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しおりを挟む「ゲーム、やるのは久しぶりです。ゲブラーは?」
「ん、俺ゲームしたことない」
特に気にする様子もなくさらりと言うゲブラーに、ノイナは思わずえっと声を漏らしてしまう。
家庭によってゲームのある無しに差はあるだろうが、彼の性格からしてゲーム経験がないというのは意外だった。
(にしても、先輩の言うとおり、じわじわと自分のこと話してくれるようになったな……)
以前はほとんど自分の過去について話さなかったゲブラーは、いつしか自然と話題にしてくれるようになっていた。まだ彼の傷のようなものは見えてこないが、この様子ならスタールの言うとおり、いつか自分から話してくれる気がした。
「だから楽しみ!」
「それなら、もうお家に帰りますか? ケーブルとか繋がないといけませんし」
「んー……お昼は食べに行こ? ケーキ食べれるとこがいい」
「それもそうですね」
ちょうど時間もお昼どきというくらいだ。軽くご飯を食べて、がっつりデザートをいただくのもいいだろう。
最近は外に出ると、ゲブラーはよくケーキを食べに行こうと誘ってくれる。初めてケーキを食べに行ったときは嫌いだと言っていたのに、すごい変わり様だった。
「ゲブラー、まだケーキは苦手なんですか?」
「んー?」
なんとなくだが、ノイナはゲブラーがケーキを嫌っている理由が味ではないと思っていた。きっと原因は思い出のようなものだろう。ケーキでなにか嫌なことがあった、のような。
「ゲブラーって、けっこう甘い物が好きじゃないですか。本当はケーキ自体は好きだったりするのかな、って」
酒も、菓子も、彼の好みは甘い味だ。なら、ケーキだけが嫌い、というのはいささかおかしい。
そう正直に質問すれば、ゲブラーは少し嬉しそうな顔をする。ノイナが自分のことを理解しようとしてくれているから、だろう。
「小さいころは好きだったよ。俺にとっては贅沢品だったし」
「じゃあ、やっぱり今も……?」
「まだじっくりは味わえないけど」
きゅっとノイナの手を強めに握り、ゲブラーは言う。
「ノイナと一緒に食べるケーキは、大好き」
「! それは、よかったです」
好き、大好き、と彼が想いを伝えてくれるとき、ノイナは嬉しくなる。
思い返せば今まで好意らしきものは表現してはくれていた。けれどそのどれもが遠回りで、分かりづらくて、ノイナはなかなか気づけなかった。
それはきっと、ノイナが自分の気持ちを受け取ってくれるのか分からず、不安だったゲブラーが予防線を張り続けていたからだ。そして自分が傷つかないよう、自分でも好意に気づかないフリをしていたのだろう。
でも今こうして想いを伝えてくれるのは、それほど自分を信じてくれているということだ。それが嬉しくて、飛び跳ねてしまいそうなくらい幸せで、彼女は笑みを浮かべた。
「そうだ。ケーキを食べ終わったら、鍵屋さんに行きましょう」
「どうして?」
「家の鍵、ゲブラーのぶんが必要でしょ?」
ノイナの言葉に、ゲブラーは驚くような顔をする。本当に、意外な一言だと言いたげに。
「いいの……?」
「いいですよ、いつでも来てくれて。平日の昼間は仕事でいませんけど、夕方ぐらいには帰ってくるので。って言っても、ゲブラーと二人で住むにはちょっと狭いんですけどね」
一応一人暮らし用の部屋なため、ゲブラーと一緒なのは少しだけ窮屈だったりする。くっつかなければ眠れないベッドの狭さを思い出しながらそんな提案すれば、ふと顔を上げて見えたゲブラーの表情にノイナも驚いた。
「……ん、ノイナと、一緒に……へへ、やったね!」
「…………」
「狭いなら、俺が良い部屋選んで買ってあげるよ。そこで一緒に住もう?」
「うーん、それはちょっと……職場の許可が必要なので……」
「えぇ~、許可とってきてよ~」
思っていた以上に同棲を喜ぶゲブラーに、ノイナも笑みを浮かべた。
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