なぜか水に好かれてしまいました

にいるず

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24 勇気をもらいました

それからも毎日同じ夢を見た。

なぜか自分は、滝の前にいる。
竜から男の人になった人が、自分のところに歩いてくる。

いつもそこで目が覚めるのだ。

そしてその男の人は、なぜか玉山さんに似ている。
ランチであった時から本人には会っていないのに、毎日見る夢のせいで、なんだか毎日会っているような気がする。

今日も電車に揺られながら、敦子は思った。

( なんであんな夢ばかり見るんだろう。それにしてもあんな変な夢なのに、いや夢だからか、竜が人になるなんて現実的じゃあないのに。もっと違う楽しい夢を見たいなあ。 )
 
そうなのだ。あの夢で目覚めた後は、なぜか悲しいような切ないような気になるのだ。



仕事をしていると、名前を呼ばれた。

「 滝村さん。 」

営業の笹川だった。

「 悪いね~、今日もお願いできる? 」

目の前に差し出された書類を受け取ろうと、手を伸ばした時だった。

「 よかったら私がやりましょうか。 」

横から声がした。
声の主は、この前更衣室で笹川の事を聞いてきた後輩だった。

笹川は、不意に聞こえた声に戸惑ったようだった。

「 えっ、いいの? 」

なぜか笹川は、敦子のほうを見た。

敦子も先にやらなくてはいけない仕事があるので、後輩がやってくれるとうれしい。
そんな心の声が顔に出ていたのだろうか。

「 じゃあお願いするね。 」

笹川は、そういって、書類を差し出した。

「 はいっ。頑張ります。 」

後輩の子は、大事そうに書類を胸に抱えて席に戻っていった。

「 また今度頼むね。 」

なぜか笹川は、敦子のほうにそういって、自分のフロアーに戻っていった。

しばらくして敦子が、コピーを取りに行くと、ちょうど奈美も来た。

「 よかったの? 」

「 えっ、なんのこと? 」

敦子が、訳が分からないという顔をすれば、なぜか奈美はため息をついた。

「 笹川さんの書類。 」

「 あ~あ、あれね。すぐにやらなくちゃいけない仕事があったから、ちょうどよかったよ。 」

「 ふ~ん。 」

奈美は、なぜだか不満そうな顔で席に戻っていった。



仕事が終わり家に帰った敦子は、のんびり夕飯を食べた。

今日は、木曜日。あと一日行けばお休みだ。
今週は、ずいぶん長く感じた。

今週は先週と違って、誰からもお誘いがない。

敦子は、駅に貼ってあったポスターのことを思い出した。

「 そうだ、この休みは、美術館に行ってこよう。 」

ひとり声に出して、気分を盛り上げる。
そうしないとまた余分なことを考えてしまいそうだからだ。
余分なこととは、玉山の事だ。あれから連絡がない。

「 毎週のように会ってたし、あの女の人彼女かもしれないしな。 」

そう思うとさっき盛り上げた気分が、盛さがった気がした。

「 あ~あ、この前の後輩のようにできたらいいのに。 」

この前笹川の書類を、大事そうに胸に抱えた後輩の事が目に浮かんだ。
敦子から見ても、頑張ってたと思う。
敦子だったらとてもじゃないが、あんなみんなの前ではできない。

あの後輩の勇気が、半分でもあったら、いいのにと思った。

そうしたら、もっと何かできるのに。



敦子は、気分を変えようと今日の入浴には、前から買ってあったちょっとお高い入浴剤を入れることにした。

いい香りで、気分が上昇してお風呂から出た。

ふとテーブルを見ると、上に置いてあったスマホが光っているのが目に入った。

一通のメッセージが入っていた。

玉山からだった。


『 今週土曜日、どこか行きませんか。行きたいところはありますか? 』


敦子は、後輩の事が思い浮かんだ。

勇気を出してみよう。

すぐ返事した。

『 美術館に行きたいです。興味はありますか? 』

これまたすぐ返事が来た。

『 いいですね、美術館。○○展はどうですか? 』

そのメッセージに思わずくすっと笑ってしまった。

さっき敦子が、行こうとしていた美術館だったからだ。

「 もしかしたら玉山さんもあのポスターみていきたくなったのかなあ。 」


『 私も行きたかったのでうれしいです。 』

そう書いて敦子は、送信ボタンを押した。

『 じゃあ土曜日10時ということで。またインターホン鳴らしてください。 』

敦子は、そう書かれたメッセージをうけとって、思わず後輩にお礼が言いたくなった。

「 よかった、勇気出して。 」

ただそれからが大変だった。

明日は金曜日で、まだ会社に行かなくてはいけないというのに、何を着ていこうかとか一人興奮してなかなか寝付けなかった。

こうなったら洋服を選んでやろうと、起きだして、クローゼットを開けて洋服を見た。

いろいろ洋服を出してみては、納得がいかず、結局この前帰省した時に買った洋服にした。

あの洋服は、一度駅から帰るとき、玉山に見られているが、覚えていないだろう。
まあ覚えていてもいいや、せっかく買ったんだしと自分を納得させた。



翌日は、今まで毎日見ていたあの夢を見なかった。
しかし寝るのが遅くなってしまったので、朝から寝坊しそうになったのには参った。


会社に着くと、また更衣室であの後輩の事あった。

「 おはようございます。 」

「 おはよう~。 」

「 あの~、すみません。この前笹川さんの書類とってしまって。 」

なぜか後輩の子は、次第に声が小さくなってしきりに恐縮していた。

「 いいのよ、気にしないで。急ぎの仕事があったから、ちょうどよかった。 」

「 そうなんですか。でもほかの子に言われちゃって。 」

「 なにを? 」

敦子は、何を言われたのか気になって聞いてみた。

「 あの仕事は、滝村さんにって言われたんだから、私がとるべきじゃなかったって。 」

「 そうなの? 気にしないで、本人が言ってるんだから、ねっ。 」

敦子がそういうと、後輩の子は、心底ほっとしたようだった。


敦子は、明日の土曜日の事で浮かれていたのかもしれない。

「 こちらこそ、いろいろありがとう。 」

そういって更衣室を先に出た。




後ろから、えっという驚いた声がしたのだが、全く気にしない敦子だった。

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