悪役令嬢はミステリアス学園長と共闘せよ!〜恋人ごっこでフラグを回避?〜

りりっと

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04 お宅訪問!

5 静かなのは怖い

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 掃除を終えた頃にはすっかり日が落ち、夜と呼べるような時間帯になっていた。
 昼間にうちに魔法で綺麗にしたシーツは日に干しておいた。伊達に広いだけあって、空き部屋はたくさんあった。先生が使っていた寝室から離れた部屋を、私が今日泊まる部屋にしてもらった。


「はい、これが部屋の鍵ね。って言っても」


 ずっしりとした重さの鍵を受け取る。お掃除と一緒に、どこかにバラバラに置かれた鍵を探したのだ。これは結構骨が折れました。
 鍵は所定の位置に置いておく。これ大事。


「僕がその気になったら鍵なんて意味ないんだけど」
「先生の倫理観を信じてますよ」
「分かってるって」


 婚前前の娘に間違いがあったら一大事だ。泊まりに来る前も一応その辺は断っておいてある。
 自意識過剰とかではなく、普通にそれも破滅コースなんです。


 ある程度寝る準備を済ませ、一息ついた私はベッドに腰かけると、ぼうっと天井を見上げた。
 晩ご飯は美味しかった。先生は意外と料理が上手い、これは実に有意義な発見でした。本人は面倒だから一人じゃやらないって言ってたけど、きっと手先もすごく器用なんだなぁと見てて思った。
 いや、普通に私より家事できる可能性大。

 お風呂はなんかもう、大浴場。
 こんなサイズいる? という感じだ。お城とかにあるような大きさだった。先生はアリスが来てるからねと豪華にバラなんか浮かべたりして遊んでいたけど、今日だけはお姫様っていう感覚だった。


「けっこういろいろお話したなぁ……って言っても、先生の話じゃなくて私の話だけど」


 先生の話を聞こうとすると、多分昔のことが気になってしまう。そう思った私はなるべく自分の話をした。
 この長期休暇中に一度ロサリアとお忍びで遊びに行くこと。先生にたまに魔法を教わったこともあってか、成績が良くなって実家に帰ったら父上母上が喜んでいたこと。ロサリアの影響で勧められるまま本を読んでいたら、この前クレイン王子からも本を送りつけられてきたこと。

 あれ、こうしてみると私の人生、一回傾きかけたけど順調だ。まだフェルナン様とはギクシャクしてるけど、それ以外は見事なまでに問題ない、寧ろ良好なのでは。


「それもこれも、大体先生のおかげなんだよねぇ」


 思い返せばあの日が転機だったのだと思う。終わった、と諦めて泣いていた私に手を差し伸べてくれた、たった一人の優しい人。


「……これから、どうなるんだろう」


 フェルナン様は前回のことで一応これ以上関係が悪化する様子はなさそうだ。ということはこのまま、私はフェルナン様と結婚する、ことになるのだろうか。


「…………」


 あれ、どうしてだろう。

 前はフェルナン様と結ばれるかもなんて夢見て、それを支えにして日々頑張ってきたはずなのに。
 今はなんだか、本当にそれでいいのかと問いかける自分がいる。


「いやいや、それでいいのかって、その道以外無いし……」


 公爵家の一人娘と王族である王子の結婚、それはほとんど決定事項といっていい。フェルナン様が嫌とでも言わない限り、これは覆らないのだ。
 けれどそう考えるとなぜか、急に自分が不自由な気がしてしまうのだ。


「何でだろう。先生と一緒にいると好き勝手できるから、かな」


 散々な言い様だが、実際に私は先生の側にいるときはご令嬢なんかじゃないと思う。オタク丸出しだし、マナーとかもたまにすっ飛ばすし、ある意味素の自分でいる。
 きっと先生が何度も、アリスは普段通りでいた方がいい、って言ってたからだろう。素直な反応のウケがいいこともあり、先生の側ではそれが板についていた。


 ――楽しいよ、今


「私も……」


 楽しい、そう思った。先生の魔法に大はしゃぎして、お茶会で落ち着いた時間を共にして、お互いだけはお互いのことを分かっているみたいな、錯覚かもしれないけどそんな心地になれる。

 でもこの時間はいつか終わる。
 所詮これは“恋人ごっこ”でしかなくて、私が学園を卒業でもすれば終わってしまうのだろう。
 それはなんだか、寂しい気がした。


「にしても……すごい静かだ」


 屋敷自体郊外にあるせいか、そしてこのだだっ広い屋敷に居るのが私と先生なせいか、屋敷は独り言でも口にしていないとすごく静かになる。

 そしてそんな状態になるとあれだ、家鳴りというか、何かの異音にもすごく過剰に反応してしまう。
 時折聞こえるカチって音はなんだろう。今ぱきってどっかから聞こえたよね。
 そんな音を聞いているうちに、恐怖心はどんどん膨れ上がってくる。


「なんか、先生にいい解決策ないか聞いてこようかな」


 就寝時間にはまだ余裕がある。先生なら何かいい案があるかもしれない、あわよくば魔法で眠らせてくれたり、子守唄みたいなものを聞かせてくれないだろうか。そんな期待を込めて、私は先生の寝室へと足を運んだ。
 部屋にはまだ灯りがついている。それを確認して、私は部屋をノックした。


「せんせ、ちょっといいですか?」


 するとごとっと中から音が聞こえてくる。グラスをテーブルに置く音、みたいな。
 数秒ほどの間が空いて、その後がちゃりと扉は開く。昼間と特に変わっていない様子の先生が出てくる。


「どうしたの、アリス」


 いつもよりも少し声が高い気がする。甘い声、みたいな。
 それと同時に香ってくるのは、お酒の匂いでした。


「え“っ、先生、お酒飲んでるんですか……!」


 さっきの音はやっぱりグラスを置いた音か。お部屋で寝る前にお酒とは、いや、人によっては普通かもしれないけど。


「なんか……あったから」


 いつもより受け答えが適当な気がする。ちょっと可愛い。


「それで、どうしたの?」
「えーっと、なんかお屋敷の静けさと時々聞こえてくる謎の音がですね、こ、怖くて……何か良い解決策はないものかと、先生に聞きに」
「ふーん……」


 なんだかジト目でこちらを見ていらっしゃる。
 これはもしかして、酔っている?


「(やばいかもしれん……)」
「じゃあ、すぐに眠れるくらい眠たくなるまで、僕とお話しようか」


 それは当然部屋で、ということなのだろう。流石に酔った殿方と夜の時間を共にするのはいろいろと危ない。
 そう思って断ろうとするも、既に先生の手はがっしりと私の手を掴んでいた。なんてことだ。


「あの、先生……」


 アウトになっちゃうのでダメです。そう言おうとしたところで、酷く寂しげなその瞳と目が合った。


「……寂しかったんだ」
「うっ」
「アリス」


 引き留めるように繋がっていた手が、ゆっくりと指を絡めるように這ってくる。
 ああ、これは、逃げられないやつだ。


「アリス……僕の隣に居て……」
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