お客様はヤのつくご職業

古亜

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3章

14.朝風呂とお酒3

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お風呂から上がった後、朝ごはんを食べてからは寝るなりテレビを見るなり好きにしていていいと言われたので、私は畳の上にごろんと寝転がってぼんやり外の景色を眺めていた。
昌治さんは浴衣に着替えて、なにやらスマホを確認しながらもう片方の手で私の頭を撫でている。
明らかに仕事っぽいので、私は邪魔にならないよう大人しくしていた。
そして用事が終わったのか画面から顔を上げた昌治さんと目が合う。

「……そういえば、さっきどうしてスーツだったんですか?」
「少し外に用事があった。まあ、気にするな。知り合いに会いに行っただけだ」

昌治さんの知り合い……?同業者さんでしょうか。あ、でもこのお宿は岩峰組の御用達って言ってたし、何かこう……会合的な何かに使われてたりするのかな。
気にするなって言われたし、深く聞くことでもないのでとりあえず頷いておいた。
そのまましばらく私の頭を黙って撫でていた昌治さんは、不意に立ち上がって備え付けの冷蔵庫の方に向かった。そしていつの間に入れたのか、日本酒の瓶を取り出してそれを徳利に注ぐ。
お猪口と徳利を手に卓に戻ってきた昌治さんは、手酌でそれを飲み始めた。

「……楓も飲むか?」

注いだ方がいいかな、なんて思って見ていたら昌治さんは微笑みながら徳利を軽く振った。
そういえば昌治さんと飲むって初めてかも、なんて思って起き上がって手を差し出したら、昌治さんは自分の膝の辺りをぽんぽんと叩いた。
……そこに座れってことですか。さっきお風呂でずっと乗ってたじゃないですか。
それに、さっきはお風呂だったから気にしないようにしたけど、今乗ったら浮力で誤魔化せないじゃないですか。運ばれといて今更だけど。

「昨日の夜にも乗っただろ」

……え、あ、あれはっ!別物っていうか、比較するものでもないと思う!なんで思い出させるんですか!
慌てる私を眺めながら昌治さんが妙に上機嫌だ。まさかもう酔ってるんですか。いや、昌治さんに限ってそれはない。前にちょっとお酒の匂いをさせながら私のところに来たとき、どれだけ飲んだのか尋ねたら結構な量だった。それでもわりと普通だったから、お猪口一杯で酔うはずがない。
恥ずかしがってるのは例のごとく私だけで、それがなんだか負けたような気がした私は、あぐらをかく昌治さんの脚の間に座った。昌治さんは背が高いから、私の頭の上に昌治さんの頭がくる。

「あー、可愛い」

そう言って昌治さんは私を後ろから緩く抱き締めた。
……やっぱり酔ってませんか?
とはいえ嫌というわけでもないので、私は卓の上に置いてあったお猪口を手に取って中を覗いた。
顔を近づけるとふわっと日本酒の甘い香りがして、飲みやすそうな感じだ。銘柄とか正直よくわからないけど、ちょっと口を付けてみる。

「結構甘めですね」
「だな。柳の孫に貰った、岡山の地酒らしい」

そういえば美香がお爺さんからお酒貰ったって言ってたな。美香と飲む予定だったのに、なぜこうなった。

「……楓は、普段飲むのか?」
「いえ、あんまり。飲み会以外では飲まないです」

美香はよくお風呂上がりにチューハイを飲みながら深夜のアイドル番組を鑑賞していたりするらしいけど、私は特に何もなければ飲まないかな。

「昌治さんはよく飲んでそうですけど」
「まあ、付き合いもあるからな。それに酒は嫌いじゃない」
「昨日の夜は飲んでなかったですよね。女将さんに勧められてませんでしたか」

配膳が終わってから飲み物をどうするか言われた時に、お茶でいいって言ってたんだよね。私はそんなに飲む習慣とかないから不思議に思わなかったけど、お酒好きなら昨日のあの夕ご飯にはお酒欲しくなるんじゃ……

「久々にお前の身体を味わうのに、酔っ払ってたら勿体ないだろ」
「……え」

思考が一旦停止した私の手からお猪口を奪った昌治さんは、それを一息で煽ってまたお酒を注いだ。

「ほんと昨日のお前可愛いかった」
「昌治さん酔ってます?」
「この程度で酔うわけねぇだろ。なんなら、確かめてみるか?」

私の顔を覗き込む視線がやんわり熱を帯びている。
誘うように昌治さんは私の耳に息を吹きかけ、反応を見て楽しんでいた。
なんだろう。この遊ばれている感じは。嫌じゃないなーとか思ってしまってる私も私だけど!
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