カノン

暦海

文字の大きさ
23 / 26

望み

しおりを挟む
「…………ごめんね、ハイノ。また、急に倒れちゃったみたいで」
「謝らないで、エルナ。それより、目を覚まして本当に良かった。……本当に、良かった……」
「……うん、ありがとハイノ」


 それから、数時間後。
 総合病院の一室――以前と同じ病院の一室にて、力なく微笑みそう口にするエルナ。だけど、謝らないでほしい。言うまでもなく、エルマは何も悪くないんだから。


 あの時――あの帰り道、ふっと倒れたエルナ。以前まえのように、苦しそうにする様子もなく本当に突然――まるで、時間ときが止まったかのように。

 だけど、ぼおっとしてる場合じゃない。すぐに救急車に来てもらい、エルナを病院に――そして恐怖をどうにか抑え、ただ一心に祈り……そして、少し前に目を覚ましてくれたというわけで。……いや、もちろんぼくの祈りのお陰で覚ましたわけじゃないけども。懸命にエルナを助けようとしてくれた皆さん――そして、エルナ自身の強い意志のお陰だろう。


 その後ほどなく、パパとママも病室の中へ。目覚めたエルナを見るやいなや、涙を流しながらエルナをぎゅっと抱きしめるパパとママ。そして、そんな二人に応えるようにエルナも二人をぎゅっと抱きしめて……うん、ほんとに良かった。

 それからしばらく、今日のこと――コンクールのことも含め四人で楽しくお話を。優勝したことなんて、もうすっかり忘れてしまっていたけれど……それでも、パパもママも喜んでくれたし……何より、エルナが自分のことのように嬉しそうに話してくれるのがぼくも本当に嬉しくて。


 そして、すっかり外も暗くなった頃――再び二人きりになった病室で、穏やかに微笑むエルナ。そして、ゆっくりと口を開き言葉を紡ぐ。


「……ごめんね、ハイノ。もう、お別れかな」




『……実はね、ハイノ。わたしね……もう、永くは生きられないと思うの』

『………………え?』


 あれは、一ヶ月ほど前のこと。
 もう一つ、聞いてほしいことがあるの――この病院の一室にて、そんな前置きの後ゆっくりと切り出したエルナの言葉。だけど、最初は何を言っているのか分からなかった。……いや、分かりたくなかった。ただの聞き間違い――あるいは、冗談だと思いたかったのだろう。

 ――だけど、聞き間違いでもなく冗談でもなく。そもそも、エルナがこんな冗談を言うわけもなく。

 それから、続けてゆっくりと言葉を続けるエルナ。生来、難病を抱えていたこと。少しでも生命いのちを永らえらせるため、本来なら入院していなければならなかったことを。

 それでも、エルナは望んだ。外の世界で、みんなと同じようで生きていくことを。わたしが必死でお願いしたことだから、どうかパパとママを責めないでほしい――そう、本当に念を押すように言うエルナ。……でも、心配しなくていいのにね、そんなこと。エルナ自身を除けば、パパとママが一番辛かったはず。それでも、エルナの思いを一番に尊重して……流石に、それくらいのことは分かってるつもりだから。
 

 
 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

夜の帝王の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。 ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。 翻弄される結城あゆみ。 そんな凌には誰にも言えない秘密があった。 あゆみの運命は……

【完】ベッドの隣は、昨日と違う人

月村 未来(つきむら みらい)
恋愛
朝目覚めたら、 隣に恋人じゃない男がいる── そして、甘く囁いてきた夜とは、違う男になる。 こんな朝、何回目なんだろう。 瞬間でも優しくされると、 「大切にされてる」と勘違いしてしまう。 都合のいい関係だとわかっていても、 期待されると断れない。 これは、流されてしまう自分と、 ちゃんと立ち止まろうとする自分のあいだで揺れる、ひとりの女の子、みいな(25)の恋の話。 📖全年齢版恋愛小説です。 しおり、いいね、お気に入り登録もよろしくお願いします。 📖2026.2.25完結 本作の0章にあたるエピソードをNOTEにて公開しています。 気になった方はぜひそちらもどうぞ!

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編7が完結しました!(2026.1.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...