無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~

ねむ鯛

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第二十八羽 確かに相性が悪い

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 広がるシャボン。壊すことも無視することもできないそれの一番の対処法は発生元を叩くことです。
 しかしエセ忍者に時間を稼がれてしまったせいで、巻き髭の姿はぷかぷか浮かぶシャボンに隠されて見つからない。
 それならば次の対処とばかりにシャボンを風で吹き飛ばそうとして……。

「ふーちゃ―――」

「おっと」

 地面から飛び出したエセ忍者が手の平サイズの球体をあちこちに投げ込んだ。その球体が次々に破裂して紫色の煙が辺りに広がっていく。

「拙者特性の毒でござる。下手に吹き飛ばせば……どうなるでござろうか?」

「この……!!」

 ここは街中。考えなしに毒霧を吹き飛ばせば、ヒトが巻き込まれる可能性がある。避難はしているはずですし、遠くに飛ばせば大丈夫だとは思いますが……やはり怖いですね。

 あ、ふーちゃんが逃げた……。空気が汚いからいやですって……。

 あの……ふーちゃんがいなくなるとちょっと……困るんですけど……。
 私の魔術でシャボンと毒霧を吹き飛ばすことは出来るかも知れませんが……、地面の粘液やシャボンにも毒がついているので、強い風を使えばまとめて飛んで行って落ちて付着した毒が誰かについてしまうかも。それは避けたいところです。
 ふーちゃんの補助がない私の風の魔法は威力がたりないですし、魔術は融通が利きません。
 風で吹き飛ばす手は使えません。

 散発的に飛んでくるクナイや手裏剣を叩き落しつつ考える。『天駆』を使えば地面の粘液は踏まずに戦えますが、上空のシャボンが邪魔ですね。一思いに割ってしまえば、粘液が頭上から降りかかってきます。体についた粘液からは今現在なにも起きないですが、さすがに全身に浴びてしまえば行動に支障が出るでしょう。なにより気持ち悪いです。
 とその時、クナイが頭上に飛んで行った。私には当たりえないルートを進み……飛んでいたシャボンを割った。

 ……あ。

 はじけたシャボンの粘液が降り注ぐ。脚を滑らせないように気を付けつつ、急いで回避したところにエセ忍者が突っ込んできた。
 それも粘液の中をバシャバシャ突っ切って。シャボンの側を通っても破裂する気配もない。

「なんで滑ってないんですか!?」

「拙者水上を走れるのでござる。この上も似たようなものでござろう」

「まんま忍者じゃないですか!?」

「アサシンにござる」

「そのこだわりはいったい!?」

 ひたすら遠距離攻撃しかしてこなかったのでエセ忍者も粘液は避けていると思ったのですが……。どうやら勘違いだったようですね。

 クナイが直進し、手裏剣が弧を描いて飛来する。それの対処をしている間にエセ忍者がすぐそこに迫っていた。
 振るわれる直刀を黒棍で受け流す。

「先ほどまでのキレがないでござるな?」

「わかっているくせに……!!」

 脚の裏がぬめって踏ん張れない。粘液をちょっと踏んだだけ普通の地面でもこれほど滑るのなら、粘液の上でまともに動く事なんて……。
 次々に襲いかかる直刀の連撃をなんとか捌けているもののこのままでは拙い。

「チッ……ならこれでどうでござるか」

 いつの間に取り出したのか足下に拳大の球体が。破裂したそれから毒々しい紫の煙が溢れ出す。これはまさにさっきの……!!

「ごほッ!? 毒……!!」

 すぐに息を止めたものの僅かに吸い込んでしまい、視界が一瞬歪む。すぐに戻ったけれど、長時間吸い込めばこれだけでは済まないでしょう。

 対してエセ忍者は抗体かなにか分かりませんが、なにかの対処法をもっているのでしょう。巻き込まれても平然としています。

 なんとか隙を突いて粘液が落ちていない別の足場に飛び移る。

「どこに行こうというのでござるか?」

 そこにも球体が投げ込まれ、煙が吹き出して。安全な足場がなくなっていく。
 ダメ押しのようになにかがズシャーっと滑ってくる音が。

「覚悟の時間だガール」

 姿を隠してシャボンを出すことに注力していた巻き髭が毒煙を突っ切って粘液の上をスケートでもするかのように滑ってきた。こちらも当然の様に行動できているのは自分の技だからだとして……毒は!? ……そうでしょうね、仲間だから解毒薬とか抗体とかそういうの貰ってるんでしょうね!!

横断幕パラレール

「ぐっ」

 助走によって威力が増された二条の斬撃が至近距離で炸裂する。『無明金剛シラズガナ』で防ぎきることはできたものの、受け止めることが出来ずに足場から押し出された。
 ズルズル滑りながら転倒しないように気を付けて勢いが弱まった場所は、足下は粘液で最悪、毒霧は漂っているしで気分は最低です。

「ごほッ、ごほッ……。う……」

 じわりじわりと毒が体を蝕んでいく。結構容赦がない毒ですね。咳と共に血が零れた。痛いですが耐性はあるのでしばらくは大丈夫。
 それよりも問題は足下の粘液。脚を動かしてもまともに進めない。『天駆』を使えばシャボンがない低空なら走れるでしょうが今ジャンプすれば必ず転けます。そうなれば起き上がれるかも怪しい。

 歩くことに見切りを付け、『無明金剛シラズガナ』で地面を突く。そうすれば体は反対方向に押し出されていく。
 その時毒霧の向こう側から巻き髭が声をかけてきました。

「言い忘れていたであったが……その粘液は未だ我輩の魔法。我輩の意志一つで性質を変化させることができるのである。油のように摩擦を激減させるものから―――」

 ―――毒霧の中今度は突然脚の滑りが止まった。

「はい!?」

「―――とりもちのようにひっつくものにまで」

「じゃあこれは脚が……!!」

「その通りである。地面にくっついてしまったのだ。それは容易くはとれないであるよガール」

 彼の言うとおり脚を持ち上げようとしても、粘液はグニュッと伸びて千切れる気配がありません。耐性があるとはいえ、毒霧の中に長時間居座るのはなかなかにマズいです。なにより回避行動が取れない。
 僅かな焦りを覚える中、巻き髭の言葉は続く。

「我輩の《バブル・ボブル》は敵が近づけば自動で破裂し、その時衝撃を発生させつつ粘液をまき散らす。レディー達には些か不評ではあるが……壊すにしろ放置するにしろ簡単には対処を許さず、じわじわと我輩のエリアを広げていけるなかなかの魔法だと自負しているのであるよ」

 なかなかというか……かなり凶悪な魔法だと思いますが。嫌みですか。心の中で悪態を吐いていれば、目の前になにかがヌッと現れた。

「あ……」

「そして《バブル・ボブル》は動きこそ遅いものの、ある程度自分の意志で動かせるのである。―――今ガールの直ぐ側にあるように」

 動けない間に側に来ていたシャボン。それが巻き髭の言葉を皮切りに次々と破裂していく。

「う!? ……ぐ。……あ。いッ!!?」

 全身をあちこちから殴りつけられるような衝撃に襲われる。動かせない脚でバランスを保てず、遂には地面に倒れてしまった。バシャリと跳ねる粘液が全身にまとわりつく感触が気持ち悪いです。
 ヌルヌル滑る手で頑張って体を起こした所で、手が地面から離れない事に気づいた。……ひっついた……?

 紫色で覆われていた視界が晴れていく。

 どうやらシャボンの破裂で毒霧が吹き飛ばされたようですね。毒霧はなんとかなりましたが……状況はもっと悪化してしまいました。
 粘液を滴らせ、四つん這いで藻掻く私。それをエセ忍者と巻き髭が左右から挟むように距離を取って見下ろしていた。

「と、取れない……。ゲホッ……、ゲホッ……。……ちょっと待ってもらえませんか?」

「できればガールとは武威を競いたかった物であるが……今は仕事中の身。ガールの腕は驚愕するほどであったが……素早い動きと的確な技術を封じればどうということはないのである。どうやら相性が悪かったようであるな」

 あ、待ってもらえないんですね。知ってました。もの惜しげに首をゆるゆると振った巻き髭と、無言で直刀を構えるエセ忍者。

「なに……大人をからかうような真似をしたのだ。罰を受けてもらうのである」

「からかう……手の平のこと根に持ってたんですか?」

「…………」

 ヒエっ……、無言で殺意が飛んできました。ず、図星だからって八つ当たりはいけないと思います!!

 そんな私の内心など余所に、二人は示し合わせたように同時に攻撃を仕掛けてきた。動けない私に左右からの同時攻撃。とりもち粘液は取れず、拳は握れないため魔術もまともに使えない。
 逃げることなど出来はしない。
 片方は二刀を構えて粘液の上を滑りながら、片方は粘液をはね飛ばしながら殺意を滾らせて迫る。

 必中の挟撃は―――

「『氣装流威エントリー』」

 ―――しかし空を切る。

「「……は?」」

 二人が瞠目してもさっきまで少女がいた場所には血痕どころか影も形もない。

「バカな!? どこに行ったであるか!?」

 その答えはすぐにもたらされた。バチリバチリとなにかが弾けるような音がしていたためだ。

「!? そこでござるか!?」

 振り返った先には確かにさっきまで全身から粘液を滴らせ動きを封じられていた少女がいた。しかし今の少女は粘液などなかったかのように全身元通りで、とりもち粘液もくっついてなどいない。

 それどこか棒を肩に担いで、散歩でもするかのようにしてパシャリ……パシャリ……と粘液の上・・・・を横切っていく。

 耳にしたバチバチという異音は少女から発せられたものだった。全身から蒼い雷のようなものが迸り、特に踏み出す度その脚に多くの蒼雷がまとわりつくさまが見える。

「なぜ歩けているのであるか……!!」

 抑えられない驚愕が漏れたようにワナワナと震え、思わず男は問いかけた。
 少女はその問いに答えることなく、笑顔でタダ一言溢したのだった。

「確かにこれは―――相性が悪いですね」

 と。
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