無限の転生~今世でついに人間卒業!? こんな人生こりごりだとは言ったけど、人間辞めたいとは言ってない~

ねむ鯛

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第??話 獣ノ刻 その11

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 ――それを見つけたとき、血が凍りついた。
 
 なにせいなくなった弟子が、今まさに森のヌシに殺されかけていたのだから。
 
 ――――昔の話だが、領土を広げるためにヌシを狩ろうと軍を送り込んだ王がいた。だが軍は壊滅。歴史書には、あっけなく蹴散らされたことが記されている。数を集めたところで相手になどなりはせんし、殿を務めた戦士も這々の体で逃げ帰り、その後引退。度々夢にすら出てきたと記されている。
 以降この森は誰も手を出さない、不文律タブーとなった。それほどヌシは強大な存在だ。

 だから今、この近くに住んでいる。だれも近寄らないから。

 間に合ったのは僥倖だった。あと少し遅れていたらバカ弟子はヌシに消し飛ばされていた。

 探し出に向かうかは、かなり迷った。
 馬鹿なことを口走ったせいで愛想をつかされたと思ったからだ。まともに育てることもできない師の分際でなにを、とな……。

 だが……少し話してみるとどうも違う様子だった。それ以外の理由は皆目検討もつかんが、それはこれが終わった後に聞き出すつもりだ。
 
 とはいえ――――困ったことになった。

 ヌシの目に油断というものがまるでない。
 
 弟子がいる手前、格好つけて『敗けん』などといったが……実のところ手のひらには冷や汗が滲んでいる。
 ヌシほどの存在にもなると、人類1匹程度、アリに等しい認識になっているはずだ。必ず、慢心や油断がつきまとう。

 それなのにワシを前にして油断を一切していない。なぜか。

 ――――すでに瀕死だからだ。

 あと一押しで倒せる。だからこそ、人類でも危険な存在として認識されている。
 しかし手負いの獣ほど恐ろしものはない。ヘタを打てば死ぬ。

「全く……優秀なのか、不出来なのか。よくわからんやつよな……」

 ――どっちにせよ、かわいい弟子に代わりはない。ヌシにはワシの代わりにかわいがってくれた礼をせんとな。

「《緑肆驕陣りょくしごうじん》」

 拳を握った。荒れ狂う暴風の力が編み込まれた魔術陣が出現する。

「――《羽々斬はばきり》」

「グオオオォォォオオ!?」

 斬撃がヌシの顔を深く切り裂いた。
 同時に驚愕と苦痛を孕んだヌシの悲鳴が響く。初手は命中、上々だ。

「ほれ、休んでいる時間はないぞ。《白漂陣はくひょうじん來唸砲らいてんほう》」

 白の魔術陣を発生。それに留まらず、魔力を送り込み続ける。

「――追記ディール造兵ポーン

 宣言と共に、魔術陣がわずかに縮小。その数が8個に分裂した。
 砲撃が発射される。その飛翔音はさながら狼の遠吠え。次々に食らいつく砲撃が爆炎を華開かせた。
 
 たまらず煙を振り払うように1歩、2歩と後退していくヌシ。
 その瞬間を逃さず、爆煙を引き裂いて、眼前に飛び込んだ。

「これは弟子を痛めつけてくれた礼だ」

 握った拳を振り抜く。ヌシの横っ面を殴りつけて、地面に殴り倒した。握った拳を解き、顔をしかめて手をプラプラと振るう。

かったいのう……。こりゃ普通に殴っても大して効かんな」

 起き上がるヌシを見て思案する。魔術を主体に削っていくしかないか。
 
 ……それにしても、あの弟子はこいつを相手に槍一本で追い詰めたのか。魔術も魔法も使えんはずだし。戦撃があるとはいえ、末恐ろしい限りだ。

 「将来有望じゃのぅ……」

 地面を蹴り飛ばし、再び一気に接近する。顔を向けたヌシが、片割れの欠けた角から素早く紫の光弾を放った。先の砲撃に比べれば、小さいがその分発射までが速い。

「ふん」

 それを手の甲に発生させた魔術陣で弾く。光線は進路を逸らされ。背後の空に尾を引いて消えていった。速度を緩めることなく、ヌシの懐へと飛び込む。
 ヌシも応じるように正面からタックルを仕掛けてきた。

「《拒交神盾アイギス》!!」

 激突で空気が振動し、巨体が慣性で持ち上がる。《拒交神盾アイギス》の防御力もさることながら、未だ眼の前の獲物を睨み続けるヌシの気迫も凄まじい。

「《來唸砲らいてんほう》=造兵ポーン

 白の魔術陣から放たれた砲撃が《拒交神盾アイギス》を避けて8方から囲うように襲いかかる。
 
 浮かび上がった巨躯が重力に引かれ、ズシンと後ろ足が地面に戻った。――――途端ヌシの姿が掻き消える。砲撃は地面に突き刺さった。

「ぬ!? 消えた!?」

「師匠ッ! 後ろです!!」

 弟子の悲鳴と同時に背後からの殺気を察知。襲撃を魔術で防御を展開するが、急造の盾はあっけなく砕かれた。腕をクロスしたガードの上からヌシの突進が命中する。

「師匠!?」

「問題ない! 休んでおれ」

 弾き飛ばされるが、危なげなく着地しバックステップで距離を取る。しかしヌシはすでに猛然と迫ってきていた。
 先の突進の勢いのまま、追いかけてきたのだ。

「追っかけは嫌いでな……。《來唸砲らいてんほう》=造兵ポーン

 迫りくるヌシの姿が掻き消え、右へ、左へとブレる。砲撃は背後へと逸れていった。

「チッ、これも避けるか。ならば――《橙甲陣とうこうじん隆荘りゅうそう》」

 橙色だいだいいろの魔術陣が砕け散る。
 迫る突進の眼前で地面が隆起し、巨大な壁が立ちはだかる。地面を踏み鳴らして迫るヌシが、激突。壁は土煙を上げて砕け、侵攻された。
 だがその先に標的はいない。視界を奪って、背を飛び越えていた。

「防ぐ気がなかったとはいえ簡単に壊してくれる……。《羽々斬はばきり》=騎洞ナイト

 荒れ狂う暴風をまとった手刀が、がら空きの背中を深々と斬り裂いた。体勢を崩し、突進の勢いも相まって転がっていった。

 ザリ……と地面に降り立ち、服をはたく。
 遠くで座り込んだままの弟子をチラリと見遣り、身を起こそうともがくヌシに視線を戻した。

 ……これほどか。ヌシの脅威を再確認して思わず唸る。
 頑強な巨体に、見失うほどのスピード、そして――強力な遠距離攻撃。

 足踏みで地面を踏み砕いたヌシが、大量の岩を打ち出してきた。

 どこを見ても隙がないな。この魔物をよくここまで追い詰めたものだ。バカ弟子もワシにみせたことのない能力を使っておるとはいえ……、全力のヌシと戦うなど気が滅入るぞ……。
 
 今のワシは勝てんとは言わんが、昔だったら逃げ一択。……バカ弟子もあの歳でよくやる。

「岩に魔力をまとわせて飛ばしておるのか。ならば……」

 前に駆ける。

「《黄醒縲陣おうせいるじん》――――」

 群れをなして迫る岩石にスパークが迸る魔術陣を向け。

「《霆殿樹奏デンドログラム》」
 
 雷撃が射出される。
 打ち出された一矢が先頭の岩石を打ち砕く。衝撃に励起れいきされた雷撃が幾重にも枝分かれして、行手を阻む岩を次から次へと飲み込み貪っていく。

追記ディール司拝ビショップ

 ことごとくを打ち砕いた魔術、それに後述を加える。無作為に広がるばかりだった雷撃が、意思を持ったからのように収束。あっけにとられるヌシの全身を百雷が焼き焦がした。

「オオォォオオ!!!?」
 
 燻る黒煙を撒き散らしながらそれでもヌシは倒れない。タフすぎる。いい加減にせい。
 高鳴る心音のように足元から紫電を立ち上らせ、それを全身にまとった。
 強化形態か……? かと思えば一部を地面に流し込む。
 砕けた地面の隙間から紫の光が溢れ、先よりも多くなった岩石が浮かび上がった。

 数を増やして押し切ろうと言う腹づもりか?

「それでは突破できんぞ! 《霆殿樹奏デンドログラム》!」
 
 再び放たれた一矢。
 しかしヌシが突進を開始する。無数の岩石を後方に下げ、紫電を漲らせた巨体で雷撃に突っ込みかき消した。背後の岩石群は健在だ。

「考えたな……」

 《霆殿樹奏デンドログラム》の一矢自体の威力は低い。無数に分裂するからこその先ほどの火力を発揮できる。それをあの一撃で本能的に感じ取ったか……。

「ならば……《來唸砲らいてんほう》=造兵ポーン

 八条の砲撃が遠吠えに似た飛翔音を引き連れてヌシを迎撃する。圧巻の速度でみるみる迫る突進に引き打ちで距離と時間を稼ぐのが目的だ。がこちらの砲撃の隙間を縫って紫の光弾が発射された。

「ッチィ」

 手の甲に発生させた魔術陣で危なげなく弾く。だがすでに、五月雨のように無数の紫の光線が迫っていた。
 これはかわしきれんな。

「《拒交神盾アイギス》!」

 白亜の盾が無数の光弾を受け止める。ヌシの砲撃でさえ受け止めた盾だ。小粒の攻撃などでは小揺るぎもしない。
 突進をしていたヌシが引き連れていた岩石群を先行させた。無数の質量が轟音と土煙を立てて盾に受け止められる。
 これで《拒交神盾アイギス》を壊し、突進を通すつもりか?

 いや……。直感がそれを否定した。

 突如として背後に巨大な何かが出現した。盾のない無防備な背後に、地面を踏み鳴らす死の足音が迫る。

「師匠!」

 弟子の悲鳴を遠くに聞き、安心させるように嗤う。予測済みだ。

「そりゃあ、二度目だぜ? ヌシよ。追記ディール騎洞ナイト

 後述によって白亜の盾が形を変え、腕を包み込む。それが巨大な拳の形を取って、ヌシの突進と激突した。
 衝撃が大地を揺らす。
 血走った目で獲物を睨みつけていたヌシはすぐさま身を引き、高速移動を開始。
 円を描くように横すべりしながら、無数の光弾を放つ。それを手足4つに分けた《拒交神盾アイギス》で弾いていると、横から強襲された。

「……なるほど。そう来るか」
 
 影も踏ませない高速機動を始めたヌシが360度全方位から光弾と突進の雨を降らせる。
 脱力した体制から体を捻る。鞭のような鋭い蹴りで突進を迎撃。ヌシが掻き消え、隙を狙って打ち込まれる光弾を弾き、逸らす。
 風切り音と共に襲いかかるヌシの攻撃の嵐をことごとく撃ち落とす。

 ついに焦れたのか、真正面から力まかせにヌシが迫る。白亜の拳で迎撃すると、力勝負にでも持ち込もうと言うのか、引かずに力を込めてきた。

「足を止めたな? 《橙磐呑陣とうばんどんじん》」

 地面に巨大な魔術陣が描かれ、無数の掌が地面から伸び、ヌシの体に掴みかかった。

地韻合塞掌ガンダーラ

 地面に縛り付けられ、巨大な両手に左右から押しつぶされる。

「捕まえたぞ。お前さん、移動速度こそとんでもないが、思考速度はそれほどでもない。自分の速さに振り回されてうまく使い切れておらんだろう? 驚いたときに、避けきれていないのがその証拠よ」

 苦痛の悲鳴を上げたヌシだったが、逃げられないと悟った次の瞬間には額に紫のイカヅチが収束していた。瞬時の判断だった。

「早いなッ!? 今言ったの間違っとったか!?」

 今までの光弾と寸分変わらぬ速度で発射。おそらく体の紫電を利用した簡易チャージか。体から紫電が消えている。極大のビームほどはないが、これは最後の切り札じゃな。これを凌げば勝ちが見える。

「悪いが早打ちはワシの領分じゃ。《羽々斬はばきり》ッ!」

 編み込まれた暴風の斬撃が、光線を切り裂き、ヌシの顔から鮮血を撒き散らした。ヌシに残る手は、ない。

「最後まで肝が冷える戦いじゃったが……これで終いじゃ。《赤釈憤陣せきしゃくふんじん:《劫嚇滅槍シャイターン》」

 大地に挟み込まれたヌシの上空に、煌々と燃え盛る赤の魔術陣が幾多も重なって出現する。
 それだけで周辺が熱気に包まれ、辺りを真っ赤に染め上げた。

「《追記ディール破塔ルーク》」

 その色がわずかに薄まり、代わりに大きさがヌシの全身をすっぽりと覆う。
 それを見上げたヌシは、それでも敵を睨みつけていた。

「……天晴。お前さんはとんでもない強敵じゃったよ」
 
 言葉とともに極大の紅蓮の柱が天から下され、大地を貫いた。
 炎の柱が消え去った後にあったのは巨大な穴。底は見えない。

 それを見届けると、未だ《拒交神盾アイギス》に守られたままの弟子のもとに向かった。

「お疲れ様でした。相変わらず、……すごかったですよ」

「いや、……派手にやりすぎた」

 球状になっていた盾の魔術が宙に解ける。ふらつく弟子を支え、しゃがみ、視線を合わせた。

 「破門などと馬鹿を言った。すまなかった。あれは……取り消す。家に……帰ろう」

 弟子は儚く微笑んた。
 
「いえ……、私は、ここまでです。今まで……ありがとうございました」

――――後書き――――――――――――――――――
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