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1章、お嬢様になっちゃった?
9.料理長の思い出②
しおりを挟むそれは昼食の最中だった。
魚のシチューと海藻のサラダ、塩味強めのパン。
旦那様も奥様もみんな、汗をかきながら召し上がってくださっていた中、お嬢…アリン様だけがいっこうに手をつけない。
心配になったメイドのマリリーが声をかけようとした時だった。
「も…」
「もういやだーーーーーーーーーー!!!!!なんでこんなくっそ暑いのに、あっつあつのシチューなんだよぉお!サラダは温いし!水はぬるま湯ぐらいになってるし!!」
「アリン!なんて言葉遣いを!」
「こらアリン!椅子の上に立つんじゃない!」
「このままじゃ熱中症だか日射病だか脱水症状だかで死ぬわ!!一般市民なんかバッタバタ死ぬワイこんなもん!!なんで誰も対策しようとしねーんだ!!なんで冷やす魔法ないんだよ!魔法あるくせになんでどうにかしようとしないんだよ!暑さだけじゃねーわ!食中毒もばんばん起きてるし!ふざけんなーーー!!」
当時五歳だったお嬢が、どこで覚えたのかとんでもなく汚い言葉遣いで、現状を嘆いている。
そう、ただ駄々をこねてるわけじゃない。
多くの人々が亡くなっていくさまをちゃんと知って、魔法の頼りなさに怒っている。
そして、普段のお嬢はもう少しおしゃべりが下手だったはず。
まるで別人だ。
「あああ、くっそ!水や風の魔法じゃ気温に左右されて使い物にならないしどうすればいいんだ…!」
パンをちぎりもせずにガブリとかみついて髪が乱れるのも気にせずぐりぐりと頭を揉みはじめ、急に黙ったかと思えば。
「 そうか、レイゾウコだ。」
謎の言葉を残して突然走り出す。
「アリン!どこへ行くのです!」
「あたしのぶんのごはんはおにいさまがたべてください!センセーのけんきゅうじょへいってきます!」
「アリン!!待つんだ、こら!」
お嬢は大窓へ飛び込みポーン!と飛び出してしまう。
奥様が悲鳴を上げたが、お嬢はしっかり風魔法で身を守っているしここ食堂は一階だ、怪我はしないだろう。
「旦那様、奥様、ちょっとすみません。」
「クックーマン、何をしているんです!アリンを呼び戻さないと!」
「いえ、ちょいと思うところがありまして…お嬢がああなったときって、大抵何かをひらめいた時です。赤豆の時を思い出してください。」
「えぇ? …あっ。」
「そうだ、アリンはあの時も…料理の味付けが塩味ばかりなことに駄々をこねてるだけだと思ったが、結局は香辛料の輸入なんかがいい方向へ転がっていった。なら、今のは…」
「ええ、暑さに対抗する、何かに気が付いたってところじゃないでしょうかね。」
ポカーンとしていたヘルン様とメルン様があわてて窓へ駆け寄る。
お嬢はそのまま風魔法で作った竜巻に乗って研究所へ向かっていってしまった。
センセーというのは、お嬢たちに魔法を教えてくれている、魔法の研究家のほうのことだろう。
お嬢がセンセーと呼んで慕っているのはそいつだけ。
家庭教師のほうは、あまり仲良しじゃないからな。
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