多めのドレス。であるにも関わらず、甲冑がよく似合う用デザインされている。こう、なんというか、一言で言うなら姫騎士と言う言葉がよく似合うと思う。

「これ凄いね。動きやすい、ふっふ、なんか強くなった気分」

「本当にこれで主殿をめろめろにできるのでしょうか。いえ、できるのではありませんね、やるんですよ!」

 リセとイリーナも、それまたかっこよくてかわいいようなデザインの服を着ていた。イリーナは小柄な体格によく似あうお子様系でありながら、無手で戦う武道家スタイル。リセは…………悪魔崇拝者? 邪教徒とでも言えばいいのか、なぜか分からないけど、不快で胸の奥から湧き上がるなんとも言えないぞわぞわ感があった。よく見ると左右でなんか違う。微妙にずれているその服装が、知らずの内に普段は顔を出さない不快の感覚を呼び起こしているのかもしれない。

「さて先生。これから本番らしいのですが、私は悪役令嬢として立派に役目を全うできるのかしら」

 割と天然入っているシンシアは不安そうに俯く。別に何も心配することはない。破滅しそうになったら俺達がどうにかするからな。
 ふと楽しそうな話し声が聞こえて来た。声の聞こえて来たほうを見ると、ミーという女子生徒がそこそこイケメンっぽい男子生徒と仲良く談笑しながら歩いているのを見かけた。

「あれは……ミーとなんとか王子…………」

「いやまって、なんとか王子って。名前は?」

「すいません先生。私、あの王子だけ名前を覚えられないんです。一応婚約者らしいのですが、あの話し方、あのふるまい、見ているだけで嫌悪感が心の奥底から這い上がってくる感覚がとてもきらいでして」

 すごい言われようだな、王子様。まあ、なんとなく言いたいことは分かる。あの背徳的で奇抜な恰好は、ちょっと頭のおかしさを感じる。
 王子を見て嫌な気分を味わったのは、俺だけではない。リセも、そしてイリーナも、吐き気を感じているような嫌な気分になっていたようだ。一番ひどいのは、ゼイゴかな。
 全員で気分が悪くなっているところで、ふと、ミーが何かを落としたのに気が付いた。
 ミーは何も気が付かずそのまま行ってしまう。俺はミーが落としたものをそっと拾った。

「なんだコレ?」

 拾ったものは、双子だろうが、そんな姿を現したエンブレム的何かと、怪しげな薬だった。これ、大丈夫なものだろうか。

「先生、それはなんですの?」

「いや、お前さんの因縁の相手であるミーが落としていったものだ。あとで返してあげるといい」

「そうですね、きっと困っているはずですもの。ちゃんと返してあげないと……悪役っぽく!」

 いや、ものを返すのに悪役も何もないだろうと思った。むしろ親切にされてありがたいと思われるのではないだろうか。
 とりあえずエンブレム的何かと怪しげな薬をシンシアに渡した。
 エンブレムは、きっと中二的な心が思わず購入させたものだとして、あの薬はいったい何なのだろうか。精神安定剤? まあいいや、後で考えよう。

 それはそうと、実地演習はいつ始まるのだろうか。実は詳細について一切の説明を受けていない。俺のような先生的ポジションの人間もちらほらと見える。彼ら彼女らも一切説明を受けていないのだろう。

『のじゃ、儂の出番のような気がしたのじゃ』

「気のせいだ、黙ってろ」

『のじゃああ、最近出番がなくて寂しいのじゃ……』

「いや、出番がないって。まあ、最近大人しいような気はしていたが……」

 のじゃロリが寂しがり、ちょっとぐずぐずしてめんどくさい女みたい担っている。いや、駄々をこねる子供か? だって声は子供そのものだしな……。

 しばらく悪役とは何かというお話をシンシアやリセたちとしていると、奴がやってきた。

「「ひげもじゃ…………」」

「主殿、あのもじゃもじゃは何ですか」

「いや、俺に聞かれても分からん。イリーナはそんなに気になるのか?」

「ゴブリンにはないものですから」

 そうか、ゴブリンにはひげが生えないのか。羨ましいな。
 さて、唐突に現れたひげもじゃこと、学園事務職委員長は、少し高い台に立って、偉そうに俺たちを見下ろした。かなりイラっと来るような、人を舐め腐った人間の目をしている。お前が見下ろしている相手、各国の子息令嬢、それに王族もいるはずなのに、なんでこいつはこんなにも偉そうなんだろうか。

「にょほほほほほ、これから実地演習について説明を始めるぞい。まずは……」

『諸刃、あのひげもじゃの話し方、なんか儂に似ている気がするのじゃ。パクリなのじゃ』

 喚くのじゃロリは放っておくことにする。それに全然似てないしな。余り言いたくはないが、こいつの方がまだかわいげがある。あのひげもじゃは、イライラするだけだ。

 ザっと説明をし終わったひげもじゃは、めんどくさそうに台を下りて退場した。
 その後の案内や進行はほかの事務職員がいろいろとやってくれるらしい。
 ほかの人達は事務職員に案内されてチームを組み、実地演習を行う森に案内されていた。けど俺達のところには誰も来なかった。
 俺はシンシア達に、「ちょっと待ってろ」と言って、事務職員に話を聞きに行く。

「すまない、ちょっといいか」

「忙しいので。それに気安く話しかけないでくれません? 邪魔です」

 扱いひどくありません?
 他の事務職員がなぜか俺達のことを避けているように見えた。声をかけたやつはとっさに立ち去って、別の生徒の元に行こうとしたので、俺はとっさに掴み、事務職員に強烈な殺気を向けた。

「ちゃんと仕事してくれませんか?」

 ここでにこりと営業スマイル。事務職員は壊れた人形のように顔を真っ青にしながらコクリと頷いた。そしてざっくりとまた説明を受けあのだが、俺達だけなぜかチームが組まれていないらしい。どうしてだよとツッコミたいが、あのひげもじゃが何かやっているっぽかった。まあ、確証はないんだけど、そんな気がする。さて、話を聞いて、チームメイトが俺達だけの状態だというのに、我らがお嬢様はと言うと、現状など全く気にせず、むしろ堂々としていた。ちょっとだけ楽しいのか、口元が緩んでいる。どう見ても悪役令嬢には見えない、どちらかと言うと可愛らしい令嬢でモブ1よりも上等。最悪ヒロイン候補の一人ととらえてもいいかもしれない。

 シンシアは俺達をチームメイトと見てこの実地演習に参加するつもりのようだ。俺やリセ、イリーナはともかく、ゼイゴは役に立つのだろうか。

「さあ皆さん。実地演習を頑張りましょう! 目指せトップです」

 ガッツポーズを決めるこのお嬢様は、もうすでに悪役令嬢のことなんて忘れているんだろうなと思った。
 まあともかく、実地演習が始まるらしい。このグタグタ感はいつものことであるが、さてどうなるのやら。
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