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二人は洞窟を抜け出し、もう一度来た道を戻る。道半ばほど歩いたところで川の流れがみるみる変化していくのが分かった。
「無事成功したみたいですね」
「あぁ、すごいな」
「出来ているのか疑ってましたよね」
「いや、そんなことは」
「下手な嘘はつかなくて結構。顔を見れば分かります。ただ、これで信用出来たでしょう?」
「あぁ、感謝する」
「では町に戻りましょうか」
彼女は彼の見え透いた嘘が分かっていたがこの変わった川を見て彼女が聖女としてこの国に尽くすことが定かであることが分かっただろう。水が流れていく川を眺めながら来た道を歩いて町に戻る。すると、浄水地の近くでは人集りが出来て騒がしくなっていた。
「どうしたのですか?」
彼女は人集りに向かってそう尋ねると町長が前に出てきた。
「水の量が増えてきたと言われて皆が見に来たんだが、これはお嬢さんがやったのか?」
「ええ、そうです。なくなりかけていた源泉を元通りにしておきました」
「それは、それは。もうどうにも出来ないと思っていた」
ここまで町が水不足になっているように見えなかったというのに、この喜びようは彼女にとって違和感を覚える。しかし、水不足の問題がどうしようもないものであり、諦めてただその問題を直視していなかっただけのようだった。
「これで水不足というのは解決したでしょうか」
「あぁ、十分な量だ。これくらいあれば他の町にも送ることができるかもしれん」
「それなら、良かったです。何か他に困ったことがあれば何なりと申して下さい。何か出来ないか模索するので」
「これだけでも十分。水不足が解消されれば他のことにも尽力出来る。だから、他にお願いすることはない」
「そうですか。ただ、何かあった時は言って下さい。もう少しこの町に残る予定ですので」
「ああ、分かった」
人集りから離れてもなだ町の騒がしさは消えない。人伝に川のことを聞いたのか、商店街やなんの変哲のない道でさえ人が話に耽っていた。そして、アデリーナは人とすれ違うたびに視線を感じ、ヒソヒソと話す会話に内容が自分のことなのではないかと自意識過剰の感覚に囚われてしまう。
「きっと、アデリーナが源泉の問題を解決してくれたことを知って気になって見てるのだろうな。実際、君がいなければどうしようも出来なかったのだから感謝している」
「急になんですか?」
「人が通り過ぎるたびにソワソワしているように見えたから、そういった言葉が欲しいのかと思った」
「私は聖女の力を使った見返りはあまり求めたくはありません」
「それは嘘だな。その証拠に嬉しそうな表情を見せている」
「……顔は見ないでください」
彼女は称賛、感謝の言葉に慣れていなかった。人を助けるのは聖女にとって普通のことであるし、聖女であるから助けるのは当たり前だと民も思っているはずだ。だから、こうして面と向かって言われるのは恥ずかしくもあり、嬉しくもある。それにその表情を見られるのは彼女にとって弱い部分を曝け出しているようで少し気恥ずかしい。
「今日はこれだけでいいのだろうか?」
「農園を見に行きませんか?水が行き渡るようになった農園を見てみたいです」
「それもそうだな。確かあっちだったはずだ」
彼の横を歩きながら彼女は農園へと向かう。
「忙しそうにしてますね」
「そうみたいだな。これも水が使えるようになった影響かもしれん」
農園に着くと忙しなく人が何かの作業に追われているようで見るからに忙しそうだった。声をかけようにもかけづらく、ただ見つめることしか出来ない。
「話は聞けませんでしたが、水が行き届いて生きる兆しが見えたというのが分かればいいでしょう」
「そうだな。見るだけでも十分だ」
二人は踵を返し、もう一度町の中心部に戻った。
「無事成功したみたいですね」
「あぁ、すごいな」
「出来ているのか疑ってましたよね」
「いや、そんなことは」
「下手な嘘はつかなくて結構。顔を見れば分かります。ただ、これで信用出来たでしょう?」
「あぁ、感謝する」
「では町に戻りましょうか」
彼女は彼の見え透いた嘘が分かっていたがこの変わった川を見て彼女が聖女としてこの国に尽くすことが定かであることが分かっただろう。水が流れていく川を眺めながら来た道を歩いて町に戻る。すると、浄水地の近くでは人集りが出来て騒がしくなっていた。
「どうしたのですか?」
彼女は人集りに向かってそう尋ねると町長が前に出てきた。
「水の量が増えてきたと言われて皆が見に来たんだが、これはお嬢さんがやったのか?」
「ええ、そうです。なくなりかけていた源泉を元通りにしておきました」
「それは、それは。もうどうにも出来ないと思っていた」
ここまで町が水不足になっているように見えなかったというのに、この喜びようは彼女にとって違和感を覚える。しかし、水不足の問題がどうしようもないものであり、諦めてただその問題を直視していなかっただけのようだった。
「これで水不足というのは解決したでしょうか」
「あぁ、十分な量だ。これくらいあれば他の町にも送ることができるかもしれん」
「それなら、良かったです。何か他に困ったことがあれば何なりと申して下さい。何か出来ないか模索するので」
「これだけでも十分。水不足が解消されれば他のことにも尽力出来る。だから、他にお願いすることはない」
「そうですか。ただ、何かあった時は言って下さい。もう少しこの町に残る予定ですので」
「ああ、分かった」
人集りから離れてもなだ町の騒がしさは消えない。人伝に川のことを聞いたのか、商店街やなんの変哲のない道でさえ人が話に耽っていた。そして、アデリーナは人とすれ違うたびに視線を感じ、ヒソヒソと話す会話に内容が自分のことなのではないかと自意識過剰の感覚に囚われてしまう。
「きっと、アデリーナが源泉の問題を解決してくれたことを知って気になって見てるのだろうな。実際、君がいなければどうしようも出来なかったのだから感謝している」
「急になんですか?」
「人が通り過ぎるたびにソワソワしているように見えたから、そういった言葉が欲しいのかと思った」
「私は聖女の力を使った見返りはあまり求めたくはありません」
「それは嘘だな。その証拠に嬉しそうな表情を見せている」
「……顔は見ないでください」
彼女は称賛、感謝の言葉に慣れていなかった。人を助けるのは聖女にとって普通のことであるし、聖女であるから助けるのは当たり前だと民も思っているはずだ。だから、こうして面と向かって言われるのは恥ずかしくもあり、嬉しくもある。それにその表情を見られるのは彼女にとって弱い部分を曝け出しているようで少し気恥ずかしい。
「今日はこれだけでいいのだろうか?」
「農園を見に行きませんか?水が行き渡るようになった農園を見てみたいです」
「それもそうだな。確かあっちだったはずだ」
彼の横を歩きながら彼女は農園へと向かう。
「忙しそうにしてますね」
「そうみたいだな。これも水が使えるようになった影響かもしれん」
農園に着くと忙しなく人が何かの作業に追われているようで見るからに忙しそうだった。声をかけようにもかけづらく、ただ見つめることしか出来ない。
「話は聞けませんでしたが、水が行き届いて生きる兆しが見えたというのが分かればいいでしょう」
「そうだな。見るだけでも十分だ」
二人は踵を返し、もう一度町の中心部に戻った。
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