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公爵家ご令嬢は悪役になりたい!

39.それでいいのか? 悪役令嬢!

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 俺はのじゃロリの新たな力を開放した。その名も弐解・桜花聖光。元々の桜花としての力に飛鳥の全自動浄化機能が備わったような刀だ。桜色の刀身にうっすらと蒼い幾何学模様が浮かび上がっている。変化はそれだけじゃない。俺のことを強化してくれていた桜花の力が少しだけ、ほんの少しだけ上がったような、気がした。これ誤差範囲じゃね? って思うぐらいしか上がっていないので何とも言ええない気分になる。

 それでも少しだけ強くなれたし、この桜花聖光を掲げるとあの得体のしれない名状しがたい悪魔が一歩引くような行動に出る。その行動はさながら、害虫を見つけてドン引きしている女の子のようにも見えた。なんでだろう、今俺は害虫の気分を味わっている。げせぬ。

「#################」

 俺や飛鳥に危機感を覚えたのか、悪魔は細長い腕を振り上げて鞭のようにしならせながら俺たちに遅しかかってきた。だが、そんな単調な攻撃を食らうほど俺や飛鳥は弱くない。

『諸刃! もっと周りをよく見るのじゃ!』

 のじゃロリに言われて気が付く。あの悪魔の攻撃はシンシア達のところまで届くということに。
 っち、これじゃあただ避けるということができない。

「桜花、頼むぞ」

『都合のいいときだけ名前を呼ばれる。悲しい刀生じゃのう……』

「うっせ」

 そう言いつつ、俺はのじゃロリを構える。手が下になるというちょっと特殊な感じで腕をクロスさせ、のじゃロリを持っている手は腕を振り上げるように、もう片方の腕は刀を振るう腕をはじくようにして振り上げた。

「鬼月流火の型三式:活火斬!」

 一式の応用技だ。一式は腕をクロスさせて、刀で横薙ぎする力に押し出す力を加えた力技だ。対して三式である活火斬は、一式の横薙ぎを縦方向の向きで行なうような技。
 この攻撃で悪魔の腕による攻撃を反らすことができればという想いで行なったのだが、これが予想外の結果をもたらす。

『のじゃ?』

「……は?」

 悪魔の腕が消し飛んだ。腕が吹き飛んだのではない。消し飛んだのだ。正直意味が分からなかった。腕を切り飛ばしたならともかく、腕が消し飛ぶって、俺はいったい何をやったのだろうか。
 試しにのじゃロリで悪魔をつついてみようとする。のじゃロリを近づけるだけで、あの黒い靄のようなものが消えてなくなった。

『のじゃ! 全自動浄化装置の力を儂に宿したのじゃ!』

「おお、コレで悪魔も浄化ができるってことだな!」

『ただ、問題があるのじゃ』

「問題?」

 これだけの力があれば確実にあの悪魔を討伐することができるだろう。この弐解・桜花聖光に弱点らしきものが見当たらないのだが……。

『この状態にはな、制限時間があるのじゃ。しかもかなり短い……』

「制限時間?」

 なんでそんなものがある。始解である桜花の時はそんなことなかったのに、一体何が問題なのだ。そこでふと思い当たることがあったことに気が付く。

「まさか……」

『そのまさかなのじゃ。この状態はあの似非勇者の全自動浄化装置としての力を使っておる』

「ねえ、さりげなく私、馬鹿にされてない?」

 飛鳥が怯えつつも、ほっぺを膨らませて文句を言ってくる。なんていうか、いろんな表情が混ざったような表情をしており、なんと表現したらよいか分からない感じで「ぶ~」と不貞腐れ始めた。こいつ、意外と器用かもしれない。

「別に馬鹿にしているわけじゃないさ」

『そうなのじゃ。全部諸刃に度胸がないのが悪いのじゃ。諸刃に残された選択肢は3つ。制限時間以内にあの悪魔を倒すか、それとも似非勇者に再びキスして再チャレンジをするか、敗北するかじゃ……』

「え、ちょっと待って、キスしたらまたできるの?」

『当たり前じゃろう。似非勇者の力で覚醒しているのじゃ。その力を補充すれば同じことができるのは普通のことじゃろう』

 確かに、車にガソリンを入れてエンジンを動かし、アクセルを踏めば前に進む。今ののじゃロリはこの状態と言っていい。ただ、車もそうだが、動くためのエネルギーであるガソリン、のじゃロリの場合は勇者パワーだな。これがなくなれば動かなくなるのは当たり前だ。なくなったら補充すればいい。車だってガソリンスタンドでガソリンを補充すればまた動くようになる。それと一緒だ。
 だがもう一度キスをするってことになると、また修羅場一歩手前の状況に陥ってしまう。
 何とかしてこの悪魔を倒してしまいたいと思った俺は、真正面から悪魔に向かって走り出した。

 覚醒したのじゃロリの力が悪魔の力を浄化していく。悪魔は狼狽えつつも、得体のしれない謎の黒い靄を噴出させてきた。目くらましのつもりだろうか? だけど今ののじゃロリはその靄をあっさりと払うだけの力を持っている。

『のじゃ、あまり消費する出ない。すぐに時間がきてしまうのじゃ!』

「んなこと言われたって……」

 あの黒い靄に触れてはいけないと直感が告げている。なんというか、あの得体のしれない何とか王子と同じようになってしまうような気がした。あの悲惨な状況を目の当たりにしているのだ。ああはなりたくないと思ってしまうのも仕方のないことだと思う。
 でも時間制限があるのも事実だ。という訳で、速攻であいつを倒すっ!

 俺はのじゃロリの聖なる力を頼りに、鬼月流剣術を組み合わせた連続攻撃を仕掛けた。鬼月流の極意の一つ。それは技を無限につなげる連撃にある。
 鬼は本来人間よりも凶悪で力強い存在だ。まっとうに戦って勝てるような相手じゃない。だけど相手が攻撃に転じることのないような攻撃を繰り出せばどうだろうか。ずっと俺のターンと言わんばかりの攻撃なら小さなダメージが蓄積して鬼すら倒せる、かもしれない。
 そういった考えにより編み出された経緯のある鬼月流は、わざと技がしっかりと繋がるように考えられているモノがしっかりの残っている。

 連撃により悪魔の体を削っていく。刀が触れるたびに悪魔の体の一部が消し飛んで、悪魔の大きさが次第に小さくなっていった。
 あれ、思ったよりも弱いなこいつ。もっと苦戦すると思っていたのにあっさりと倒せそうだ。追加のキスはいらないな。

「っむ~~」

 なぜか飛鳥が不貞腐れたように頬を膨らませるが俺は見なかったことにした。長年の感とはちょっと違うが、俺はこの世界でめんどくさいことを感じ取れるようになったのだ! 特に女性関連だけど。どうしてこうなった。

「はぁ、俺、どこで人生間違えたんだろう……」

『無駄口たたかないでとっとと倒すのじゃ……ってもう倒せそうなのじゃ。面白くないのじゃ!』

「面白くないって、文句言うなよ。下手したら世界が終わるところだったんだぞ。簡単に倒せてよかったじゃないか」

 あの悪魔が本当に強かったらこの世界は今頃終わっている。俺がまともに戦えるのも勇者の力のおかげだ。何だろう、初めて勇者としての力が役になったような気がした。
 馬鹿なことを考えながら剣を振っていたらあの得体のしれない悪魔は完全に霧散して消えていったようだ。
 登場したときは焦ったあの悪魔の最後は実にあっけないものだった。

 そして俺たちの後方では……。

「大勝利っ!」

 地べたに這いつくばるミーと両手を上げて勝利を喜ぶシンシアの姿があった。あれ、悪役令嬢どうした!?

 なんというか、悪役令嬢に負けたヒロインの構図をいているみたいだった。俺が言うのもなんだが、それでいいのか? 悪役令嬢。

 まあ元々シンシアに悪役令嬢の素質なんてなく、どっちかっていうと姫騎士属性の方が強かったからな。

 俺はシンシア達のところに向かって合流することにした。アッシュもジェネを引き摺ってこちらに向かってきている。どうやらあちらの闘いも終わったようだ。
 闘いに敗れて地べたにひれ伏すミーは、俺のことをキッとにらみつけた。

「くっころ!」

「それはそれでなんか違うぞ!?」

 アッシュは戦闘馬鹿でもう少しましだったけどミーはなんというか、頭がとても残念な奴だった。
 魔王軍の幹部ってどうしてこういう奴しかいないんだろう……。
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