78 / 132
2章
44.ヤクザさんの覚悟2
しおりを挟む
その日の夜に、昌治さんがふらりと部屋にやってきた。
疲れた様子で、他に痛むところはないか、と尋ねてくれる。痛み止めが効いているのかさして傷は痛くないので大丈夫だと伝えたら、尋ねることがなくなってしまったのか、昌治さんは静かになってしまった。
「……悪かった。早く寝て休め」
私の顔を見にきただけなんだろう。沈黙が気まずくなったのか昌治さんは床に手をついて立ち上がる。
「あ、あの、ちょっと待ってください!」
緊張で声が震えた。さっきの沈黙のときに言えばよかったものを、いざ昌治さんと向かい合ったら恥ずかしくて、視線が逸れてようやく自分から口を開くことができた。
昌治さんの静かな瞳が私を見下ろしている。
「お、お話が、あります……」
昌治さんはいつにも増して忙しい。ここでさよならしてしまったら、次に会えるのがいつかになるのかもわからない。
明らかに様子のおかしい私の様子に、昌治さんは怪訝そうにしながらも、さっきまで座っていた場所に再び腰を下ろした。
「……どうした」
問いかけてくる昌治さんの声はとても優しくて、緊張でガチガチになっていた肩の力が少しずつ抜けていくのを感じる。
「この指輪のことなんです」
指輪と聞いて、昌治さんの目が僅かに見開かれる。
それがどこか不安そうに揺れたのを、私は見逃さなかった。
……さっきまでずっと考えていた。どうやって伝えるのかを。
「耳を、貸してください」
「あ、ああ……」
そう言って昌治さんが私の方に体を向けた瞬間、私は左手で昌治さんの腕を掴んで、力一杯引いた。
「なっ……」
驚いた声を上げて、昌治さんがバランスを崩す。
昌治さんがこんなに動揺してるの、初めて見たかも。
「昌治さん」
こんなに顔が近いの、いつぶりだろう。
名前まで呼んじゃったけど、今になって恥ずかしくなってきた。
ああ、でもこの状況まで持ってきて恥ずかしいって、ただの言い訳だ。
……ここまできたら、やるしかない!
私は意を決して、何か言いたげに開かれた昌治さんの唇にキスをした。
すぐに離してしまった後で、ちょっと軽すぎたかなと思ってもう一度、今度は少し長めに唇を重ねる。
う、今さらだけど、普通に言葉でもよかったかな……でも、今見せられる覚悟ってこれくらいだし……昌治さんを、直視できない。
「……こ、これが返事です!これ以上言わせないでくださいっ!」
あれ?どこかで聞いたことある台詞を私も言っているなぁ……あのときの昌治さんも、こんな気持ちだったのかな。
自分で目を逸らしておきながら、私は恐る恐る昌治さんを盗み見た。
口元を押さえたまま、固まっている。
「しょ、昌治さん……?」
銅像みたいになってしまった昌治さんに声をかけたけど、聞こえていないみたいに反応がなかった。
腕から手を離してもう一度名前を呼んだら、ようやく瞬きをした。
「……いいのか?本当に俺で」
確かめるように私を見つめる昌治さんは、まるで信じられないものを見る目で私を見ていた。
私はゆっくり頷く。
だって昌治さん以外、考えられないから。
「昌治さんが、いいです。あの、これまではっきりしなくて、ごめんなさ……んっ!」
最後まで言い切る前に、今度は私の口が昌治さんによって塞がれた。それと同時に抱き締められて、私は身動きがとれなくなる。
けっこうきつく抱かれて正直ちょっと苦しい。でも、右腕の傷には触らないようにしてくれていて、そういうところは優しい。
同時に、誰かの心臓の鼓動を聞いた気がした。早鐘を打っていて、うるさいくらいだ。
それが昌治さんのものだと気付くのに時間がかかったのは、自分の心臓の音が同じようにうるさかったからで……
「俺も、楓がいい。俺の戻る場所にお前がいてくれれば、それだけで十分だ」
唇が離れて、昌治さんの熱を持った瞳と目が合った。私もきっと、同じ目をしてるんだろうなと思う。
「昌治さんが幸せなら、私も幸せです」
結婚とか、正直なところまだ実感はわかない。
でも、この人と一緒なら幸せになれると思う。今はそれでいいかな
----------
2章あとがき
ラブコメからかけ離れた注意書きの横行する第2章でしたが、ここまで読んで頂きありがとうございます。
あとがき長いですが、読み飛ばしても全く問題ありません。
2章について
内容がわりとハード(当社比)なので自分でも書くべきか悩みましたが、条野さんをサクッと退治される当て馬悪役キャラで終わらせたくなかったので、最初の構想を貫きました。
とりあえずヤバい人なのと同時に可哀想な人だったなと思っていただければ嬉しいです。
絶対的な運命の人という存在はいないと思っているので、二人の出会う順番が逆だったら展開も全く違って、きっと関係も逆になったと考えています。なのでヒロインが葛藤するのも当然かな、と。
順番次第ではある意味どちらも運命の人と言えるので。
最初の方の昌治さんの発言を考えると、昌治さんもヤンデレの気は十分にありますので、全く逆だったかも、なんて。
昌治さんの場合は手に入ったから完全に発症しなかっただけなのかもしれません。
ヤンデレは(2次元かつイケメン・イケおじに限り)好きですが、まさかここまでヤンデレ化するとはあまり考えていませんでした。
まあこの世の性癖の数だけ地雷はあると思っているので、好き嫌いは分かれまくるだろうなとわかってはいましたが……
あの地雷原を踏破し、春斗さんなんだかんだで嫌いじゃなかったという方は、こっそりとでも堂々とでも教えていただけると作者が超個人的に喜びます。実際大喜びしてます。
ですがヤンデレの台頭でメインヒーロー昌治さんの存在感がやや薄くなってしまったことが2章の反省点でもあります。
ちなみにいわゆる王道一途キャラ→岩峰昌治、ヤンデレ→条野春斗、ツンデレ→別作品のお料理組長というラインナップです。クールメガネとか末っ子系とかメンヘラとかオネエ系とか紳士とか出したい衝動にたまに駆られます。
本文ばりに長いあとがきになりました。あとがきは以上です。
第3章は基本ラブコメたまにシリアスなゆるっとした内容に戻ります。
例の如く、ストック確保のため少々お時間をいただきます。6月中旬までには再開しますので少々お待ちいただけますと幸いです。
ただの蛇足
文中(15話)にちらっと出てきた小説は、知っている人なら察しがついたかもしれません。夢野久作著『ドグラ・マグラ』です。とりあえず楓には小難しい本を読ませておこうというのと、好きに考察してください的な意味を込めてあれにしました。
人間失格とかこころ等の有名どころにしとくか迷いましたが、あの状況であれは気を病むなぁと。ドグラ・マグラも大概ですが。途中でやめたというのも一歩手前で止まった的な意味です。
読了していたらヒロインは完全にストックホルム症候群になっていた……かも?まあ、かなり長編なので作中の時間で読了は無理でしょうけど
疲れた様子で、他に痛むところはないか、と尋ねてくれる。痛み止めが効いているのかさして傷は痛くないので大丈夫だと伝えたら、尋ねることがなくなってしまったのか、昌治さんは静かになってしまった。
「……悪かった。早く寝て休め」
私の顔を見にきただけなんだろう。沈黙が気まずくなったのか昌治さんは床に手をついて立ち上がる。
「あ、あの、ちょっと待ってください!」
緊張で声が震えた。さっきの沈黙のときに言えばよかったものを、いざ昌治さんと向かい合ったら恥ずかしくて、視線が逸れてようやく自分から口を開くことができた。
昌治さんの静かな瞳が私を見下ろしている。
「お、お話が、あります……」
昌治さんはいつにも増して忙しい。ここでさよならしてしまったら、次に会えるのがいつかになるのかもわからない。
明らかに様子のおかしい私の様子に、昌治さんは怪訝そうにしながらも、さっきまで座っていた場所に再び腰を下ろした。
「……どうした」
問いかけてくる昌治さんの声はとても優しくて、緊張でガチガチになっていた肩の力が少しずつ抜けていくのを感じる。
「この指輪のことなんです」
指輪と聞いて、昌治さんの目が僅かに見開かれる。
それがどこか不安そうに揺れたのを、私は見逃さなかった。
……さっきまでずっと考えていた。どうやって伝えるのかを。
「耳を、貸してください」
「あ、ああ……」
そう言って昌治さんが私の方に体を向けた瞬間、私は左手で昌治さんの腕を掴んで、力一杯引いた。
「なっ……」
驚いた声を上げて、昌治さんがバランスを崩す。
昌治さんがこんなに動揺してるの、初めて見たかも。
「昌治さん」
こんなに顔が近いの、いつぶりだろう。
名前まで呼んじゃったけど、今になって恥ずかしくなってきた。
ああ、でもこの状況まで持ってきて恥ずかしいって、ただの言い訳だ。
……ここまできたら、やるしかない!
私は意を決して、何か言いたげに開かれた昌治さんの唇にキスをした。
すぐに離してしまった後で、ちょっと軽すぎたかなと思ってもう一度、今度は少し長めに唇を重ねる。
う、今さらだけど、普通に言葉でもよかったかな……でも、今見せられる覚悟ってこれくらいだし……昌治さんを、直視できない。
「……こ、これが返事です!これ以上言わせないでくださいっ!」
あれ?どこかで聞いたことある台詞を私も言っているなぁ……あのときの昌治さんも、こんな気持ちだったのかな。
自分で目を逸らしておきながら、私は恐る恐る昌治さんを盗み見た。
口元を押さえたまま、固まっている。
「しょ、昌治さん……?」
銅像みたいになってしまった昌治さんに声をかけたけど、聞こえていないみたいに反応がなかった。
腕から手を離してもう一度名前を呼んだら、ようやく瞬きをした。
「……いいのか?本当に俺で」
確かめるように私を見つめる昌治さんは、まるで信じられないものを見る目で私を見ていた。
私はゆっくり頷く。
だって昌治さん以外、考えられないから。
「昌治さんが、いいです。あの、これまではっきりしなくて、ごめんなさ……んっ!」
最後まで言い切る前に、今度は私の口が昌治さんによって塞がれた。それと同時に抱き締められて、私は身動きがとれなくなる。
けっこうきつく抱かれて正直ちょっと苦しい。でも、右腕の傷には触らないようにしてくれていて、そういうところは優しい。
同時に、誰かの心臓の鼓動を聞いた気がした。早鐘を打っていて、うるさいくらいだ。
それが昌治さんのものだと気付くのに時間がかかったのは、自分の心臓の音が同じようにうるさかったからで……
「俺も、楓がいい。俺の戻る場所にお前がいてくれれば、それだけで十分だ」
唇が離れて、昌治さんの熱を持った瞳と目が合った。私もきっと、同じ目をしてるんだろうなと思う。
「昌治さんが幸せなら、私も幸せです」
結婚とか、正直なところまだ実感はわかない。
でも、この人と一緒なら幸せになれると思う。今はそれでいいかな
----------
2章あとがき
ラブコメからかけ離れた注意書きの横行する第2章でしたが、ここまで読んで頂きありがとうございます。
あとがき長いですが、読み飛ばしても全く問題ありません。
2章について
内容がわりとハード(当社比)なので自分でも書くべきか悩みましたが、条野さんをサクッと退治される当て馬悪役キャラで終わらせたくなかったので、最初の構想を貫きました。
とりあえずヤバい人なのと同時に可哀想な人だったなと思っていただければ嬉しいです。
絶対的な運命の人という存在はいないと思っているので、二人の出会う順番が逆だったら展開も全く違って、きっと関係も逆になったと考えています。なのでヒロインが葛藤するのも当然かな、と。
順番次第ではある意味どちらも運命の人と言えるので。
最初の方の昌治さんの発言を考えると、昌治さんもヤンデレの気は十分にありますので、全く逆だったかも、なんて。
昌治さんの場合は手に入ったから完全に発症しなかっただけなのかもしれません。
ヤンデレは(2次元かつイケメン・イケおじに限り)好きですが、まさかここまでヤンデレ化するとはあまり考えていませんでした。
まあこの世の性癖の数だけ地雷はあると思っているので、好き嫌いは分かれまくるだろうなとわかってはいましたが……
あの地雷原を踏破し、春斗さんなんだかんだで嫌いじゃなかったという方は、こっそりとでも堂々とでも教えていただけると作者が超個人的に喜びます。実際大喜びしてます。
ですがヤンデレの台頭でメインヒーロー昌治さんの存在感がやや薄くなってしまったことが2章の反省点でもあります。
ちなみにいわゆる王道一途キャラ→岩峰昌治、ヤンデレ→条野春斗、ツンデレ→別作品のお料理組長というラインナップです。クールメガネとか末っ子系とかメンヘラとかオネエ系とか紳士とか出したい衝動にたまに駆られます。
本文ばりに長いあとがきになりました。あとがきは以上です。
第3章は基本ラブコメたまにシリアスなゆるっとした内容に戻ります。
例の如く、ストック確保のため少々お時間をいただきます。6月中旬までには再開しますので少々お待ちいただけますと幸いです。
ただの蛇足
文中(15話)にちらっと出てきた小説は、知っている人なら察しがついたかもしれません。夢野久作著『ドグラ・マグラ』です。とりあえず楓には小難しい本を読ませておこうというのと、好きに考察してください的な意味を込めてあれにしました。
人間失格とかこころ等の有名どころにしとくか迷いましたが、あの状況であれは気を病むなぁと。ドグラ・マグラも大概ですが。途中でやめたというのも一歩手前で止まった的な意味です。
読了していたらヒロインは完全にストックホルム症候群になっていた……かも?まあ、かなり長編なので作中の時間で読了は無理でしょうけど
32
あなたにおすすめの小説
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
虚弱なヤクザの駆け込み寺
菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。
「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」
「脅してる場合ですか?」
ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。
※なろう、カクヨムでも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる