かん子の小さな願い

にいるず

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かん子にささる視線

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 かん子は 引き換え券でもらったいなり寿司たちを持って、ロビーに向かって歩いていた。

 (え~なんなの!?いったいなに~!?)

 かん子が感じる突き刺さるような

 今までこんな痛い視線を感じたことなんてあっただろうか。しかもその視線がどこからきているのか、肌で感じるほどだ。

 (無視して、早くこのロビーを抜けてしまおう)

 頭の中でそう考えるのに、視線の先を見たい!という好奇心にさいなまれる。頭の中で考えている間、のろのろ歩いてしまったのだろう。ロビーの終わりがはてしなく遠く感じる。

 ついにかん子は好奇心に打ち勝てず、頭をぐるりと回して視線の先であるロビー右手の休憩コーナーを見てしまった。

 休憩コーナーにある自販機の前には、人がいた。大きい人が。

 見た瞬間、目がばっちりと会う。しかもなんだか怒っているような。おもわず、足が止まってしまった。
 背が高く、距離が離れているのに威圧感を感じる。なんなのよ~この存在感は!と突っ込みを入れたくなるほどだ。

 かん子は、なぜか目をそらすことができない。まるで蛇に睨まれた蛙状態!?

 かん子はこんな状況の中でも無意識に相手を観察していた。こんなに威圧感を感じるのに若く見える。よく旬の芸能人はものすごいオーラを感じるというが、まさに目の前の男からも同じものを感じる。と言っても、実際に旬の芸能人なんて見たことないのだが。
 どんだけ頭小さくて、足長いのよ~、あなたモデル?といってやりたいほどの、スタイルに顔の作り。

 かん子は兄俊史で美人顔は見慣れているはずなのに、つい見入ってしまった。

 いったいどのくらい見ていたのか、不意に脳が活躍しだした。

 (なんだ?こんなイケメンの知り合いなんていないし。もしかして私を見てるんじゃないんじゃない?後ろにいる誰かかも?)

 かん子は、おそるおそる後ろを振り返ってみた。後ろにいるはずの人影は どこをどう探しても誰もいなかった。

 (え~!!誰もいないじゃん、てことはやっぱり私?)

 今度は首がうまく戻らない。まるで油が切れたような動作で、首をぎこぎこ戻した。

 やっぱりさっきの男は、まだこちらをにらんでいる。

 人間は、こんなときにも考えるものらしい。自分は、いなり寿司・お茶・まんじゅうを2個ずつ持っている。

 (もしかして、これ盗んだと思われた~?もしかしてこれをみているの~?)

 かん子はそう思いこんでしまった。無意識に相手に説明しようと思ったのだろうか。でも声が出ない。酸欠の金魚のように、口をぱくぱくさせていたようだ。

 それまで身動き一つしなかった男が、急に揺れている。よ~く見ると、肩を震わせて笑っているようだ。顔はさっきまでの冷たい表情ではない。

 ふいに男は、こちらに向かおうと歩いてきた。

 かん子はふと我にかえった。肉食動物に追いかけられて、命の危険が迫っている草食動物のように、日頃は絶対しない機敏な動作で慌てて逃げ出した。絶対に後ろを振り向くな、振り向くなと、自分に言い聞かせて走りに走った。

 ホールの外に出ると、すぐ駐車場に向かわずにすぐ横の外の細い通路にはいって身を隠した。これじゃあまるで犯罪者みたいだと思ったが、なぜか本能が逃げろと叫んでいた。

 逃げている最中、後ろから声がしたような気がしたのだがたぶんなにかの聞き間違いだろう。しばらくそこで呼吸を整えてから駐車場に向かった。周りを確認すると誰もいなかった。もちろんあの男も。

 いったいなんだったんだろう?考えたところで、答えが見つかるわけでもない。かん子は考えるのをやめた。

 あの逃走の中、手の中のいなり寿司たちを死守出来たことがうれしかった。一仕事終えた気分で、自分で自分をほめてあげたくなった。

 自宅に戻る前に俊史に頼まれていた本を買うため本屋さんに寄るころには、先ほどの奇妙な体験のことはすっかり頭から抜け落ちていた。
 しかも考えていたことが、大きな見当違いだったことにも、気づかなかったかん子であった。


 ただこれが、あいつとのだったということに、後で気づくのだった。



















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