幸薄女神は狙われる

古亜

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取材当日、出社するだけで疲れた。
三島さんに言った通り、部長には相談したけど押し返された。まあ、そうなるとは思ってたけど。
結果的に、その日は散々な目に遭って終わった。
まず出勤途中から、使えそうな画は多い方がいいからとカメラを回された。
カメラが回り始めてすぐに工事現場の近くを通ったら横を通り過ぎた車に泥水を浴びせられ、足元がドロドロになった。
黒猫が目の前を横切って、頭上でカラスが鳴く。
飼い主がうっかりリードを離してしまった犬に飛びかかられ尻餅をつき、水筒を忘れたことに気付いて自販機でお茶を買ったら、なぜかお汁粉が出てきた。
その時点でカメラの担当から『俺ら何もしてないですからね?』と軽く引かれた。いっそ仕込みました!と言っていただけた方がマシなんですが。
そうしてようやく出勤すると、いきなりクレームの電話がかかってきて、1時間近くそれに捕まっていた。
それが終わった頃には取材に来たというアイドルと、カンペをチラ見しながら会話。
お昼休み、せっかくだからと張り切って作った弁当は朝コケたせいで台無しになっていた。
午後からは普段の三割増くらいの同僚に拝まれながらクレーム対応。開けっぱなしにしていた窓から入ってきたカメムシがなぜか自分の方に向かってきたので叫びながら退治。愛用のボールペンを落としたら踏まれて破損。パソコンのケーブルが抜け、入力した文章は電子の海にリリース。
いつもより酷いんですが、誰か何か仕掛けました?
あんまり酷いからスタッフさんに聞いてみたら。

「何も起きなかったら床にちょっと水撒いて滑るようにしたりとかイタズラ電話するつもりでしたけど……」

そうこっそり教えてくれたけど、床で滑って転んではいない。クレームの電話はあったけど本物のクレーマーだった。やるまでもなかった、ということらしい。
取材が終わる夕方には、スタッフの皆さんの私を見る目は同情を含んだ優しいものになっていた。
キラキラオーラのアイドルにまで「マジで運無いんすね」って本気のトーンで心配された。
それらの代償の結果か、頼まれて引いたゲームのガチャは、1回で全部揃ったとかなんとか感謝され、私を拝んで打ち合わせに挑んだ人からは、気難しいクライアントから一発OKが出たと喜ばれた。そして新規の注文も入った。

「さすが女神……」

誰かが思わずそう言って、その場にいた全員がほぼ同時に頷いた。
その「女神」っていうのやめてほしいんですが。
まあ、私の運の悪さが無駄にならなかったようでよかった。テレビ的にも撮れ高はあったはず。そう思うことにしよう。
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