1 / 10
第一章:誰もいない場所で
しおりを挟む
風が吹いていた。
灰色がかった薄紅の空の下、風だけがこの世界の時間をなぞるように静かに通り過ぎていく。朽ちかけたアーチをくぐり、ひび割れた石畳の庭を歩く少年は、ずっと前に聞いた音を探していた。鳥の声も、笑い声も、もうここには残っていない。
「この世界にはもう誰も……、居ないんだね」
ニエルは誰に語るでもなく、呟いた。
色彩を失いかけた庭園の中央、倒れかけた噴水の前に、少女が佇んでいた。腰まで届く髪は白銀に近い白群色で、静かに風に揺れていた。年の頃は自分と変わらないくらいだろうか。だが、ニエルはすぐに感じた――この少女は、自分とは異なる場所から来たのだと。
「……やっと来てくれたね」
少女が口を開いた。優しく、けれどどこか遠い響きだった。
「君は……どこから来たの?」
「私は、君の世界を見届けに来た記録者」
ニエルは戸惑いのまま、少女の前に立つ。
「記録者って……なんの話?」
「この世界は、終わりを迎える準備をしている。私はその終末を観測して、記録する役目を持ってここに来たの」
「……終わり? そんなの、まだ信じられない」
少女は微笑んだ。その微笑みに悲しみが滲んでいることに、ニエルはすぐに気づいた。
「信じられなくて当然。だって、君はまだ“ここ”にいるからね」
少女の視線が庭の奥、崩れた温室の方へ向けられる。
「昔、この場所にはたくさんの人がいた。音があって、色があって、日々が流れていた。でも……それらはすべて消えていった。今、ここにいるのは君だけ。最後の生存者、ニエル」
ニエルは思わず拳を握った。
「でも僕は、まだ……信じられないし何も終わりになんてしたくない」
その言葉に、少女はわずかに目を細める。
「終わらせたくないなら、君が最後の記録を選ぶことになる。選ぶことで、残すことができるかもしれない。記憶を、未来へと……」
「僕に……そんなことができるのか?」
「できるよ。君はまだ“ここ”にいる。だからこそ、記憶する意味がある」
リピカはニエルの手をそっと取った。その手は驚くほど冷たく、けれど確かに存在していた。
「ここからは、君の選択次第」
風がまた吹き、木々がささやく。
「ところで君の名前は?」
「私はリピカ、記録者リピカ」
世界が、ニエルに問いかけていた。
終わりの先に、何を望むのかを。
灰色がかった薄紅の空の下、風だけがこの世界の時間をなぞるように静かに通り過ぎていく。朽ちかけたアーチをくぐり、ひび割れた石畳の庭を歩く少年は、ずっと前に聞いた音を探していた。鳥の声も、笑い声も、もうここには残っていない。
「この世界にはもう誰も……、居ないんだね」
ニエルは誰に語るでもなく、呟いた。
色彩を失いかけた庭園の中央、倒れかけた噴水の前に、少女が佇んでいた。腰まで届く髪は白銀に近い白群色で、静かに風に揺れていた。年の頃は自分と変わらないくらいだろうか。だが、ニエルはすぐに感じた――この少女は、自分とは異なる場所から来たのだと。
「……やっと来てくれたね」
少女が口を開いた。優しく、けれどどこか遠い響きだった。
「君は……どこから来たの?」
「私は、君の世界を見届けに来た記録者」
ニエルは戸惑いのまま、少女の前に立つ。
「記録者って……なんの話?」
「この世界は、終わりを迎える準備をしている。私はその終末を観測して、記録する役目を持ってここに来たの」
「……終わり? そんなの、まだ信じられない」
少女は微笑んだ。その微笑みに悲しみが滲んでいることに、ニエルはすぐに気づいた。
「信じられなくて当然。だって、君はまだ“ここ”にいるからね」
少女の視線が庭の奥、崩れた温室の方へ向けられる。
「昔、この場所にはたくさんの人がいた。音があって、色があって、日々が流れていた。でも……それらはすべて消えていった。今、ここにいるのは君だけ。最後の生存者、ニエル」
ニエルは思わず拳を握った。
「でも僕は、まだ……信じられないし何も終わりになんてしたくない」
その言葉に、少女はわずかに目を細める。
「終わらせたくないなら、君が最後の記録を選ぶことになる。選ぶことで、残すことができるかもしれない。記憶を、未来へと……」
「僕に……そんなことができるのか?」
「できるよ。君はまだ“ここ”にいる。だからこそ、記憶する意味がある」
リピカはニエルの手をそっと取った。その手は驚くほど冷たく、けれど確かに存在していた。
「ここからは、君の選択次第」
風がまた吹き、木々がささやく。
「ところで君の名前は?」
「私はリピカ、記録者リピカ」
世界が、ニエルに問いかけていた。
終わりの先に、何を望むのかを。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる