お客様はヤのつくご職業

古亜

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3章

44.ヤクザさんとプレゼント1

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ああ、そわそわする。
私は机の上に置いた紙袋をひたすら無言で見つめていた。
今日は昌治さんの誕生日だ。
だから今日の昼に百貨店に行ってプレゼントを買ってきたはいいけど……自分の父親以外の男の人にプレゼントとかあげたことがないから、どういうのがいいのかとか全然分からなかった。
しかも昌治さんの場合、欲しいものとか必要なものは自分で買えてしまうと思う。かといって手作りの何かを作るとかそんな技量はない。というか素人の手作りもらっても嬉しいだろうか。
そんなこんなで売り場を行ったり来たりして店員さんに顔を覚えられ、最終的に無難なハンカチとネクタイに落ち着いてしまった。ネクタイピンとかカフスボタンとか小洒落たものの方がよかったかな。
今さら悩んでも仕方ないけど……妙に緊張する。

「そんなに心配しなくても、楓様からのプレゼントでしたらなんでも喜ぶと思いますよ」

紙袋とにらめっこをしている私を生温かい眼差しで見下ろしながら大原さんは言った。

「そうかもしれませんけど、やっぱり気になるんです」
「大丈夫ですって。こんな業界ですから、普通に祝われるだけでも嬉しいですよ。むしろ若頭本人が忘れてるくらいじゃないですか?」
「それもそれで寂しいですけど……ああでもその方が気負わなくて気楽かも」
「いや、気負う必要ありませんって。なんなら、楓様からいただけるものならティッシュでも肩叩き券でもなんでも喜びますよ」
「……やっぱりそういう手作りの方がいいんでしょうか」
「そうとは言ってませんよ?」

若干どころか結構呆れられてる気がする。でも、どうしても心配になってしまうんだ。私にできることって小さいんだなと痛感する。

「別にものにこだわる必要はありませんよ。楓様に何かしてもらえるだけで若頭にとっては十分なんですから」

そうは言って貰えるけど、そして実際そうなんだろうけど……

「そんなに心配でしたら今から何か買いに行きますか?若頭が戻ってくるまでまだ少々時間はありますし」
「いいかもしれないですけど、その……予算が……」

夏休みにバイトして貯めたお金だけど、ハンカチもネクタイもそれなりのを買ったら結構な額になってしまった。この水準に合わせてまた何か買おうとしたら、大幅にオーバーしてしまう。

「俺も出しますから安心してください」
「それはさすがに……組のお金でプレゼント買うっていうのはちょっと」

昌治さんたちが稼いだ?お金で昌治さんへのプレゼントを買うっておかしくないかな。でも、となると残されているのは……何か急いで作る?クッキーとかプリンとかは今から材料揃えて間に合うかわからないし、そもそもケーキは用意してあるんだよね。甘いのに甘いのは、昌治さんそこまで甘党じゃないし、むしろ辛党だもんなぁ……
今から追加できそうなもの、プレゼントっぽいもの……

「肩叩き券?」

さっきちらっと大原さんが言った、小学生が父の日に渡していそうなそれが、なんだかすごく現実的に見えてきた。
肩叩き10分の6枚綴りでいいかな。それをさらに2枚くらい?どうしよう全部一気に使われたら。3時間は私の方の肩が駄目になりそう。まあ、昌治さんはそんなことしないだろうけど。
よし、もういっそのことネタに走ってしまおう!笑われたらそれはそれでよし。反応が微妙だったら……いや、そっちは考えるのよそう。きっと何かしらの反応はしてくれるはず!

「今から作ります!」

紙とペンをください、と大原さんにお願いして、私は机に向かった。なんだか紙が肩叩き券に使うようなチープな紙じゃない気がするけど、縁に箔押しとかしてあるけど、使えと言われた以上はこれ使うしかないのかな?とりあえず今から3冊分作るんだ。頑張ろう。
そんなこんなで書き続け、2冊目が完成した。枠線引いたりちょっとしたイラスト描いてみたり、途中何度か私は今一体何をしているのかという葛藤に襲われたけど、とりあえずあと1冊。ここまできたら書き切るしかないよね!
そして3枚目の紙を手に取って線を引いていたときだった。
ずいぶん前に部屋から出ていっていた大原さんが、なにやら慌てた様子で戻ってきた。
いつもなら入りますとか言ってくれるのに、それもなくいきなり襖が開いて私はびっくりして引いていた線が斜めに入ってしまう。

「ど、どうしたんですか?」

ただ事ではなさそうだ。嫌な予感がして私は書き損じたそれをくしゃっと握る。
大原さんはよっぽど焦っているのか、冷や汗のようなものが頭を伝っていくのが見えた。

「……楓様、落ち着いて聞いてください」

大原さんはそこで一旦息を吸う。一呼吸空けて、大原さんは再び口を開いた。

「若頭の行方がわからなくなりました」

カタンと音を立てて手にしていたペンが机の上に落ちた。書き終わっていた肩叩き券にペン先が落ちて、赤いインクの線が入ってしまった。
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