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薄曇りの朝、セリナはアレイスターとともに王都市庁棟へ向かった。議長室の重厚な扉前で書記官マルセルが回覧文を開き、「王太子殿下の裁可を経て、今回の貴族院評議会に『リーヴェル領地復興協同条約』を上程します。これまで三度にわたる非公式協議と各家への根回しを重ね、条約文案が最終調整を終えました」と報告した。
セリナは深呼吸し、扉をノックする。内側から開かれると、貴族院議長レドリック侯爵が静かに頷いた。
「待っておった。条約文案を拝見しようか」
古羊皮紙に金の縁取りを施した条約文には、非公式協議で確認された各項目が緻密に書き込まれている。セリナは要所を説明しながら言った。
「本条約は、王都と辺境リーヴェル領の安定と繁栄を支えるために提案しました。先日の渇水危機で明らかになった問題を教訓に、両地域が互いを支え合う枠組みが必要です」
侯爵は頷き、深い礼をして文案を引き取り、「よし、午後には全賛成が得られると期待しよう」と語った。こうして正式提案への道筋は整った。
午後二時、貴族院大広間。大理石の床に諸侯・伯爵たちが並ぶ中、セリナは演壇の左手に立ち、アレイスターはその隣に静かに立つ。リーナ・エヴェレット侯爵令嬢はその片隅から軽く会釈し、社交界の調整役として来場者に微笑みかけた。
議長レドリック侯爵が槌を打ち鳴らすと、場内は静まり返り、再び朗々たる声が響いた。
「これより『リーヴェル領地復興協同条約』の承認表決を行う。まずは協同条約の意義を簡潔に報告されたい」
セリナは一歩前に進み、抑えた声で条約の中核を語った。
「王都と辺境リーヴェル領は、気候変動や災害が多発する中央平原に共存しています。本条約は単なる支援協定ではなく、両地域の生命線である水・食糧・防災の三本柱を共有し、自然の脅威を互いに受け止めて民の安全と経済の安定を確保するために提案いたします」
場内には再び静寂が訪れ、やがて拍手が巻き起こった。議長が挙手機会を与えると、多数の賛成が上がり、一部残った沈黙の手もゆっくりと上がっていく。全会一致で承認が宣言されると、官署の冷たい大理石が温かく包まれるような歓声が広がった。
今回の件でリーナは、本条約調整において社交界の有力貴族をまとめ上げ、その手腕をついに証明したことで、かつて失った評判を完全に取り戻した。
式典を終えた一行は儀典殿前の大階段へ進み、人々の祝福を受けながら広場へと下りた。市民、辺境からの代表、旅人や商人連合の面々が花冠や白い布を掲げ、歓声を送る。辺境から来た老職人が手を合わせて言った。
「これでまた田畑が潤う。王都も、我らを遠い所帯とは思わぬじゃろう」
セリナは民衆に向かって小さく手を振り、アレイスターは格式通り軽く頭を下げ、リーナは優雅に笑みを返した。三者の連帯感が王都の大通りを彩る中、夜の帳が静かに下りていく。
(これからが、本当の始まり──)
セリナは心の中で呟き、群衆の祝福を背にして辺境へと続く道を見据えた。王国全土を結ぶ新たな絆は、今まさに形となったのだ。
セリナは深呼吸し、扉をノックする。内側から開かれると、貴族院議長レドリック侯爵が静かに頷いた。
「待っておった。条約文案を拝見しようか」
古羊皮紙に金の縁取りを施した条約文には、非公式協議で確認された各項目が緻密に書き込まれている。セリナは要所を説明しながら言った。
「本条約は、王都と辺境リーヴェル領の安定と繁栄を支えるために提案しました。先日の渇水危機で明らかになった問題を教訓に、両地域が互いを支え合う枠組みが必要です」
侯爵は頷き、深い礼をして文案を引き取り、「よし、午後には全賛成が得られると期待しよう」と語った。こうして正式提案への道筋は整った。
午後二時、貴族院大広間。大理石の床に諸侯・伯爵たちが並ぶ中、セリナは演壇の左手に立ち、アレイスターはその隣に静かに立つ。リーナ・エヴェレット侯爵令嬢はその片隅から軽く会釈し、社交界の調整役として来場者に微笑みかけた。
議長レドリック侯爵が槌を打ち鳴らすと、場内は静まり返り、再び朗々たる声が響いた。
「これより『リーヴェル領地復興協同条約』の承認表決を行う。まずは協同条約の意義を簡潔に報告されたい」
セリナは一歩前に進み、抑えた声で条約の中核を語った。
「王都と辺境リーヴェル領は、気候変動や災害が多発する中央平原に共存しています。本条約は単なる支援協定ではなく、両地域の生命線である水・食糧・防災の三本柱を共有し、自然の脅威を互いに受け止めて民の安全と経済の安定を確保するために提案いたします」
場内には再び静寂が訪れ、やがて拍手が巻き起こった。議長が挙手機会を与えると、多数の賛成が上がり、一部残った沈黙の手もゆっくりと上がっていく。全会一致で承認が宣言されると、官署の冷たい大理石が温かく包まれるような歓声が広がった。
今回の件でリーナは、本条約調整において社交界の有力貴族をまとめ上げ、その手腕をついに証明したことで、かつて失った評判を完全に取り戻した。
式典を終えた一行は儀典殿前の大階段へ進み、人々の祝福を受けながら広場へと下りた。市民、辺境からの代表、旅人や商人連合の面々が花冠や白い布を掲げ、歓声を送る。辺境から来た老職人が手を合わせて言った。
「これでまた田畑が潤う。王都も、我らを遠い所帯とは思わぬじゃろう」
セリナは民衆に向かって小さく手を振り、アレイスターは格式通り軽く頭を下げ、リーナは優雅に笑みを返した。三者の連帯感が王都の大通りを彩る中、夜の帳が静かに下りていく。
(これからが、本当の始まり──)
セリナは心の中で呟き、群衆の祝福を背にして辺境へと続く道を見据えた。王国全土を結ぶ新たな絆は、今まさに形となったのだ。
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