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吉崎さんサイド(回想)
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「吉崎の作るメシはいつでも美味いな。ただの白い粥だってのに」
そう言って豪快に笑うのは遠野の親父……先代の組長だ。
かつては鬼と恐れられた男も病気には敵わなかったのか、最低限の用事がある時以外はこうして自宅で床に伏していることが増えた。
医者からはもう長くはないと言われている。
暇をや用事を見つけては見舞いに行っていたが、医者でもない俺にできることといえば、せいぜい病人でも食べられるものを作ることくらいだった。
「お前のところにいく嫁はいいな。何もしなくても美味いメシが出てくる」
「俺みたいな男は独りの方が気楽ですよ。料理も、親父の口に合えばいいんです」
「俺のためか。お前のその腕なら足洗って板前にでも料理屋の大将にでもなれるってのに、勿体ねぇなぁ」
「カタギは俺には似合いません。親父に助けられた命だ、親父のために使いますよ」
「俺ぁもう長くねぇ。ヤクザの商売もこのご時世じゃ元々黒いがお先真っ暗だろ。とっとと足洗って、自分のためにその腕を使え。店構えたら俺が常連第一号になってやるよ」
その時はなぜ親父がそんなことを言ったのかわからなかった。確かに俺は遠野組の若頭になっちゃいるが、ずっと前から組にいる叔父貴たちに比べれば経験も浅く信用のおける部下も少ない。
だが、そんなことは理解している。その上で親父が育ててきたこの組を俺が守ると決めていた。
「お前の人生だ。俺なんかのために使わず好きにしろ」
親父はそう言って匙を置いた。
「お前が俺んとこにいてくれてよかったよ」
それきり親父は俺に組を抜けるようには言わなくなり、程なくして心臓発作を起こしこの世を去った。
そういや嬢ちゃんにも、嫁は幸せだとかヤクザなんてやめて料理人にでもなればいいなんて言われたな。
親父と嬢ちゃんは似てもいなけりゃ接点もねぇのに、同じようなことを言うんだな。思わぬ共通点に思わず笑ってしまった。
同じと言えば、俺が飯を作りたいと思ったのもそうだ。
不安もあったんだろう。日に日に痩せていく親父と、不摂生で骨と皮みたいだった嬢ちゃん。俺ができるのは飯を作ることくらいだった。
親父は結局死んでしまったが、嬢ちゃんは少しずつ不健康さが抜けていっているのを感じていた。まあ嬢ちゃんは太ったと気にしていたが、俺としては不安だからもう少し脂肪をつけてほしいと思う。
……俺はきっと心のどこかで親父と嬢ちゃんを重ねていたんだろうな。
親父が死んでからは自分で作った飯もさほど美味いと感じられなくなっていたが、嬢ちゃんと出会ってからは嬢ちゃんが美味いと言ってくれる。それで俺も飯が美味いんだとわかるようになった。
『お前が俺んとこにいてくれてよかったよ』
『吉崎さんがお隣さんでよかった』
親父と嬢ちゃんは全く似ていないが、2人ともに俺は助けられた。
親父にしてやれなかった分と俺個人がそうしたい分、それを足し合わせた以上のことを嬢ちゃんにはしてやりたい。
「ただいまー!」
そんなことを考えていたら、本人が帰ってきた。
部屋に入ってくるなり待ち切れなさそうに俺の手元を覗き込み、今日の夕飯の内容を尋ねてくる。
唐揚げと聞いて大喜びした嬢ちゃんは嬉しそうに卓の上に取り皿や箸、グラスを並べ始める。
それらは少し前に一緒に買いに行ったものだった。
ーーーーーーーーーー
あとがき
これにて本編終わりです。
恋人関係とか色々とすっ飛ばして最初からもはや親子、半分同棲してるような2人なので日常としてはさほど今後も変わらないのかなと思います。
また話が浮かびましたら追加しに戻ってくると思います。ですが今はちょっと忙しいのとあれ書きたいこれ書きたいが飽和してるので……精進しますすみません。
前に書いてた話の息抜きに書いていた話だったので間開いたりとありましたが、なんとか完結させられてよかったです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
夕食の献立の参考になれば幸いです。
そう言って豪快に笑うのは遠野の親父……先代の組長だ。
かつては鬼と恐れられた男も病気には敵わなかったのか、最低限の用事がある時以外はこうして自宅で床に伏していることが増えた。
医者からはもう長くはないと言われている。
暇をや用事を見つけては見舞いに行っていたが、医者でもない俺にできることといえば、せいぜい病人でも食べられるものを作ることくらいだった。
「お前のところにいく嫁はいいな。何もしなくても美味いメシが出てくる」
「俺みたいな男は独りの方が気楽ですよ。料理も、親父の口に合えばいいんです」
「俺のためか。お前のその腕なら足洗って板前にでも料理屋の大将にでもなれるってのに、勿体ねぇなぁ」
「カタギは俺には似合いません。親父に助けられた命だ、親父のために使いますよ」
「俺ぁもう長くねぇ。ヤクザの商売もこのご時世じゃ元々黒いがお先真っ暗だろ。とっとと足洗って、自分のためにその腕を使え。店構えたら俺が常連第一号になってやるよ」
その時はなぜ親父がそんなことを言ったのかわからなかった。確かに俺は遠野組の若頭になっちゃいるが、ずっと前から組にいる叔父貴たちに比べれば経験も浅く信用のおける部下も少ない。
だが、そんなことは理解している。その上で親父が育ててきたこの組を俺が守ると決めていた。
「お前の人生だ。俺なんかのために使わず好きにしろ」
親父はそう言って匙を置いた。
「お前が俺んとこにいてくれてよかったよ」
それきり親父は俺に組を抜けるようには言わなくなり、程なくして心臓発作を起こしこの世を去った。
そういや嬢ちゃんにも、嫁は幸せだとかヤクザなんてやめて料理人にでもなればいいなんて言われたな。
親父と嬢ちゃんは似てもいなけりゃ接点もねぇのに、同じようなことを言うんだな。思わぬ共通点に思わず笑ってしまった。
同じと言えば、俺が飯を作りたいと思ったのもそうだ。
不安もあったんだろう。日に日に痩せていく親父と、不摂生で骨と皮みたいだった嬢ちゃん。俺ができるのは飯を作ることくらいだった。
親父は結局死んでしまったが、嬢ちゃんは少しずつ不健康さが抜けていっているのを感じていた。まあ嬢ちゃんは太ったと気にしていたが、俺としては不安だからもう少し脂肪をつけてほしいと思う。
……俺はきっと心のどこかで親父と嬢ちゃんを重ねていたんだろうな。
親父が死んでからは自分で作った飯もさほど美味いと感じられなくなっていたが、嬢ちゃんと出会ってからは嬢ちゃんが美味いと言ってくれる。それで俺も飯が美味いんだとわかるようになった。
『お前が俺んとこにいてくれてよかったよ』
『吉崎さんがお隣さんでよかった』
親父と嬢ちゃんは全く似ていないが、2人ともに俺は助けられた。
親父にしてやれなかった分と俺個人がそうしたい分、それを足し合わせた以上のことを嬢ちゃんにはしてやりたい。
「ただいまー!」
そんなことを考えていたら、本人が帰ってきた。
部屋に入ってくるなり待ち切れなさそうに俺の手元を覗き込み、今日の夕飯の内容を尋ねてくる。
唐揚げと聞いて大喜びした嬢ちゃんは嬉しそうに卓の上に取り皿や箸、グラスを並べ始める。
それらは少し前に一緒に買いに行ったものだった。
ーーーーーーーーーー
あとがき
これにて本編終わりです。
恋人関係とか色々とすっ飛ばして最初からもはや親子、半分同棲してるような2人なので日常としてはさほど今後も変わらないのかなと思います。
また話が浮かびましたら追加しに戻ってくると思います。ですが今はちょっと忙しいのとあれ書きたいこれ書きたいが飽和してるので……精進しますすみません。
前に書いてた話の息抜きに書いていた話だったので間開いたりとありましたが、なんとか完結させられてよかったです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
夕食の献立の参考になれば幸いです。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(120件)
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嫁にきてほしい(。・ω・。)
一気に読んでしまうほど面白かったです。主人公の梓ちゃんがなんとも可愛くて、吉崎さんサイドの話も凄く楽しめました。
その後のエピソードも是非リクエストさせて頂きたいです!
温かい気持ちにさせて頂いたお話ありがとうございました。
すごく素敵なお話に出会えて、ありがとうございました。1ページごとに心が温まって、時にドキドキしながら読みました!吉崎sideのお話、最高です♥️梓ちゃんの天然ぶりもめちゃくちゃ可愛い❤️続編できたら、ぜひ、読みたいです🎵楽しみにお待ちしています。
返事が遅くなり申し訳ありません。
お読みいただきさらに感想までありがとうございます!
この頃は忙しくあまり更新等できていないのでご期待に添えるかは不安ではありますが頑張ります。