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憩いの時間
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「……それでさ、深影さん。これからどうしよっか?」
「……ふむ、そうですね……ひとまず、休憩の出来る場所は如何かと。鈴珠さんも歩き疲れたかと思いますし」
「うん、賛成! ……でも、どこにしよっか?」
「……そうですね、この辺りでしたら……」
その後、そんなやり取りを交わしつつ歩みを進めていく私達。……うん、確かにちょっと疲れた。なので、彼の提案には全く以て賛成なのだけども……さて、どこにしよう。繰り返しになるけど、私達は決してバレてはいけない身……なので、なるべく人の多いところは避けたい。だけど、この辺りのお店はだいたいどこも繁盛していて――
「――あれ、鈴珠ちゃんじゃねえか!」
「…………へっ?」
「……そう、だったんですね。本当に驚きました」
「ああ、こっちもだよ鈴珠ちゃん。にしても……深影さん、だったか? めちゃくちゃ綺麗だけど、ほんとに男の人かい?」
「……あ、ありがとうございます……その、義郎さん」
それから、ほどなくして。
そう、快活な笑顔で話す精悍な男性。私の行きつけたる水茶屋『明葉』の店主たる義郎さんで。……いや、行きつけというほど行ってない……と言うか、行けなかったけども。そもそも、年に二回しか休みがなかったわけだし。
「……それにしても、ごめんな鈴珠ちゃん。言い訳だと分かっちゃいるが……あんなに美味しそうに飲んでくれる鈴珠ちゃん見てたら、どうしても言い出せなくてな」
「あっ、いえ気にしないでください! それに……結果的にですけど、私も一言も告げず吉原を出ちゃいましたし……だから、お互いさまです」
「……そっか、そう言ってくれると助かる」
その後、言葉の通り甚く申し訳なさそうに告げる義郎さん。でも、謝る必要なんてない。彼の気持ちも理解できる気がするし、そもそも結果的に私だって何も言わずに吉原を出てしまったのだから……まあ、お互いさまということで。
さて、そんな私達がいるのは組み立て式の簡素なベンチ。義郎さんの話によると、私が来店したあの日の最後に吉原を去り、その後は移動式のお店として郭外を回っいるそうで……うん、なんという巡り合わせ。
「――どうぞ、鈴珠さん、深影さん。温かい内に召し上がってね」
「ありがとうございます、菊乃さん」
「……あ、ありがとうございます……その、菊乃さん」
その後、ほどなくして。
そう、柔らかな微笑で温かいお茶を差し出してくれる綺麗な女性。ここ明葉の看板娘たる菊乃さんで。……うん、やっぱり良いなぁ。義郎さんがいて、菊乃さんがいて……うん、これだけで何処だって私にとって憩いの場所で。
「…………美味しい、ですね」
「でしょ! 明葉のお茶は最高なの! こう、芳醇な香りとコクが――」
その後、沁み沁みと呟く深影さんについ声を上げてしまう私。……うん、ちょっとうるさかったかな?
……でも、抑えきれなくて。だって……大好きなものを、他ならぬ深影さんが褒めてくれる……そんなの、嬉しくないはずがなくって。
「……ふむ、そうですね……ひとまず、休憩の出来る場所は如何かと。鈴珠さんも歩き疲れたかと思いますし」
「うん、賛成! ……でも、どこにしよっか?」
「……そうですね、この辺りでしたら……」
その後、そんなやり取りを交わしつつ歩みを進めていく私達。……うん、確かにちょっと疲れた。なので、彼の提案には全く以て賛成なのだけども……さて、どこにしよう。繰り返しになるけど、私達は決してバレてはいけない身……なので、なるべく人の多いところは避けたい。だけど、この辺りのお店はだいたいどこも繁盛していて――
「――あれ、鈴珠ちゃんじゃねえか!」
「…………へっ?」
「……そう、だったんですね。本当に驚きました」
「ああ、こっちもだよ鈴珠ちゃん。にしても……深影さん、だったか? めちゃくちゃ綺麗だけど、ほんとに男の人かい?」
「……あ、ありがとうございます……その、義郎さん」
それから、ほどなくして。
そう、快活な笑顔で話す精悍な男性。私の行きつけたる水茶屋『明葉』の店主たる義郎さんで。……いや、行きつけというほど行ってない……と言うか、行けなかったけども。そもそも、年に二回しか休みがなかったわけだし。
「……それにしても、ごめんな鈴珠ちゃん。言い訳だと分かっちゃいるが……あんなに美味しそうに飲んでくれる鈴珠ちゃん見てたら、どうしても言い出せなくてな」
「あっ、いえ気にしないでください! それに……結果的にですけど、私も一言も告げず吉原を出ちゃいましたし……だから、お互いさまです」
「……そっか、そう言ってくれると助かる」
その後、言葉の通り甚く申し訳なさそうに告げる義郎さん。でも、謝る必要なんてない。彼の気持ちも理解できる気がするし、そもそも結果的に私だって何も言わずに吉原を出てしまったのだから……まあ、お互いさまということで。
さて、そんな私達がいるのは組み立て式の簡素なベンチ。義郎さんの話によると、私が来店したあの日の最後に吉原を去り、その後は移動式のお店として郭外を回っいるそうで……うん、なんという巡り合わせ。
「――どうぞ、鈴珠さん、深影さん。温かい内に召し上がってね」
「ありがとうございます、菊乃さん」
「……あ、ありがとうございます……その、菊乃さん」
その後、ほどなくして。
そう、柔らかな微笑で温かいお茶を差し出してくれる綺麗な女性。ここ明葉の看板娘たる菊乃さんで。……うん、やっぱり良いなぁ。義郎さんがいて、菊乃さんがいて……うん、これだけで何処だって私にとって憩いの場所で。
「…………美味しい、ですね」
「でしょ! 明葉のお茶は最高なの! こう、芳醇な香りとコクが――」
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