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ヤクザさんのお弁当
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月曜日……あー、仕事行きたくない。
珍しく持ち帰り残業なしの2日間の休日だっただけに、余計に行きたくない。
布団から出たくない。何もしたくない。
「おい、仕事はいいのか」
頭から布団かぶってないない言ってたら、上から声が降ってきた。
「仕事です。行きたくないです」
「嬢ちゃんから仕事取ったら何が残るんだ」
「……抜け殻?」
「わかってんなら起きろよ」
う、ちょっとくらい否定してほしかった。事実ではあるけど。仕事やめた私は生産性のかけらも無いただのニートだ。
働かざる者食うべからずとも言うし、そろそろ動くか。
布団を気合いで跳ね除けて体を起こす。
もはや当たり前のように吉崎さんが部屋にいて、当たり前のようにエプロンを着用していた。
……また、柄が違う。今日はシンプルな紺のエプロンだ。
「着替えてろ。朝飯は作ってやるから」
「え、それは悪いのでてつだ……」
「俺一人の方が早い」
めちゃくちゃしみじみとそう言われた。
……仰る通りです。
この土日の記憶が蘇る。
野菜を切るのは吉崎さんの懇切丁寧なご指導の賜物により少々ましになった。でもまあ、私の料理のセンスが壊滅的だったというのは言うまでもなく。
曰く、私は余計なものを入れたがり、分量というものを知らないという。ちなみに中火の概念もわかってなかった。調節するツマミの真ん中という意味ではなかったらしい。
大人しく着替えて出勤準備をしておく。化粧をしていたら、お皿を持った吉崎さんが入ってきた。
なんだろうなーとわくわくしながらも、餌付けされている感が否めない。どうしよう。吉崎さんの作る美味しいごはんに慣れてきてしまっている。
当たり前じゃないって思わなきゃ……って、これはもしやホットサンド!?中の具材でふっくら膨れた、こんがり焼き目のついた食パン。
しかも、半分に切ってあって、断面を見れば中の具材が違う。
片方はキャベツと玉子を炒めたのが入ってて、もう一方はなんだろう……チーズとケチャップとキュウリ?キュウリってホットサンドにするイメージないけど。
まあいっか。吉崎さんの作るものに間違いはない!
「いただきます!」
先にキャベツの方を食べてみる。玉子の味としんなりしたキャベツがいい感じ。炒めたキャベツってこんなに美味しかったっけ。
「そのキャベツは一昨日嬢ちゃんが切ったやつだ」
え、これ冷凍したあのキャベツ……?
お礼というか、どうせ夕飯は作るからと言われ土日に作成した作り置きシリーズは一部吉崎さんの冷蔵庫に入れられた。
吉崎さんの冷蔵庫にお邪魔していた私の野菜たちを私が消費できる形にして引き取るための作り置きだったのだけど「どうせしばらく俺が夕飯を作る」とのことで、吉崎さんの作る夕飯の品数が作り置き分増えるだけらしい。
じゃあ最初からお野菜たちを吉崎さんに譲渡して今後の夕飯の食材にして貰えばよかったんじゃ……という考えが頭をよぎったけど、吉崎さんとしては私に料理を覚えさせることが目的だったので、言うのはやめた。
「ところで、こっちはキュウリとチーズですか?キュウリって加熱するんですね」
「……自分の買ってきた野菜くらい覚えとけ。ズッキーニだ」
「ズッキーニってキュウリの一種じゃないんですか」
「カボチャの仲間だよ」
え、カボチャ?どう見てもちょっと太いキュウリじゃないですか。
そう言ったら、吉崎さんが長いため息をついた。
小声で「やっぱりか」って言われたので、どうやら私がズッキーニというのをわかっていないというのを察していたらしい。
まあ、とりあえずこっちはカボチャとチーズとケチャップのホットサンドってことでいいのかな?確かにそれなら合いそう。
「……美味しいですこのカボチャ。想像してたカボチャの味じゃないですけど」
「そりゃそうだ。キュウリよりカボチャに近いつうだけで、ズッキーニはズッキーニだからな?」
じゃあズッキーニ味ですね。覚えました。
軽く火を通してあるのかちょっと焼き目のついた輪切りのズッキーニは、食べてみるとカボチャというよりはナスっぽい。中の部分が柔らかくてジューシーというのかな?
カボチャと思って食べたから驚いたけど、チーズとケチャップとこれまたよく合う。
単体だったら寂しいけど、だからこってりしたチーズの塩気とケチャップの酸味の邪魔をしないというか、チーズとケチャップだけより断然美味しい。さっぱりする。
「ああ、そうだ」
私が一切れ食べ終わる間に全部食べ終えたらしい吉崎さんは、空いたお皿を持って自分の部屋に戻っていく。
しばらくして戻ってきた吉崎さんの手にはデザートらしき梨の盛られた器と、なにかの入った袋があった。
「なんですか?それ」
「持ってけ。弁当だ」
「お、お弁当!?」
吉崎さんがくれるってことは、絶対手作りだ。冷凍食品とか使わなさそう。
私のお母さんでも、卵焼きとか以外は冷凍食品が入り混じってたのに。そしてそもそも、こういうお弁当自体、高校生以来だ。
「さすがにそこまでお世話になるのは……」
作って頂いて断るのも失礼だから今日は有難く頂くけど、夕ごはんと最近は朝ごはん、ついに昼までお世話になったら、いよいよ私はダメになる。
「どうせ昼はその辺で適当に買ってんだろ?じゃあ変わりねぇだろ」
「今日はお弁当代払います。でも、さすがに3食全部お世話になるのは申し訳ないですよ」
「好きでやってんだから気にすんな。金もいらねぇよ」
吉崎さんはそう言って梨を食べ始める。この話は終わりだと言うけれど、はいそうですねとは素直に言えなかった。
正直なところ、お弁当はとても嬉しい。お昼をわざわざ買いに行かなくていいし、なにより原材料費だけ考えてもとてもお安く済む。
差し出された袋を受け取って鞄に入れどうしたものかと考えつつ、中身はなんだろうと期待してしまっている辺り、確実に餌付けによる刷り込みが完了してる気がした。
珍しく持ち帰り残業なしの2日間の休日だっただけに、余計に行きたくない。
布団から出たくない。何もしたくない。
「おい、仕事はいいのか」
頭から布団かぶってないない言ってたら、上から声が降ってきた。
「仕事です。行きたくないです」
「嬢ちゃんから仕事取ったら何が残るんだ」
「……抜け殻?」
「わかってんなら起きろよ」
う、ちょっとくらい否定してほしかった。事実ではあるけど。仕事やめた私は生産性のかけらも無いただのニートだ。
働かざる者食うべからずとも言うし、そろそろ動くか。
布団を気合いで跳ね除けて体を起こす。
もはや当たり前のように吉崎さんが部屋にいて、当たり前のようにエプロンを着用していた。
……また、柄が違う。今日はシンプルな紺のエプロンだ。
「着替えてろ。朝飯は作ってやるから」
「え、それは悪いのでてつだ……」
「俺一人の方が早い」
めちゃくちゃしみじみとそう言われた。
……仰る通りです。
この土日の記憶が蘇る。
野菜を切るのは吉崎さんの懇切丁寧なご指導の賜物により少々ましになった。でもまあ、私の料理のセンスが壊滅的だったというのは言うまでもなく。
曰く、私は余計なものを入れたがり、分量というものを知らないという。ちなみに中火の概念もわかってなかった。調節するツマミの真ん中という意味ではなかったらしい。
大人しく着替えて出勤準備をしておく。化粧をしていたら、お皿を持った吉崎さんが入ってきた。
なんだろうなーとわくわくしながらも、餌付けされている感が否めない。どうしよう。吉崎さんの作る美味しいごはんに慣れてきてしまっている。
当たり前じゃないって思わなきゃ……って、これはもしやホットサンド!?中の具材でふっくら膨れた、こんがり焼き目のついた食パン。
しかも、半分に切ってあって、断面を見れば中の具材が違う。
片方はキャベツと玉子を炒めたのが入ってて、もう一方はなんだろう……チーズとケチャップとキュウリ?キュウリってホットサンドにするイメージないけど。
まあいっか。吉崎さんの作るものに間違いはない!
「いただきます!」
先にキャベツの方を食べてみる。玉子の味としんなりしたキャベツがいい感じ。炒めたキャベツってこんなに美味しかったっけ。
「そのキャベツは一昨日嬢ちゃんが切ったやつだ」
え、これ冷凍したあのキャベツ……?
お礼というか、どうせ夕飯は作るからと言われ土日に作成した作り置きシリーズは一部吉崎さんの冷蔵庫に入れられた。
吉崎さんの冷蔵庫にお邪魔していた私の野菜たちを私が消費できる形にして引き取るための作り置きだったのだけど「どうせしばらく俺が夕飯を作る」とのことで、吉崎さんの作る夕飯の品数が作り置き分増えるだけらしい。
じゃあ最初からお野菜たちを吉崎さんに譲渡して今後の夕飯の食材にして貰えばよかったんじゃ……という考えが頭をよぎったけど、吉崎さんとしては私に料理を覚えさせることが目的だったので、言うのはやめた。
「ところで、こっちはキュウリとチーズですか?キュウリって加熱するんですね」
「……自分の買ってきた野菜くらい覚えとけ。ズッキーニだ」
「ズッキーニってキュウリの一種じゃないんですか」
「カボチャの仲間だよ」
え、カボチャ?どう見てもちょっと太いキュウリじゃないですか。
そう言ったら、吉崎さんが長いため息をついた。
小声で「やっぱりか」って言われたので、どうやら私がズッキーニというのをわかっていないというのを察していたらしい。
まあ、とりあえずこっちはカボチャとチーズとケチャップのホットサンドってことでいいのかな?確かにそれなら合いそう。
「……美味しいですこのカボチャ。想像してたカボチャの味じゃないですけど」
「そりゃそうだ。キュウリよりカボチャに近いつうだけで、ズッキーニはズッキーニだからな?」
じゃあズッキーニ味ですね。覚えました。
軽く火を通してあるのかちょっと焼き目のついた輪切りのズッキーニは、食べてみるとカボチャというよりはナスっぽい。中の部分が柔らかくてジューシーというのかな?
カボチャと思って食べたから驚いたけど、チーズとケチャップとこれまたよく合う。
単体だったら寂しいけど、だからこってりしたチーズの塩気とケチャップの酸味の邪魔をしないというか、チーズとケチャップだけより断然美味しい。さっぱりする。
「ああ、そうだ」
私が一切れ食べ終わる間に全部食べ終えたらしい吉崎さんは、空いたお皿を持って自分の部屋に戻っていく。
しばらくして戻ってきた吉崎さんの手にはデザートらしき梨の盛られた器と、なにかの入った袋があった。
「なんですか?それ」
「持ってけ。弁当だ」
「お、お弁当!?」
吉崎さんがくれるってことは、絶対手作りだ。冷凍食品とか使わなさそう。
私のお母さんでも、卵焼きとか以外は冷凍食品が入り混じってたのに。そしてそもそも、こういうお弁当自体、高校生以来だ。
「さすがにそこまでお世話になるのは……」
作って頂いて断るのも失礼だから今日は有難く頂くけど、夕ごはんと最近は朝ごはん、ついに昼までお世話になったら、いよいよ私はダメになる。
「どうせ昼はその辺で適当に買ってんだろ?じゃあ変わりねぇだろ」
「今日はお弁当代払います。でも、さすがに3食全部お世話になるのは申し訳ないですよ」
「好きでやってんだから気にすんな。金もいらねぇよ」
吉崎さんはそう言って梨を食べ始める。この話は終わりだと言うけれど、はいそうですねとは素直に言えなかった。
正直なところ、お弁当はとても嬉しい。お昼をわざわざ買いに行かなくていいし、なにより原材料費だけ考えてもとてもお安く済む。
差し出された袋を受け取って鞄に入れどうしたものかと考えつつ、中身はなんだろうと期待してしまっている辺り、確実に餌付けによる刷り込みが完了してる気がした。
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