稼業が嫌で逃げだしたら、異世界でのじゃロリ喋る妖刀を拾いました

日向 葵

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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

28.これは試験勉強ですか? いいえ、これは……

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 あの悲惨な事件から数日がたった。あの日からあのなんとも言えない奇妙な王子たちの行動が大人しくなったようで、周りからとても喜ばれていた。
 今ではシンシアが流石姫騎士だなどと言われている。英雄云々は置いとくとして、目標である悪役令嬢からかけ離れているな。
 シンシア本人もこの噂にはあまり納得していないのか、とても複雑そうな表情を浮かべている。

「おはようっ! 姫騎士っ」

「あ、姫騎士だ、ごきげんよう」

 シンシアとすれ違う生徒たちが、シンシアのことを姫騎士と言いながら挨拶をしてくれる。いつもなら、元気よく挨拶を返すのだが、今日のシンシアは引きつった笑顔で答えていた。

「せ、先生。何でしょう。何なんでしょうこの状況。私、あんなにも酷いことをしたのに、どうしてほかの人たちから慕われているのでしょうか。納得できません」

「いや、あれはどちらかというと怪しげな集団から皆を護ったように見えていたぞ」

「私、悪役なのに……」

「こりゃ駄目だ、俺の言葉が耳に入っていない」

 自分の世界に入り込んでしまったシンシア。こちらから声をかけてみても聞こえていないのか無視されてしまった。
 まあとりあえず様子を見ておこうと思ったところで、リセとイリーナがやってきた。

「おはようさんお前ら」

「あ、諸刃。おはよう。もうすぐ試験だね?」

「主殿、おはようございます。そして、もうすぐ試験ですね」

「そういやそうか」

 俺は今後の予定を思い返す。そういえば座学の学期末試験がもうすぐ行われるようだった。最近のシンシアは特に勉強をしていないようだったが、大丈夫なのだろうか。シンシアだし、大丈夫なのだろう。いや、ダメか?
 とりあえず本人に聞いてみれば大丈夫だろう。

「シンシア、いまいいか?」

「どうしました、先生」

「最近座学の方をやっていないみたいだけど、テストの方は大丈夫なのか?」

「…………あ」

 完全に忘れていたようだ。これは、もしかするとダメかもしれない。

「最近体を動かすのが楽しすぎて忘れてました。今思い出します」

「いや、勉強って思い出すものじゃないだろう。確かに、記憶の定着は思い出すことが大事だと言うが、座学でやる量を一気に思い出してなんて無理だろう」

 どんな超人なら可能なんだという感じだ。ただ、なんでだろう。シンシアならできそうな気がした。

「できました。これでテストは完璧ですねっ!」

 マジかよ。本当にできたのならすごいことだが、俺には信じられない。疑わしい。近くにいたゼイゴに視線を移すと、首を横に振っていた。そば付きメイドのゼイゴすら知らないとなると、やっぱり怪しいと思ってしまう。
 こうなった時にやるべきことは一つだけだ。

「よし、テストをしよう」

「合点招致。どーんと来てください」

 全くない胸をはって自信満々なシンシア。こんな姿を見ているとなぜだろうか、なんか大丈夫な気がしてくる。

 そしてシンシアはなぜか剣を構えた。すごいドヤ顔だ。

「さぁっ! テストしましょうっ」

「いや、そっちのテストじゃなくてもうすぐ学期末試験があるだろう。そのための確認テストだから座学だよ。剣じゃないって」

「大丈夫です。撃ち合いながらテストすればいいんですよっ! こっちの方が覚えられますっ」

 何かに連動させて覚えるのはいいことなんだけど、剣を撃ち合いながらは違うような気がするのだが……。
 まあそれでも成績が上がるならいいことだなと思い、俺ものじゃロリを構える。

「のじゃロリ、木刀モードっ」

『そんな機能ないのじゃ! むしろなぜあると思ったっ』

 まあ、ないよね、普通。真剣がいきなり木刀に変わったら俺だって驚く。シンシアは真剣を構えているし、それなりに実力もついたが、俺から見ればまだまだだ。アッシュだって同じこを言うだろう。だからこそ木刀を使うつもりだったのだが、のじゃロリが木刀にならないのなら仕方がない。

 俺はそこら辺に落ちているひのきの棒を拾った。いや、落ちているというかこれ、イリーナがこの前使っていた奴のような……。

 ちらりと視線を移すと、ウィンクして準備していましたよと言わんばかりの表情を浮かべていた。後ろではリセが、やられた! といった驚きの表情を浮かべている。何がやられたのか分からないが、本人は相当ショックを受けているようだ。

「私の役目は終わりのようですね。行きますよリセ。主殿の邪魔はさせません」

「ちょ、邪魔って何? 私も諸刃と一緒に楽しいことするのっ。いやよ、連れてかないで、一人にしないで」

「私がいるじゃない」

「あ、そっか。じゃあ向こうにいって諸刃を待ってようか。ついでにこれも回収」

 リセに首根っこ掴まれたゼイゴが慌て始める。

「ちょっと待ってください。私にはシンシア様のかこかわいいところを写真に収めるという大事な使命が」

「それ、本当に使命?」

「もちろんです。紳士淑女のたしなみなので」

 そんなたしなみあるかっ! と口には出さないが心の中でツッコミを入れておく。なんでだろうな。マジで納得できない。
 ゼイゴのことは放っておくとする。それよりもシンシアだ。

「さあ先生。私がどんどん打ち込むのでどんどん問題を出してください」

 と言われてしまった。そんなこと言われてもこちらは座学の教師ではなく、魔法などの実技の教師として赴任しているのでいきなり言われても困ってしまうというものだ。
 だって俺、ろくにこの世界の勉強していないので質問なんて出せるわけないのだ。
 ここで頑張ってほしいのがゼイゴである。リセはボッチこじらせてあれだし、イリーナに至ってはゴブリンだ。文化というか種族的な違いにより持っている知識が違う可能性だってある。

「リセ、ゼイゴを残せ。彼女にはやってもらいたいことがある」

「え、諸刃? それって……私を捨てーー」

「そうじゃないって、なんでそうなる。俺が頼みたいのは質問を出してくれってことだよ。俺はそんなに器用じゃないんだ。質問出しながらシンシアの相手をするなんて無理なんだ」

 俺の必死さが伝わったのか、リセはコクリと頷いた。そして、なぜかイリーナからひもをもらってゼイゴを縛り上げたのだ。

「ゼイゴにはしっかり仕事してもらうようこっちで見張ってるから。諸刃も頑張ってね」

「お、おう」

 これしか言えなかった。というかこれ以上何を言えと、と思えるほど手際よく縛り上げる。ゼイゴは騒いでいた。必死さが滲み出ている。けど、本来の仕事はシンシアをストーキングすることではなく、彼女の身の回りの世話をしてサポートすることだ。
 血の涙を流してこちらを睨んでいるように見えるのだが、我慢してほしい。というか怖いなあいつ。

「さぁ先生っ。行きますよっ」

 斬りかかってくるシンシアに応戦しつつ、俺はゼイゴに視線をやると、血の涙目になりながらコクリと頷いた。だから怖いって。

「問題ですよお嬢様。今日のお嬢様の下着ーー」

「あほですか、あなたはあほですかっ!」

 イリーナが容赦ないボディーブローをきめる。直撃を食らったゼイゴはとても苦しそうにしている。

「赤ちゃん産めなくなったらーー」

「大丈夫です。ボディーブローならそこまで影響でないので」

「うそぉ!」

 ゼイゴが驚きを隠せない表情を浮かべる。逃げ道はない。そして下ネタを言ったらボディーブローが来る。とてもつらい環境だろうなあれ。まるで強制労働のように見えるけど、違う言い方をするならば信頼がないと言ったほうが正しいかもしれないな。
 まああれだ。俺もシンシアの相手を頑張るから、お前も頑張ってくれと心の中で言ってやった。
 こうして俺たちは、試験勉強と言っていいのか分からない何かが始まったのだ。
 いや、なんでこうなった?
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