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ホワイトな日と黒いあれ
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なんで、どうして今ここにあいつが……
私は脱衣所に壁に背中を預けるようにしてできるだけ距離をとる。
肺が押さえこまれてるみたいに息がうまく吸い込めない。
今日一日が妙にいい日だったのは、こいつという最大の不幸があったからなのかもしれない。
「吉崎さん……」
脱ぎかけの服を掴む手に力が入る。
私1人じゃどうにもならない。
ーーーーーーーーーー
月曜日、出社した私の部署の前で待ち構えていたかのように桐谷部長が立っていた。
う……嫌だなこんなみんなの前で怒られるの。
金曜日のあの接待の後、当然のように部長からお怒りのメールが送られてきた。
次の日に出社して当たり障りのないお詫びのメールは送ったけど、きっちり土日休みだという先方からの返信はなく、この土日の仕事中はメールに怯えていた。
「佐伯くん。ちょっといいかい」
そう声をかけられて思わず肩が跳ねる。
部長のお怒りメールに対して返信はしたけど、その後もなんだか理不尽なメールが届いてた。あの内容をこんなところでもう一回言われるのかと思うと、この場に穴を掘って逃げたくなる。
「えっと……廊下で……」
どうせならこんな人目につくオフィスのど真ん中じゃなくて廊下がいい。既に注目を浴びてるから。
「いや、ここでいいよ。うん、みんなに知っておいてもらいたいからね」
見せしめだ。吊し上げて見せしめにするつもりだ……
体の横で握っていた手に力が入る。爪が食い込んで痛い。切ってこればよかった。
「君のおかげであのあと大口の注文が入ったんだ」
「……へ?」
想像とあまりにも真逆な事態に素っ頓狂な声が出た。
大口の注文?私のおかげ?
だって私、接待相手の竹山さんから逃げたんだよ?それもけっこうな勢いで。
「どうやら君の説明がよかったようだね。支社でも使いたいからと来年度分の注文にさらに追加が来た」
えーっと、意味がわからないのですが。
説明?接待はしましたが商品の説明とか一切してませんよ?部長もそんなことしてなかったし、そもそもどうして私の手柄みたいに?
「でも……」
理解が追い付かず口を開こうとしたら、部長が目で喋るな話を合わせろと訴えかけてきた。
「とにかくそういうことだから、竹山さんも喜んでいたよ。じゃあこの話はこれくらいだ」
そう言って部長は隣の部署へと戻っていった。
うん、さっぱりわからない。けどとりあえずお咎めはなしってことでいいのかな。
お咎めがなくなっても仕事はたくさんある。
そうして仕事を開始して、接待の事もすっかり頭から抜けたお昼時。
「あ、今日からまたお弁当なんだ」
みんなパンやおにぎり、栄養補給のゼリー片手に年末の仕事と闘っていた。かく言う私もその1人で、お弁当を広げてはいるけどお箸なんて持ってはいられない。
持っているのは爪楊枝だ。
たまたま後ろを通りかかった佐々木さんが私のお弁当を見下ろしながらいつもの微笑みを……いや、ちょっと疲れた感じが見える気がする。
「そういう風なお弁当なら作業しながらでも食べられていいね」
「はい。とても食べやすいです!」
吉崎さんが作ってくれたお弁当は、全部入っていた爪楊枝だけで食べられるようになっていた。
焼いたチーズがかかったブロッコリーにプチトマト、にんじんの煮たやつ、豆腐の入ったふわふわのつくね、ひと口サイズのおにぎり……どれも簡単に爪楊枝で刺せてひと口で食べられる。
特におにぎりなんてきっちり海苔で巻いてあって刺しても崩れない。しかも味が判るように上にちょっとだけ中の具材が乗っていた。
デザートの梨も食べやすい大きさになっていて、柿は種が抜いてある。
「僕も今は簡単にパンとかだからね。そろそろ何か作りたいんだけど」
有以子の話によると佐々木さんは作った料理をSNSに載せたりしているらしい。私はそういうのに触れていないからよくわからないけど、結構人気だとか。
「邪魔してごめんね。じゃあ」
そう言って佐々木さんは通り過ぎていった。
直後、お姉様方の視線が気になったけどそれは一瞬だった。みんな忙しいからね。私も正直気にしてる場合じゃない。
そんなこんなで、お昼からも仕事に集中できた。量は多いけど、年末だもの。
そうして仕事をしていたら、途中気になる話を聞いた。
山田商事の竹山さん、急な人事移動で才葉手村の支部に転勤になったらしい。
仕事少なく定時で帰れるそう……へぇ。いいなぁ。
なんて、羨ましがってないで仕事仕事。
経費まとめて資料作って、注文書の内容を帳簿に移して在庫数の確認……っと。窓の外はすっかり茜色だ。こんな中帰宅できたら気持ちいいだろうなー。
「佐伯さん、ちょっといいかな」
突然呼びかけられて振り向くと、先輩の辻さんが書類片手に立っていた。
「ここに納品した商品なんだけど、不備があったみたいで交換とお詫び行ってくれる?佐伯さんのこれは俺がやっとくから、終わったら直帰していい」
辻さんにはどうやら手の離せない仕事が別にあるらしい。
書類によると不良品を送ってしまったのは私のアパートの最寄駅にほど近い工場の事務所のようだ。ここに良品を持っていって謝って、そのまま帰宅できる……?確かこの工場は私の中のクレーマーリストには入ってない。
工場の稼働時間もあるだろうし、今から準備して行かないと間に合わない。直帰だから持って帰る仕事はUSBに移さないと。そういう意味の残業はあるけど、もしかしなくても、今日の帰宅時間めちゃくちゃ早いんじゃ……
せっかくだからスーパーで売ってるカットフルーツとか買って帰ろうかな。
そんな早く帰ったら吉崎さん驚くかな。たまには手伝いもできるかも?
デスクの上の片付けをしながら思わず鼻歌を歌いたくなった。
私は脱衣所に壁に背中を預けるようにしてできるだけ距離をとる。
肺が押さえこまれてるみたいに息がうまく吸い込めない。
今日一日が妙にいい日だったのは、こいつという最大の不幸があったからなのかもしれない。
「吉崎さん……」
脱ぎかけの服を掴む手に力が入る。
私1人じゃどうにもならない。
ーーーーーーーーーー
月曜日、出社した私の部署の前で待ち構えていたかのように桐谷部長が立っていた。
う……嫌だなこんなみんなの前で怒られるの。
金曜日のあの接待の後、当然のように部長からお怒りのメールが送られてきた。
次の日に出社して当たり障りのないお詫びのメールは送ったけど、きっちり土日休みだという先方からの返信はなく、この土日の仕事中はメールに怯えていた。
「佐伯くん。ちょっといいかい」
そう声をかけられて思わず肩が跳ねる。
部長のお怒りメールに対して返信はしたけど、その後もなんだか理不尽なメールが届いてた。あの内容をこんなところでもう一回言われるのかと思うと、この場に穴を掘って逃げたくなる。
「えっと……廊下で……」
どうせならこんな人目につくオフィスのど真ん中じゃなくて廊下がいい。既に注目を浴びてるから。
「いや、ここでいいよ。うん、みんなに知っておいてもらいたいからね」
見せしめだ。吊し上げて見せしめにするつもりだ……
体の横で握っていた手に力が入る。爪が食い込んで痛い。切ってこればよかった。
「君のおかげであのあと大口の注文が入ったんだ」
「……へ?」
想像とあまりにも真逆な事態に素っ頓狂な声が出た。
大口の注文?私のおかげ?
だって私、接待相手の竹山さんから逃げたんだよ?それもけっこうな勢いで。
「どうやら君の説明がよかったようだね。支社でも使いたいからと来年度分の注文にさらに追加が来た」
えーっと、意味がわからないのですが。
説明?接待はしましたが商品の説明とか一切してませんよ?部長もそんなことしてなかったし、そもそもどうして私の手柄みたいに?
「でも……」
理解が追い付かず口を開こうとしたら、部長が目で喋るな話を合わせろと訴えかけてきた。
「とにかくそういうことだから、竹山さんも喜んでいたよ。じゃあこの話はこれくらいだ」
そう言って部長は隣の部署へと戻っていった。
うん、さっぱりわからない。けどとりあえずお咎めはなしってことでいいのかな。
お咎めがなくなっても仕事はたくさんある。
そうして仕事を開始して、接待の事もすっかり頭から抜けたお昼時。
「あ、今日からまたお弁当なんだ」
みんなパンやおにぎり、栄養補給のゼリー片手に年末の仕事と闘っていた。かく言う私もその1人で、お弁当を広げてはいるけどお箸なんて持ってはいられない。
持っているのは爪楊枝だ。
たまたま後ろを通りかかった佐々木さんが私のお弁当を見下ろしながらいつもの微笑みを……いや、ちょっと疲れた感じが見える気がする。
「そういう風なお弁当なら作業しながらでも食べられていいね」
「はい。とても食べやすいです!」
吉崎さんが作ってくれたお弁当は、全部入っていた爪楊枝だけで食べられるようになっていた。
焼いたチーズがかかったブロッコリーにプチトマト、にんじんの煮たやつ、豆腐の入ったふわふわのつくね、ひと口サイズのおにぎり……どれも簡単に爪楊枝で刺せてひと口で食べられる。
特におにぎりなんてきっちり海苔で巻いてあって刺しても崩れない。しかも味が判るように上にちょっとだけ中の具材が乗っていた。
デザートの梨も食べやすい大きさになっていて、柿は種が抜いてある。
「僕も今は簡単にパンとかだからね。そろそろ何か作りたいんだけど」
有以子の話によると佐々木さんは作った料理をSNSに載せたりしているらしい。私はそういうのに触れていないからよくわからないけど、結構人気だとか。
「邪魔してごめんね。じゃあ」
そう言って佐々木さんは通り過ぎていった。
直後、お姉様方の視線が気になったけどそれは一瞬だった。みんな忙しいからね。私も正直気にしてる場合じゃない。
そんなこんなで、お昼からも仕事に集中できた。量は多いけど、年末だもの。
そうして仕事をしていたら、途中気になる話を聞いた。
山田商事の竹山さん、急な人事移動で才葉手村の支部に転勤になったらしい。
仕事少なく定時で帰れるそう……へぇ。いいなぁ。
なんて、羨ましがってないで仕事仕事。
経費まとめて資料作って、注文書の内容を帳簿に移して在庫数の確認……っと。窓の外はすっかり茜色だ。こんな中帰宅できたら気持ちいいだろうなー。
「佐伯さん、ちょっといいかな」
突然呼びかけられて振り向くと、先輩の辻さんが書類片手に立っていた。
「ここに納品した商品なんだけど、不備があったみたいで交換とお詫び行ってくれる?佐伯さんのこれは俺がやっとくから、終わったら直帰していい」
辻さんにはどうやら手の離せない仕事が別にあるらしい。
書類によると不良品を送ってしまったのは私のアパートの最寄駅にほど近い工場の事務所のようだ。ここに良品を持っていって謝って、そのまま帰宅できる……?確かこの工場は私の中のクレーマーリストには入ってない。
工場の稼働時間もあるだろうし、今から準備して行かないと間に合わない。直帰だから持って帰る仕事はUSBに移さないと。そういう意味の残業はあるけど、もしかしなくても、今日の帰宅時間めちゃくちゃ早いんじゃ……
せっかくだからスーパーで売ってるカットフルーツとか買って帰ろうかな。
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デスクの上の片付けをしながら思わず鼻歌を歌いたくなった。
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