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2章
2.ヤクザさんの朝は早い2
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あー、体が重い。
大学が朝からじゃなくてよかった。昌治さん容赦ない……
私が意識を手放したとき、外が若干明るくなってきてたのに、起きたら昌治さんはとっくにいなくなってた。性別違うとはいえ、私の方が一応若いはずなのに、この体力の差にはびっくりだ。元気すぎない?昌治さん。
そんなことを思いながら、私はもはや昼食な朝食をいただいていた。
このお屋敷に住むようになってから、朝夕はちゃんとした食事が出てくる。しかもちゃんと作りたて。栄養バランスの考えられた和食膳が出される。
なんなら大学のお弁当もどうかと言われたけど、さすがにお断りした。ここに来てから堕落してばかりな気がする。これまで歩いて通ってたのに、行きも帰りも車で送迎だし、バイトもしていないし、掃除洗濯も最低限の自分の分しかしていない。
アパート引き払う手続きも、全部組の皆さんがやってくださったとのこと。私がしたことといえば、服とか化粧品とか教科書の回収だけ。
……あまりになにもしていなさすぎて不安になってきた。
「大原さん」
「なんでしょう」
「私、なんのためにここにいるんでしょうか」
ご飯を食べる傍でなにやらパソコンをいじっていた大原さんは、ピタリとその手を止めた。
そしてとってもゆっくり顔を上げて、私を凝視する。
「今の、絶対に若頭の前で言わないでくださいね」
「いやだって、私守られてばかりじゃないですか。ただの食べて寝てるだけの居候じゃないですか」
昌治さんだって毎日このお屋敷にいるわけじゃない。不在の時の方が多いくらいだ。
基本的に私は私の部屋だという旅館の一室っぽい部屋で寝て起きて課題やって、スマホ見ながらごろごろしているだけ。
あまりにもすることがなくて、掃除の手伝いをしようとしたらガタイのいいお兄さんに震えながら断られた。
「誰も楓様のことただの居候だなんて思っちゃいませんよ。若頭のオンナとして、堂々としていてくださればそれでいいんです」
「オ、オンナ……で、でも、昌治さんたまにしか戻ってきませんし、組の皆さんの手間を増やしてるだけな気がして……」
「確かにやることはちょいと増えましたが、楓様が来てから若頭が上機嫌、岩峰組の士気は上がって勢い付いています。むしろ釣りがくるくらいですよ」
大原さんはそこで大きなため息をついた。
「なんなら近々、組長が祝いの赤飯を手ずから炊いて持ってくるなんて話も持ち上がっていますが」
え……組長って、岩峰組の一番偉い人っ!?そして昌治さんのお父様ですよね!
「気が早くないですか!?私まだ、その、け、結婚とか、承諾してないですからねっ!」
「この期に及んでなにおっしゃってるんですか。いい加減腹を括ってください。言っときますが、逃げようとしても無駄ですからね。その場合、もれなく俺やその他組員が犠牲になりますよ」
脅しのパターン変えてきた!そして昌治さんならそれもやりかねないから、強くノーと言えない!
「いいじゃないですか。どこからどう見ても両想い。ウチの若頭の相手をするだけの簡単なお仕事ですよ。しかも終身雇用」
「りょ……そ、それでもいつか飽きられてポイとか……」
「万が一にでもあり得ませんが、もしも仮にそうなったら、その際は楓様が食べていくのに困らない程度にはきっちり支援をします。まあ、あり得ませんけど」
というわけで諦めてください、という目で大原さんは私を見る。どこからそんな私が捨てられないという自信が湧いてくるのだろうか。
「それに楓様がそこまで気負うことはありませんよ。組のことは正直、若頭だけで数十人分くらい活躍してますから。強いて言えば、跡取りが産まれれば文句なしですね」
子は鎹と言うじゃないですか……って、それを本来の意味で言われたの始めてです!
ま、まあ今は、確かに配慮してもらってますけど……うう、何の話ですかこれ。
「失礼しました。とにかく、楓様は普通に……ああ、危機意識だけは持っていてくださいね」
なんとも微妙な雰囲気になったのを察した大原さんはそう言ってもとの作業に戻った。
普通に過ごせと言われましても、この状況がそもそも普通じゃないと思うのですが……
このお屋敷での生活に慣れつつある自分も怖い。強面ばかりのお屋敷の人と気付けば普通に会話できてるし、アパートのあの狭いお風呂と部屋を恋しく思ったりしてる。
食後に出された焙じ茶を飲みながら、私はほうと息をはく。
「……そういえば大原さん、結局あんな時間に何してたんですか?」
「あれですか、調査ですよ」
「調査?」
「条野組、一条会です」
「条野、組……」
私の中で、黒くドロッとしたなにかが蠢く。
首筋が疼いて、私は思わず手を当てた。
「若頭から、なにも聞いていないんですか」
「……何度か尋ねはしたんですけど」
「それなら俺の口からはなにも言えません。ですが今、連中は不気味なくらい静かです。絶対に、一人にはならないでください」
大原さんの真剣な眼差しに、私は黙って頷いた。
大学が朝からじゃなくてよかった。昌治さん容赦ない……
私が意識を手放したとき、外が若干明るくなってきてたのに、起きたら昌治さんはとっくにいなくなってた。性別違うとはいえ、私の方が一応若いはずなのに、この体力の差にはびっくりだ。元気すぎない?昌治さん。
そんなことを思いながら、私はもはや昼食な朝食をいただいていた。
このお屋敷に住むようになってから、朝夕はちゃんとした食事が出てくる。しかもちゃんと作りたて。栄養バランスの考えられた和食膳が出される。
なんなら大学のお弁当もどうかと言われたけど、さすがにお断りした。ここに来てから堕落してばかりな気がする。これまで歩いて通ってたのに、行きも帰りも車で送迎だし、バイトもしていないし、掃除洗濯も最低限の自分の分しかしていない。
アパート引き払う手続きも、全部組の皆さんがやってくださったとのこと。私がしたことといえば、服とか化粧品とか教科書の回収だけ。
……あまりになにもしていなさすぎて不安になってきた。
「大原さん」
「なんでしょう」
「私、なんのためにここにいるんでしょうか」
ご飯を食べる傍でなにやらパソコンをいじっていた大原さんは、ピタリとその手を止めた。
そしてとってもゆっくり顔を上げて、私を凝視する。
「今の、絶対に若頭の前で言わないでくださいね」
「いやだって、私守られてばかりじゃないですか。ただの食べて寝てるだけの居候じゃないですか」
昌治さんだって毎日このお屋敷にいるわけじゃない。不在の時の方が多いくらいだ。
基本的に私は私の部屋だという旅館の一室っぽい部屋で寝て起きて課題やって、スマホ見ながらごろごろしているだけ。
あまりにもすることがなくて、掃除の手伝いをしようとしたらガタイのいいお兄さんに震えながら断られた。
「誰も楓様のことただの居候だなんて思っちゃいませんよ。若頭のオンナとして、堂々としていてくださればそれでいいんです」
「オ、オンナ……で、でも、昌治さんたまにしか戻ってきませんし、組の皆さんの手間を増やしてるだけな気がして……」
「確かにやることはちょいと増えましたが、楓様が来てから若頭が上機嫌、岩峰組の士気は上がって勢い付いています。むしろ釣りがくるくらいですよ」
大原さんはそこで大きなため息をついた。
「なんなら近々、組長が祝いの赤飯を手ずから炊いて持ってくるなんて話も持ち上がっていますが」
え……組長って、岩峰組の一番偉い人っ!?そして昌治さんのお父様ですよね!
「気が早くないですか!?私まだ、その、け、結婚とか、承諾してないですからねっ!」
「この期に及んでなにおっしゃってるんですか。いい加減腹を括ってください。言っときますが、逃げようとしても無駄ですからね。その場合、もれなく俺やその他組員が犠牲になりますよ」
脅しのパターン変えてきた!そして昌治さんならそれもやりかねないから、強くノーと言えない!
「いいじゃないですか。どこからどう見ても両想い。ウチの若頭の相手をするだけの簡単なお仕事ですよ。しかも終身雇用」
「りょ……そ、それでもいつか飽きられてポイとか……」
「万が一にでもあり得ませんが、もしも仮にそうなったら、その際は楓様が食べていくのに困らない程度にはきっちり支援をします。まあ、あり得ませんけど」
というわけで諦めてください、という目で大原さんは私を見る。どこからそんな私が捨てられないという自信が湧いてくるのだろうか。
「それに楓様がそこまで気負うことはありませんよ。組のことは正直、若頭だけで数十人分くらい活躍してますから。強いて言えば、跡取りが産まれれば文句なしですね」
子は鎹と言うじゃないですか……って、それを本来の意味で言われたの始めてです!
ま、まあ今は、確かに配慮してもらってますけど……うう、何の話ですかこれ。
「失礼しました。とにかく、楓様は普通に……ああ、危機意識だけは持っていてくださいね」
なんとも微妙な雰囲気になったのを察した大原さんはそう言ってもとの作業に戻った。
普通に過ごせと言われましても、この状況がそもそも普通じゃないと思うのですが……
このお屋敷での生活に慣れつつある自分も怖い。強面ばかりのお屋敷の人と気付けば普通に会話できてるし、アパートのあの狭いお風呂と部屋を恋しく思ったりしてる。
食後に出された焙じ茶を飲みながら、私はほうと息をはく。
「……そういえば大原さん、結局あんな時間に何してたんですか?」
「あれですか、調査ですよ」
「調査?」
「条野組、一条会です」
「条野、組……」
私の中で、黒くドロッとしたなにかが蠢く。
首筋が疼いて、私は思わず手を当てた。
「若頭から、なにも聞いていないんですか」
「……何度か尋ねはしたんですけど」
「それなら俺の口からはなにも言えません。ですが今、連中は不気味なくらい静かです。絶対に、一人にはならないでください」
大原さんの真剣な眼差しに、私は黙って頷いた。
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