『上条樹短編集』電車の通勤、通学の途中、短時間で読める作品を集めてみました。

上条 樹

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上条賃貸ハウジングの事件簿

観 光

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 出石とは兵庫県豊岡市に位置している。

 かつては有子山城という城存在しその城下町であったところである。益留は城も見たことが無いという事であったので有子山城跡に行ってみようという事になった。

 元々この場所には天正2年に此隅山城という城が山名祐豊という大名によって築城されたのだが永禄12年に羽柴秀吉こと後の豊臣秀吉によって落城された為、新たに有子山に城が築かれた。これが有子山城という名前が付けられたそうだ。しかし、有子城も天正8年、再び豊臣秀吉の攻撃を受け城は落城させられたそうだ。ガイドブックの受け売りではあるが、読んでいて空しくなってくる。作っても作っても壊される城。当然に城跡なので城は存在しない。

 観光者用に用意された大きな駐車場に車を止めて、有子山城跡に向かう。城跡の入口にある登城橋の前で益留が一緒に写真を撮ろうと提案してくる。なんだか写真を改まって写す事など無いので、なんだか恥ずかしかった。彼女は近くの人にスマホを渡し撮影をお願いした。女性と二人で並んで写る写真なんて十数年ぶりのような気がした。正直いうと別れた元嫁と撮影して以来のことであった。

 出石の町を探索する。豊岡市は鞄《かばん》の生産量が日本一ということでそれを求めてやってくる観光客も多いそうだ。豊岡市で作られた物を『豊岡鞄』というそうだ。
 益留は百合子用のお土産にと物色していたが値段を見て驚いたようであった。

 大通りに時計台が見えた。その時計台の名前は辰鼓楼《しんこうろう》、明治4年、太鼓を鳴らして時を知らせる楼閣として建てられたそうだ。辰の刻(7時から9時)の城主登城を太鼓の音で知らせていた。また、益留が写真を撮ってもらうように通行人に頼んだ。

「新婚さんですか。いいですね」頼まれた年配の男性が俺達を新婚旅行の夫婦とでも勘違いしたようだ。まあ、新婚旅行で出石に来るなどまずないであろうが、それを聞いた益留が嬉しそうに顔を真っ赤に染めた。訂正をするのも面倒くさかったので丁寧にお礼を言ってその場から退散する。
 先ほど彼女が知らべた出石蕎麦の店に入る。入った瞬間に見覚えがあるような気がする。結局口コミとかで美味しい店を検索すると辿りつく場所は同じなのであろう。

「社長は何枚召し上がるんですか?」たいていの店の標準枚数は五枚。それに自分のお腹の減り具合によって枚数を追加出来るシステムなのである。

「そうだな、とりあえず十枚、益留君は?」

「それじゃあ、私は八枚でお願いします」二人で十三枚の出石蕎麦を注文する。あまり時間を置かずに頼んだ品が運ばれてきた。

「いただきます!」そう言うと彼女は嬉しそうに生卵をつゆに落としてから蕎麦を食べだした。

「美味しい!!」益留は目を見開いて歓声の声を上げた。周りの客もおかしかったのかクスクスと笑っている。

「そうだろう。こっち方面の来るなら久しぶりにこれを食べたくなってさ!」若い時に仕事の関係で月一位で出石から丹後半島方面に仕事にきていた事があり、この辺は少しだけ詳しいのだ。ここまで来たら正直言うと天の橋立よりも城崎で蟹が食べたい気分であふった。ただ、今日は車の運転があるので酒が飲めない。他の従業員も一緒ならまだしも、益留と二人で宿泊をするわけにはいかないであろう。

「あれ?」益留が店の外を見て急に驚いたような声を上げる。

「どうしたんだい?」彼女の見ていた辺りに俺も目を移した。特に変わったものは見当たらない。

「あ、いいえ。私の気のせいだと思うんですが・・・・・・、狩屋さんがいたような気がしたんですけど・・・・・・」言いながら蕎麦を一口頬張った。

「なんだって!?」俺は立ち上がってもう一度先ほどの場所を見たが、そこには彼の姿は見えなかった。

(まさか、狩屋の奴俺達をずっと尾行しているのか!?)少し疑心暗鬼になる。

 警察はやはり俺の事を疑っているのであろうか。まあ、三年ほど前に死んだはずの女性と最近会ったという男は怪しくて当たり前だろう。

「はあ・・・・・・」溜息が出る。先ほどまでの益留のやり取りが気が付かなかったが、自分なりに楽しんでいたのだなと改めて感じた。

「どうかしましたか?」益留は不思議そうな顔をした。彼女は俺が重要参考人であることに気がついていないようであった。彼女は蕎麦湯を堪能しているようであった。蕎麦で冷えた体を暖かい蕎麦湯で常温にもどすようであった。彼女はホッコリとした顔をして微笑んだ。

「いいやなんでもない。お腹一杯になったかい?そろそろ宮津のほうに行こうか……」俺はレシートを掴むとレジに向かった。なんだか狩屋の行動が気になって折角の蕎麦を残してしまった。


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