最後の頁で君を待つ

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第一章:誰もいない場所で

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 風が吹いていた。
 灰色がかった薄紅の空の下、風だけがこの世界の時間をなぞるように静かに通り過ぎていく。朽ちかけたアーチをくぐり、ひび割れた石畳の庭を歩く少年は、ずっと前に聞いた音を探していた。鳥の声も、笑い声も、もうここには残っていない。

「この世界にはもう誰も……、居ないんだね」

 ニエルは誰に語るでもなく、呟いた。
色彩を失いかけた庭園の中央、倒れかけた噴水の前に、少女が佇んでいた。腰まで届く髪は白銀に近い白群色で、静かに風に揺れていた。年の頃は自分と変わらないくらいだろうか。だが、ニエルはすぐに感じた――この少女は、自分とは異なる場所から来たのだと。

「……やっと来てくれたね」

 少女が口を開いた。優しく、けれどどこか遠い響きだった。

「君は……どこから来たの?」

「私は、君の世界を見届けに来た記録者」

 ニエルは戸惑いのまま、少女の前に立つ。

「記録者って……なんの話?」

「この世界は、終わりを迎える準備をしている。私はその終末を観測して、記録する役目を持ってここに来たの」

「……終わり? そんなの、まだ信じられない」

 少女は微笑んだ。その微笑みに悲しみが滲んでいることに、ニエルはすぐに気づいた。

「信じられなくて当然。だって、君はまだ“ここ”にいるからね」

 少女の視線が庭の奥、崩れた温室の方へ向けられる。

「昔、この場所にはたくさんの人がいた。音があって、色があって、日々が流れていた。でも……それらはすべて消えていった。今、ここにいるのは君だけ。最後の生存者、ニエル」

 ニエルは思わず拳を握った。

「でも僕は、まだ……信じられないし何も終わりになんてしたくない」

 その言葉に、少女はわずかに目を細める。

「終わらせたくないなら、君が最後の記録を選ぶことになる。選ぶことで、残すことができるかもしれない。記憶を、未来へと……」

「僕に……そんなことができるのか?」

「できるよ。君はまだ“ここ”にいる。だからこそ、記憶する意味がある」

 リピカはニエルの手をそっと取った。その手は驚くほど冷たく、けれど確かに存在していた。

「ここからは、君の選択次第」

 風がまた吹き、木々がささやく。

「ところで君の名前は?」

「私はリピカ、記録者リピカ」

 世界が、ニエルに問いかけていた。
 終わりの先に、何を望むのかを。
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