お客様はヤのつくご職業

古亜

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2章

9.一瞬の訪問者

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先々の展開からなんとなく察してかつそれでもよし!という方のみお進みください。
話の展開的に、まあこうなるわな。と。
1章終わりにお伝えしました通り、シリアスです。ヤンデレのターンが続いてます。その入り口です。

最初はこの展開は誰得だ?やめとこかな、と思いましたが、そうすると私の中で、あの方出した意味は……となるので。

2章は完結まであと20話くらいかかる予定です。

その間の避難場所は、1章と別作品のOLとヤクザさんがごはん食べてる話、もしくは他の作者様方の作品です。

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全身の疲労と痛みで私が目覚めたのは、見知らぬ天井の下だった。
剥き出しの上半身には虫刺されのように赤く色付いた無数の歯の痕が残っている。
昨晩の行為の印を、私は妙に冷めた目で見下ろしていた。

「ははっ……」

一条会の屋敷に連れ込まれるやいなや、私は春斗さんに体を暴かれた。
ろくな抵抗もできず、春斗さんにされるがままに私は何度も貫かれて、犯されたのだ。
どんな顔をして、私は昌治さんに会えばいいんだろう。
ああ、そもそももう会うことなんてないできないのかもしれない。昌治さんもきっと、私が春斗さんに身体を許したのはわかってるに違いない。会いたくもないんじゃないかな。

「美香、大丈夫かな……」

それだけが気がかりだった。春斗さんは、私が大人しくしていたら何もしないと言ってくれた。
こんなことになった以上、美香とはもう友達でいられないけど、迷惑だけはかけたくない。美香は無関係なんだから。
美香を解放してくれるなら、なんだってするつもりだ。今更失うものはない。
とりあえず顔を洗おうと思って向かった洗面台の横に、シャワールームがあるのに気付いた。棚の中には丁寧に折り畳まれたタオルとバスローブがある。

私はひたすら無心で体に付いた行為の跡を洗い流した。そしてろくに体も拭かずに棚に置かれていたバスローブに袖を通す。
そのままソファーに倒れ込んで、私は呆然と白い天井を見上げていた。

「昌治さん……」

痛いとか苦しいとか、そんなのは感じない。ただもうこのまま昌治さんに会えないということがたまらなく寂しくて辛かった。
あれだけ大事にされてきたのに、一晩でそれは脆く崩れ去って。
大声を上げて泣き喚きたかった。こんなぐちゃぐちゃなのに、涸れ果てたように一滴も涙が出てこない。
昨晩、絶対に泣くものかと意地を張った結果だろうか。泣いて流れ出させてしまえば少しは楽になれるかな、なんて忘れようとしたことはいけないことなのかな。
手をだらりとソファーから垂らして、私はゆっくり目を閉じる。
これは悪い夢で、もしかして目覚めたら岩峰組のお屋敷にいるんじゃないか。そんな儚く淡い期待は、ドアの開く音と共にシャボン玉みたいに弾けて消えた。

「起きたんか。楓」

昨日はその声を聞くたびに恐怖で震えたのに、今は不思議となんとも思わなかった。私はこの人に抱かれたんだなという事実だけが漠然と頭に浮かぶ。
春斗さんの足音が私が横たわっているソファーに近付いてきた。
ゆっくり目を開けると、春斗さんの無邪気な瞳と目が合った。

「シャワー浴びたんか?髪の毛びしょ濡れやん」

そう言って春斗さんはどこからか乾いたタオルを持ってきて、髪の毛一本一本を拭くみたいに丁寧に私の髪を優しく撫でた。
一通り拭き終えて満足したのか、春斗さんはソファーの縁にもたれかかるようにしていた私の頭を持ち上げて、空いた場所に腰掛ける。

「今日は休んどり。いるもんあったら何でも言うんやで?」

昨晩あれほど手酷く犯しておきながら、私の肩を抱くその仕草はどこまでも優しい。
耳元にかかる吐息も、きらきら輝く瞳も、その微笑みも、私に向けられる春斗さんの全てが、慈しみに満ちていた。
この人に全てを委ねてしまうことが、今は一番いい選択なのかもしれない。
ここであなたを選ぶと言ってしまえばいい。その一言で、この人は全てを赦してくれるんだろう。きっと昌治さんと同じくらい、もしかするとそれ以上に私を愛してくれる。
……でも、それじゃだめだ。私はこの人のことを愛することができないから。
ヤクザだと知る前までの春斗さんのことは嫌いじゃなかった。むしろ好きだったんだろう。でもそれは恋心とかじゃなくて、単にその気持ちに甘えていただけ。
心の中に他の人がいた私に、そんな資格なかったのに。

「ごめん、なさい……」
「何を、謝っとるん?」

春斗さんは心底不思議そうに問い返す。
そう、これは私が勝手に抱いている罪悪感。誰に、ということもない謝罪だった。

「俺はお前が俺の腕ん中におるってだけで十分や」

そう言って春斗さんは私の頬に口付ける。
触れるか触れないかのそれに、私は一体何が正解なのかわからなくなった。
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